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セットプレー専門コーチが続々台頭!プレミアで勝負を分ける“チームゴール”への注力

2022.03.12

 終盤戦に入った今季プレミアリーグでは、マンチェスター・シティとリバプールが優勝を争い、チェルシーが残るCL出場権2枠を巡るトップ4争いをリードしている。3月上旬の28節終了時点でトップ3を占める3チームには、ボール支配力の他にも攻撃面での共通点が1つ。セットプレーによる得点力だ。間接FK、CK、スローインからの得点ランキングでも、プレミアの今季トップ3に顔をそろえている。

セットプレー観が変わりつつあるイングランド

 セットプレーからのゴール自体には減少傾向が見られた。昨季は20チーム合わせて197得点と、過去10年間で初めて200台を割っている。しかし、レベルが上がれば上がるほど、細かな違いが勝敗を分けることになるのが勝負の世界。その差異を生み出す手段として、楽勝カードなどないと言われるリーグに属するプレミア勢がセットプレーに目を向けても不思議はない。リーグ順位で、上からシティ、リバプール、チェルシーと並ぶ3チームは、セットプレー重視奏功の代表例だ。

 15得点(消化27試合)でランキング首位のリバプールは、アメリカのプロスポーツ界さながらにチームスタッフの専門化が進むクラブの代表格でもある。監督のユルゲン・クロップ自身が、わずかだが実は大きな違いをチームにもたらすべく、新たな領域に足を踏み入れる勇気の持ち主。軽く20名を超えるスタッフを配下に抱え、必要に応じてスペシャリストが指導に招かれる。選手のスタミナにも影響する効果的な呼吸法に関してプロサーファーにアドバイスを求めたこともあれば、セットプレーに関しては、スローイン専門のコーチや、プレースキックを担当する選手の精神状態を最適化するために神経科学者まで雇用している。

 ひと昔前までのプレミアでは、セットプレーからのゴールと言えば、デイビッド・ベッカムとポール・スコールズのようなデリバリーとボレーの達人コンビによる名作でもない限り、得点が評価されるよりも、安易な失点として守備が批判される場合が多かった。チームでの指導も、助監督とGKコーチが「ついで」に担当していた程度。それが今では、スタッフも含めた見事な“チームゴール”として理解されるようになってきた。

2003年3月25日のブラッドフォード対マンチェスターUで、スコールズが突き刺したスーパーボレー(5:45~)。ベッカムが送ったゴールから遠ざかっていくCKの先で待ち構え、カンフーキックのごとく右足を振り抜くと、ペナルティエリア外から強烈なダイレクトシュートを沈めてみせた。マンチェスターU公式YouTubeチャンネルが選出した“スコルジー”のゴールトップ10でもベスト3にランクインしている

トップ4に表れる成果。取り組み方は四者四様

 その好例が、今季CL16強でのインテル・ミラノ戦第1レグ(○0-2)で、ロベルト・フィルミーノがヘディングで決めたリバプールの1点目だ。75分、後半からピッチに立ったFWがニアポストでアンディ・ロバートソンのCKに頭で合わせたゴールは、試合が行われた2月後半時点での過去7勝のうち6度目のセットプレーによる先制点。前半からボックス内中央かファーサイドにCKやFKを放り込んでいたリバプールは、目先を変えてニアサイドにフィルミーノを走り込ませている。試合後の指揮官が「ピート(ペーター・クラビーツ)とアナリストたちの手柄だ」と認めたように、助監督と分析チームがインテル守備陣の弱点と判断して対戦前日に取り組んだセットプレーによる1点は、立ち上がりから苦しんでいた形勢を変える重要な先制ゴールだった。

CLラウンド16第1レグ、インテル対リバプールのハイライト動画。フィルミーノの技ありヘディング弾は1:16から

 13得点でランキング2位のシティでは、ペップ・グアルディオラがセットプレー戦術でもパイオニア的な監督だ。サッカー以外のスポーツ部門を持つバルセロナの元監督は、ハンドボールやバスケットボールで見られる組織的なブロックを、初めてサッカーの世界でセットプレーによる攻撃に取り入れた指導者の1人だと言える。

 シティでは、3年ほど前にセットプレーコーチとしてスタッフ入りしたニコラ・ジョバーのインプットも得られるようになってセットプレーの改善が進んだ。今季からは、昨夏にU-18チームのコーチから昇格したカルロス・ビセンスが担当しているが、グアルディオラが冗談で「相手のセットプレー対策は祈ること」と言ったこともあるほど小柄な選手が多いチームは、セットプレーでのリーグ戦失点を「1」に抑える一方で得点を重ねている。

 ジョバーが抜けた理由は、シティでコーチ陣の1人だったミケル・アルテタが指揮を執るアーセナルによる今夏の引き抜き。まだ新任地での日は浅いが、無得点の計9失点で3連敗と開幕で躓いたチームが28節ではリーグ4位に浮上する過程で(消化25試合)、新セットプレーコーチ就任の効果が見え始めている。セットプレーに関するランキングでは、9得点は8位で、シュート数94本も10位というレベルではあるが、昨季は20チーム中17位の6得点と18位の110本でシーズンを終えているのだから明らかな進歩だ。……

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Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。在住も20年を超えた西ロンドンが第二の故郷。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。