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ボードゲーム由来の新しい分析法―― ZOCとスペース占有の概念

2021.08.04

TACTICAL FRONTIER

サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか? すでに世界各国で起こり始めている“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。

※『フットボリスタ第85号』より掲載。

 フットボールというスポーツを、それぞれの駒を戦略的に動かしていくボードゲームにたとえることは少なくない。ヴィッセル神戸でも活躍した元ドイツ代表ストライカー、ルーカス・ポドルスキは「フットボールは、サイコロがないだけのチェスのようだ」とコメントしている。実際のフットボールは敵味方11人ずつが動き回る複雑なスポーツだが、ボードゲームの概念に基づいて解析を進めようとする研究も存在している。今回は「ZOC」というボードゲーム発の概念を、どのようにフットボールの分析に活用すべきかを考えていこう。

「支配地域=ZOC」と、その特性

 ZOC(Zone of control)は、直訳すると「支配地域」となる。ボードゲームの世界で使われることが多いZOCという概念は「各ユニットが持つ影響力が及ぶ範囲」を意味している。

 それぞれの部隊となる駒を動かしていく戦争ゲームでは、「支配地域」が敵部隊の移動や退却・補給を妨害する効果を持つ。これを実際の戦争でイメージすると、ある部隊が存在する場合「周囲の一定地域」まで影響力は及ぶ。例えば周辺地域には偵察部隊を派遣することが多く、いくつかの小部隊に分割されて広いエリアに散開するパターンもある。

 おそらく戦争ゲームにおいて、この概念が与える重要な影響として「戦線を張る」ことが可能になることだろう。当然、侵入を防ぎたいという目線では横方向に支配地域を広げていきたい。そうなれば、戦線の背後に侵入しようとする相手は長い距離を移動しなければならなくなるからだ。しかし、逆に戦線を広げようとすると間に隙が生じやすくなる。これは、網をイメージするのが良いかもしれない。網目を広げることで覆うエリアは広がるが、結果的に広がった網目から侵入されるリスクが生じる。つまりフットボールと同様に、支配地域で「戦場のすべてをカバーすること」は不可能だ。だからこそ、どのように戦略を練るかが鍵になっていく。

 この概念は、フットボールの世界にも応用可能だ。実際、フットボールの学術研究においても「距離感」と「位置関係」は欠かせないトピックになっている。複数の選手が連動して組織的にユニットを形成することで、プレッシングやゾーンディフェンスは成立している。こうした特定のポジションをコントロールする確率を数値化したモデルを「ムーブメント・モデル」と呼ぶ。伝統的なムーブメント・モデルにおける、最大の問題は非現実的な仮定に基づいていたことだ。それは、どのような仮定だろうか? 多くの研究者は、2000年代前半にはムーブメント・モデルを使用することの有用性に言及している。しかし、大半の研究は「すべての選手が同じようなスピードで動くこと」を前提としていた。

 だからこそ、1つの重要な分岐点としてZOCが注目されることになる。結果的にボードゲームの駒がそれぞれ別の特性を有するように、選手の能力や特性には個人差がある。それゆえに、選手の個人差をベースにしたZOCの思想が、有意義であると考えられるようになったのだ。……

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ZOCエンゴロ・カンテデータ分析

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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