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エンソ・フェルナンデスの炎上、差別問題に発展したアルゼンチンの“ある習慣”について考える

2024.09.30

921日に行われたアルゼンチン1部リーグ第15節で、宿敵ボカ・ジュニオルスをアウェイで倒したリーベルプレートの選手たちは、ピッチ上で飛び跳ねながら「死んでしまったボカに1分間の黙祷を」と歌って勝利を祝った。つい先日、隣国ウルグアイの名門ナシオナルのフアン・イスキエルドが試合中に倒れて亡くなる悲劇があったばかりだというのに、黙祷を真似る行為が嘲笑目的で使われることに抵抗を感じた私は、2カ月前に起きたエンソ・フェルナンデスの動画騒動を思い出した。

スポーツ省次官は批判して失職、副大統領の擁護に広がる波紋

 今年7月、アルゼンチン代表がコパ・アメリカ連覇を達成した後、エンソ・フェルナンデスがInstagramで流した動画が「アフリカ系フランス代表選手たちに対する差別」であると厳しく批判され、大きな問題となった。

 事の経緯を簡単にまとめると、コパ優勝後、宿泊地に戻るバスの中でチームメイトたちと歌いながら祝福する様子をエンソがライブ配信。歌の中にはアフリカ系フランス代表選手を侮辱する意図のあるものが含まれており、気づいた視聴者が動画の一部を保存してX(旧Twitter)で拡散。たちまちエンソが所属するチェルシーサポーターの間で反感を買い、同クラブのチームメイトであるウェスレイ・フォファナが差別行為への不満を示すメッセージを投稿した上、エンソのInstagramアカウントのフォローを解除。イングランドのメディアは「チェルシーがエンソに対する処分を検討中」と報じ、FFF(フランスサッカー連盟)は法的措置を講じると表明。そしてアルゼンチン国内では、政府関係者を巻き込む大事にまで発展した。

 まず、ラジオ番組の取材に応じたスポーツ省のフリオ・ガロ次官は「(アルゼンチン代表の)キャプテンであるメッシとAFA(アルゼンチンサッカー協会)のタピア会長は謝罪するべき」とコメントしたところ各方面から「メッシに謝罪を強要するとは何事か」と猛烈なバッシングを受け、その日のうちに失職。一方、ビクトリア・ビジャルエル副大統領は「いかなる植民地主義国家(フランス)も、応援歌や、自分に都合の悪い真実を語られたことを理由に我々を脅すことなどできない。偽善者(フランス人)たちよ、憤ったふりをするのはもうたくさんだ。エンソ、私は君を応援する! メッシありがとう! アルゼンチン万歳!」という過激なメッセージをXに投稿。このため、1週間後にフランス訪問を控えていたハビエル・ミレイ大統領の妹で、大統領府長官を務めるカリーナ・ミレイは大慌てでフランス大使館に出向き、副大統領の投稿について謝罪した。

 アルゼンチン、イングランド、フランスと、国境を超えて波紋を広げた騒動は、その後エンソがSNSを通じて謝り、フォファナもそれを受け入れたことでひとまず沈静。懸念されていたチェルシーによる処分はなく、猛反省したエンソはクラブとともに反差別慈善団体への寄付も約束し、気分一新して新たなシーズンを迎えている。

 一件落着したように思われるが、冒頭で述べたようなシーンを目にするたびに、アルゼンチンサッカー界に根付く“ある習慣”を見直さない限り、同じような問題は今後も起こり得るのではないかという懸念が生じてしまう。この国のサッカーを愛する者として、今回の出来事が再発防止に活かされることを願いつつ、その背景や要因、解決策についてあらためて考えてみることにした。

アルゼンチンでも「放送禁止」の歌だった

 問題の根源について言及する前に、まず歌の詳細を説明しよう。歌詞の全貌は以下の通りで、アフリカ系移民だけでなくトランスジェンダーに対する軽蔑的表現も含まれている他、キリアン・ムバッペを名指しで汚辱する内容となっている。

Escuchen, corran la bola
Juegan en Francia pero son todos de Angola
Qué lindo es, van a correr
Son come trabas como el puto de Mbappé
Su vieja es nigeriana, su viejo, camerunés
Pero en el documento, nacionalidad francesa

《邦訳》
よく聞いてくれ、そして広めてくれ
奴らはフランスでプレーしているがみんなアンゴラ出身
楽しいな、奴らは逃げるだろうから
そしてトランスジェンダー女性とやるのが好きなんだ、ゲイ野郎のムバッペみたいにね
母親はナイジェリア人、父親はカメルーン人
でも身分証明書ではフランス国籍なのさ……

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Chizuru de Garcia

1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。

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