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出身国と現地表記が混在するカオス。「選手名カタカナ表記審議会」って何?

2022.09.07

我われ海外サッカー雑誌の編集部を悩ませるのが「選手名のカタカナ表記問題」だ。ムバッペなのかエムバペなのか、スナイデルなのかスナイダーなのか、ソルスケアなのかスールシャールなのか。フットボリスタでは現地表記を優先するようにしているが、その選手の出身国では別の読み方だったり、移民系で名前のルーツは別の国にあったりと一筋縄ではいかない問題だ(そういえば最近、ナポリに名前が読めない選手が出てきた……)。Twitter上で、そんな難問をディスカッションして楽しんでいる酔狂な団体があるという。どうやら世界中でプレーされているサッカーは、言語学の視点からも興味深い題材のようだ。

 皆さん、こんにちは。選手名カタカナ表記審議会のschumpeterです。普段は会計、ファイナンス、経営などの切り口から記事を寄稿していますが、今回はまったく畑の違う「言語」というテーマで記事を書いています。

 皆さんは「選手名カタカナ表記審議会」という組織をご存知でしょうか。Twitterで目にされた方もいらっしゃるかもしれません。本審議会は、『footballista』でも記事を寄稿されているsake氏が4年ほど前に設立したコミュニティです。外国人選手の名前のカタカナ表記について「現地の発音、日本語の発音と通俗との間で遊ぶ」ことをその目的としています。具体的には、「現地の発音をできるだけ尊重した形のカタカナ表記とすること」および「通俗的な日本語表記に一定の配慮を払うこと」を審議会の理念としています。

 組織構造としては言語ごとに部会を持っており、私はイタリア語部会の部会長として日々活動しています。委員は常時募集しておりますので、連絡をお待ちしております。先日ついに入会を希望される方をTwitterで拝見して小躍りして喜んでいたところです。

 では、実際に本審議会で話題になった興味深い事例を以下で取り上げていきましょう。イタリア語に関わる事例が多いですが、ご容赦ください。

Pellegrini = Heinze問題

 これはsake会長によって提唱された問題で、ある言語において、それとは異なる言語に由来する選手の名前をどのように発音するのかというテーマを扱っています。その代表的な事例であるイタリア系チリ人Manuel Pellegrini(現ベティス監督)とドイツ系アルゼンチン人のGabriel Heinze(元アトランタ・ユナイテッド監督)の姓からその名がとられました。実は、チリとアルゼンチンの公用語であるスペイン語において、イタリア語のPellegriniとドイツ語のHeinzeはスペイン語の規則の通りに発音されていません。

 最初にPellegriniについて取り上げますと、本来、スペイン語の”ll”は地域差がありますが日本語のジャ行の音に近いので、「ペジェグリーニ」と表記されがちです。しかし、Pellegriniはローマとフランクフルトにも同姓のイタリア人選手がいることからもわかるようにイタリア語の姓であるため、そこに含まれる”ll”はイタリア語の音を尊重します。イタリア語の”l”は英語の”l”と同じ音で、スペイン語でも”l”が1文字であれば音は同じです。イタリア語では同じ文字が2文字並ぶと、その子音を長めに発音する(長子音と呼びます)ため、「ペッレグリーニ」と聞こえます。ただし、スペイン語に長子音はなく単に”l”だけ発音するので、「ペレグリーニ」と表記した方がよいと思われます。

2020-21シーズンからベティスを指揮しているPellegrini監督

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schumpeter

2004年、サッカー雑誌で見つけたミランのカカを入口にミラニスタへ。その後、2016年に当時の風間八宏監督率いる川崎フロンターレに魅了されてからはフロンターレも応援。大学時代に身につけたイタリア語も活かしながら、サッカーを会計・ファイナンス・法律の視点から掘り下げることに関心あり。一方、乃木坂46と日向坂46のファンでもある。