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ミニチュア版バイエルンの奇跡…FCズュートティロールがセリエBへ

2022.05.05

 「イタリアにおける小さなバイエルンのようなクラブ」と国際的な評価を受けた3部のクラブがある。今シーズン、クラブ史上初のセリエB昇格を決めた、北部ボルツァーノをホームとするFCズュートティロールだ。

勝点90、失点はわずかに9

 セリエCは60チームが参加して3つのグループに分かれて戦い、各グループの首位3クラブがセリエBへの自動昇格を決めるが(残り1枠は27チーム参戦で行われるプレーオフの優勝クラブに回る)、ズュートティロールはユベントスU-23などと同グループのジローネAに参戦。パドバの追撃を振り切り、勝点を90に乗せて首位となった。失点9は、イタリアのプロリーグとしては歴代最少失点記録だ。

 発足は1995年。歴史は比較的新しいながらも、地方アマチュアリーグから勝ち上がり2001-02シーズンにはセリエC2(当時4部)に昇格。その後は3部、4部への昇格、降格を繰り返し、近年はプレーオフの常連となっていた。

 ドイツ語とイタリア語を公用語とする都市をホームとし、ドイツ語を正式名とするクラブは、トレンティーノ・アルト・アディジェ州に属するクラブとしては初めてセリエB以上のプロリーグに挑戦することとなった。

近代的な練習場を完備

 このクラブにスペイン一般紙の「エル・パイス」が注目した。5月2日に「ズュートティロールの奇跡。バイエルンのミニチュアだ」と見出しをうち、「アルト・アディジェ州民の平均所得はドイツ国民のそれを上回る。この地ではドイツ語、イタリア語、ラディーノ語が話される。かつてムッソリーニは強制植民によってこの地のイタリア語化を図ろうとしたが、このクラブは『スタジアムでは3つの異なる言語が応援で1つになる』と声高に訴える」と称賛した。

 そしてバイエルンとの類似点として「運営は完璧で経営は質素(選手の年俸も10万ユーロ以下に抑えており)、森林の間に素晴らしい練習施設を備えている」と、堅実経営並びに練習施設を真っ先に整備したモダンな運営体制を挙げた。

 ズュートティロールは予算のうち30%を下部組織の運営に充てており、そのために練習場の整備を優先した。FCSセンターは2018年に完成した近代的なもので、トップチームや複数の下部組織が練習する他、ファンショップやレストランなども完備し、ロシアW杯前にはドイツ代表も合宿地として利用した。

 セリエB昇格を勝ち取ったチームのうち、主将のファビアン・テイトをはじめとした4人の主力は地元出身だ。地域に根ざした近代経営で力をつけたズュートティロールはレギュラーシーズン終了後、スーペルコッパ・セリエCに挑み、ジローネB、Cの勝者であるモデナ、バーリと総当たりで対戦中。

 4月30日のバーリ戦で先勝しており、5月14日のモデナ戦に勝利すればセリエC年間最優秀チームの称号を得ることになる。


Photo: Getty Images

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Profile

神尾 光臣

1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。

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