SPECIAL

日本サッカーに根づく「中重心」とは何か。 岩瀬健と考えるポジショナルプレー(前編)

2021.09.30

9月上旬、「フットボリスタ・ラボ」で開催したオンラインイベントに、元大宮アルディージャ監督の岩瀬健氏が登壇。柏レイソルでアカデミーダイレクターやアカデミーヘッドオブコーチングを歴任し、大分トリニータではトップチームヘッドコーチも務めた経験豊富な指導者と、育成からプロまでの幅広い現場の目線で日本サッカーとポジショナルプレーの親和性を考えてみた。前編では恩師との出会い、「中重心」と「外重心」という考え方、そして5レーンのジレンマについて語ってくれた。

ポジショナルプレーの源流はオランダサッカー

浅野「まずは岩瀬さんの自己紹介からお願いします」

岩瀬「岩瀬健と申します。今年46歳です。28歳までサッカーを現役でやっていて、それから指導者になって18年です。指導したチームは、浦和レッズ、柏レイソル、大分トリニータ、大宮アルディージャの4クラブで、小学生からトップチームまでいろいろなカテゴリーで指導させていただきました。アカデミーダイレクターや、ヘッドコーチもやったことがあるので、いろんな観点で何かみなさんの気づきのきっかけになることをお伝えできればと思っています。よろしくお願いします」

浅野「今回のテーマは『日本サッカーとポジショナルプレー』です。岩瀬さんご自身はキャリアのどこでポジショナルプレーを知りましたか?」

岩瀬「僕が最初にポジショナルプレーに触れたのは1998年、選手の時にピム・ファーベックというオランダ人監督がやってきて、攻守において自分たちのポジショニングを示していました。今振り返ってみると、まさにポジショナルプレーのような考え方でした。そこは当時の日本サッカーでは、かなり異質に映っていたと思います。昔は育成の現場でも少人数のゲームをやる時に、システムを提示しない指導者の方もいました。例えば7対7だったら、[2-3-2]と相手が[3-3-1]のように決める人もいたし、決めない人もいたという具合です。その割合が10年前だと僕の感覚で半々くらいですね。なので11対11じゃないのにシステムを決めるのかと言われたことあります。でも、今の育成現場では7対7や8対8をやる時に、リラックスしたゲームでなければ、基本的に自分たちの立ち位置を決めると思うので、そういう意味でも、ここ10年間は異常なスピードでポジショナルプレー的な考え方が入ってきていると感じます」

浅野「これからフットボリスタWEBで公開する予定の中村順さん(大宮アルディージャアカデミーダイレクター)のインタビュー記事の1つのテーマが、まさに『欧州で知ったサッカーの解釈とピムとの出会い』という話で、中村さんも凄く感銘を受けたようです」

岩瀬「中村順さんには、本当にお世話になっていますし、98年にピム監督と出会えたことで、最初にオーガナイズされたサッカーに触れることができた僕は、とてもラッキーだったと思います。そのポジショナルプレーのようなものから、もう10年、20年経ち、発展してもっとすばらしい考え方になった。『自由にサッカーやれ』、『好き勝手動け』ではないサッカーを98年から知ることができた。そういう時代からすると、ポジショナルプレー的な考え方は圧倒的に日本サッカーの現場に入ってきていると思います」

浅野「ポジショナルプレーはもともとオランダのヨハン・クライフの思想が源流ですよね。ペップ・グアルディオラもクライフの愛弟子なので、オランダサッカーに源流があると僕も思います」

岩瀬「そうですね、クライフの思想やオランダサッカーに影響を受けた監督も多いと思います。少し前で言えば、『5レーン理論』って考え方も面白いですよね。渡邉(晋)監督も自分の本の中で話していましたけど、昔から指導者の頭の中に似たようなアイディアはあったと思うんです。ただ、それをピッチ上に可視化して言葉や概念として浸透させていった監督の方々は、本当にすごいなと思いますね」

ポジショナルプレーにはヨハン・クライフやピム・ファーベークら、オランダ人指導者の思想が色濃く反映されている

「中重心」↔「外重心」をフラットに考えられるか

浅野「ペップもバルセロナで監督をやっていた頃はそれほど自身のサッカーの言語化はしていなかったと思います。彼がドイツに行ってバイエルンを率いるようになり、異なる文化圏の選手に教える必要に迫られる中で、急激に彼の考えが言語化され、言葉が広まった感じですよね。岩瀬さんご自身はポジショナルプレーをどのように捉えられていますか?」

岩瀬「僕の考えるポジショナルプレーは、お互いのポジショニングを味方同士で共有していることで、様々なメリットがでてくるということですね。違う言葉で言えばオーガナイズされたサッカー。チーム対チームで戦うという概念の一つとして僕は捉えています」

浅野「ポジショナルプレーから出てきたサッカー用語である『ハーフスペース』という言葉も、今ではDAZNの解説や選手のコメントに出てくるようになりました。ポジションなど立ち位置を重視するサッカーは特にJリーグでかなり意識されるようになってきたと感じますが、現場での肌感覚としてはいかがですか?」

岩瀬「増えていると思います。立ち位置を考えてプレーしたり、監督が何か提案したりということは、だいぶ浸透していると思います」

浅野「日本サッカーでは先日のカタールW杯アジア最終予選、中国対日本でもそうでしたけど、攻撃が中央に寄り、狭いエリアでの連携で崩すことにこだわりがちです。連携するためにボールに寄ってプレーする傾向があるので、サイドに必ず人を置いて相手の守備を広げるといったポジション・オリエンテッドな考え方は馴染みにくい面もあります。岩瀬さんはポジショナルプレーの考え方と、日本サッカーの相性についてはどう感じていますか?」……

残り:2,978文字/全文:5,363文字
この記事は会員のみお読みいただけます

会員登録はこちら

プレミア会員 3つの特典

雑誌最新号が届く

会員限定記事が読める

会員限定動画が観られる

「footballista」最新号

フットボリスタ 2021年11月号 Issue087

【特集Ⅰ】 シティ・グループ、RBグループに続く新勢力が続々と…「派閥化」するフットボールの世界 /【特集Ⅱ】 All or Nothing ~アーセナル沼へようこそ~

10日間無料キャンペーン実施中

TAG

岩瀬健戦術文化

Profile

フットボリスタ・ラボ

フットボリスタ主催のコミュニティ。目的は2つ。1つは編集部、プロの書き手、読者が垣根なく議論できる「サロン空間を作ること」、もう1つはそこで生まれた知見で「新しい発想のコンテンツを作ること」。日常的な意見交換はもちろん、ゲストを招いてのラボメン限定リアルイベント開催などを通して海外と日本、ネット空間と現場、サッカー界と他分野の専門家――断絶している2つを繋ぐ架け橋を目指す。