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クリアソン新宿、いざJFLへ。選手主導の地域密着が作り上げた風景

2021.12.20

関東リーグ1部、そして地域CLを制したクリアソン新宿が、その勢いのままにJFL最下位のFC刈谷との入れ替え戦を制して、JFL昇格を決めた。このクラブの挑戦を追い続ける宇都宮徹壱氏に、紆余曲折の末に成し遂げた2021シーズンの昇格劇の背景を解説してもらおう。

 終わってみれば、クリアソン新宿の圧勝だった。

 12月18日、愛知県の名古屋市港サッカー場で行われた、JFL17位のFC刈谷と地域CL1位のクリアソン新宿による入れ替え戦。クリアソンに先制点が生まれたのは、45+1分だった。左サイドからの瀬川和樹のクロスに、岡本達也が頭で落として池谷友喜が右足でネットを揺らす。その2分後、瀬川のCKからキャプテンの井筒陸也がヘディングで決めて2点目。前半終了間際の2ゴールで、クリアソンの優位は揺るぎないものとなった。

新宿の昇格と刈谷の降格は「総合力の差」

 今回の入れ替え戦はクリアソンにとって、極めて不利なレギュレーションとなっていた。JFL側での一発勝負。90分で同点の場合は15分ハーフの延長戦が行われるものの、ドローに終わった場合はJFL側の残留が決まる。

 「引き分けでもOK」の刈谷にしてみれば、自陣に引きこもるという選択肢もあっただろうが、前に出て相手のパスの出どころを潰すことを選択。しかし前半で2失点、後半は迷いの中でさらに2失点を喫する。

 結果は4-0。大勝したクリアソンが来季のJFL昇格を決め、敗れた刈谷は1シーズンで東海リーグに出戻ることとなった。あくまで結果論ではあるが、あまり意義を見出しにくい入れ替え戦だった、というのが取材を終えての率直な感想である。

JFL・地域リーグ入れ替え戦、FC刈谷対クリアソン新宿のフルマッチ動画

 今季の刈谷は、4勝6分22敗でJFLではダントツの最下位。対するクリアソンは、最もコンペティティブな関東リーグと過酷な地域CLを制し、この入れ替え戦の挑戦権を得ていた。前回の地域CLで、刈谷は2位となって12年ぶりにJFL復帰を果たしているが、実は昨シーズンの東海リーグはコロナ禍で開催されていない。よってトーナメント2試合に勝利して、彼らは地域CL出場権を得ていた。

 短期決戦には勝てても、JFLの長いシーズンを戦い抜く力はなかった刈谷。レギュラーシーズンと地域CLの両方で優勝したクリアソン。1年間の両者の歩みを見れば、どちらが来季のJFLを戦うに相応しかったか、明らかであろう。

 ちなみに今回の入れ替え戦を臨むにあたり、クリアソンの選手たちは「まだ昇格していないのにJFLチームと対戦できる!」とか「このチームであと1試合戦える!」などと、ポジティブに捉えることができていたそうだ。プレッシャーのかかる試合で、こうしたマインドセットができるのも、彼らの強みであると言えよう。

関東リーグでの11連勝と初めての地域CL出場

 とはいえクリアソンは、今季の関東リーグを楽々と制したわけではない。昇格まであと一歩だった栃木シティFCをはじめ、VONDS市原FCやブリオベッカ浦安など、関東1部には強豪がひしめいていた。まずはキャプテンの井筒に解説してもらおう。……

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クリアソン新宿宇都宮徹壱文化

Profile

宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。2010年『フットボールの犬』(東邦出版)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、2017年『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)でサッカー本大賞を受賞。16年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(https://www.targma.jp/tetsumaga/)を配信中。

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