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試合中に起こった悲劇…グラナダのソシオが観戦中に命を落とす

2023.12.13

 最初は何が起きているかわからなかった。

 12月10日のラ・リーガ第16節グラナダvsアスレティック・ビルバオの17分、ボールがサイドラインを割って試合が止まった時に、GKウナイ・シモンが副審のところへ行き、スタンドを指さしながら何かを訴えている。

試合の延期が意味するものとは

 その数分前からブーイングが起きていた。人種差別チャントでもあったのか、と思ったらそうではなかった。まずグラナダベンチの医師2人、次にアスレティック・ビルバオの医師2人がグラウンドを横切ってスタンドに駆け上がり、酸素ボンベと担架を持った救急隊員2人が続いた。

 誰かが倒れたのだ、と気が付いた。取材している試合で興奮した人がスタンドから落ちたり、気を失ったりといった場面に出会うことは初めてではない。だが、ベンチから医師が駆けつけるのは見たことがない。ラジオ中継のアナウンサーから、倒れた観客が心肺停止状態にあることが告げられた。

 昨年のカディスvsバルセロナの試合でも、ゴール裏でお客さんが気を失い、試合が一時中断したことがあった。カディスのGKレデスマがAED(自動体外式除細動器)をゴール裏に投げ込んだり、ホセ・マリが担架を運んだりしたほど緊急性が高いものだったが、幸い蘇生に成功し、救急車で運ばれて行った時点で試合再開となった。

 だが、こちらグラナダでは救急車がやって来ても中断が続いていた。容態が安定しないと移送はできないとのことだ。ボール回しで体を冷えないようにしていた選手たちはすでにロッカールームに引き上げていた。1時間以上中断の後、試合の延期が正式に決まったが、それは蘇生に成功しなかったことを意味していた。延期のアナウンスでこのことを察した2万人ほどのお客さんからは、自然に追悼の拍手が起こった。

AEDは完備されていたが……

 亡くなった高齢の男性はグラナダのソシオで、癌との闘病を続けながらも、ホームゲームには欠かさず訪れていたという。奥さんの「スタジアムで死ねるのなら本望だったはず」という言葉がせめてもの慰めだ。

 試合は翌11日に再開され、1-1で終了した。

 選手たちは黒いユニフォームで登場し、両キャプテン、アントニオ・プエルタスとイケル・ムニアインが彼の指定席に花束をたむけるセレモニーがあった。

 スペインサッカー連盟の規定によれば、中断と延期には「不可抗力」「グラウンド状態」「チームの人数が6人以下になった時」「ファウルの多発」「観客のアクシデント」という要件があり、今回の件はこの最後に当てはまる。ここ10年ほどで救急への意識が高まって試合中は医師が待機しており、スタジアム内のいたるところにAEDが設置されたのだが、それでも不幸は防げなかった。


Photo: Getty Images

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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