SPECIAL

「不安?僕にとっては外国語」。ノイアー、最高峰GKたる所以を語る

2018.10.31

Interview with
MANUEL NEUER
マヌエル・ノイアー
(バイエルン/ドイツ代表)


長引く負傷で昨シーズンをほぼ棒に振り、何とか間に合ったワールドカップではまさかのGS敗退。ノイアーにとって、この1年間は試練の連続だった。しかし、これしきのことで揺らぐほどこの男はヤワではないようだ。失意の結果に終わったワールドカップについて振り返ってもらうとともに、世界最高峰GKを形作る価値観を明かしてもらった。


ピッチ上から見たドイツの敗因

カウンターに対する僕らの対応は、あまりにも拙いものでした


── 昨シーズン、あなたは長い間ケガに苦しみました。ワールドカップでは無事復帰することができましたが、現在の状態はいかがですか?

 「今のところ、足に再発の兆候は出ていません。(ケガをしていた)左足も右足も同じような状態にあると感じています。そう感じられているということは、僕にとって重要なステップでした。再び、完全にフィットしたという感触を持てています。離脱していた時期は僕にとって簡単ではありませんでしたが、以前のレベルに戻ってくることができ、痛みを感じずにプレーできることを喜ばしく思っていますよ」


── あなたはほとんど実戦経験を積むことなくワールドカップに臨みました。不安はなかったのでしょうか?

 「僕はこれまで、不安というものを感じたことがありません。僕にとってその言葉は、まるで外国語のようなものです。何にせよ、ケガをしていた時期というのは私にとって完全に異質な時間で、まったく違う人生を生きているような経験でした。何カ月も芝の上に立つことはなく、ずっと家の中にいる。もう何年もトップレベルのプロサッカー選手としてプレーしてきた身からすると、慣れ親しんだ生活に突然起きた非常に大きな変化でした。最初はそんな生活に慣れるためにいろいろと苦労しましたよ」


── ワールドカップについて、もう少し聞かせてください。優勝候補筆頭に挙がっていた前回王者ドイツが早期敗退した理由はどこにあったのでしょう?

 「早期敗退の責任は僕ら選手にあります。それは間違いありません。敗因については落ち着いてじっくりと分析をしなければなりませんが、確かに言えるのは、僕らが決勝トーナメント進出に値しなかったということ。人々が恐れ、リスペクトを抱いてきたドイツ代表がピッチ上に姿を現すことは最後までありませんでした。95分の決勝ゴールでスウェーデンに2-1で勝利したとはいえ、他の2試合で敗れ、しかも明らかな得点チャンスを作ることができていなかったのですから。もし僕らが決勝トーナメントに進出していたとして、誰もが僕らとの対戦を望んだでしょう。あんなパフォーマンスしか発揮できなかったのに、どうして対戦相手にとって危険な存在になれるでしょうか? 僕らがそれまで見せていた気概というものも、見せることはできませんでした」


── ドイツ代表は単純に持てる力を発揮することができなかったのでしょうか? それとも対戦相手が非常にうまくドイツ代表を研究し、練ってきた対策に絡めとられてしまったのでしょうか?

 「僕らはピッチの上に立っていましたが、ワールドカップを戦っているということに誰も気づけていませんでした。どんな対戦相手も、メキシコであれ、スウェーデンであれ、韓国であれ、僕らのミスを待ち、彼らにチャンスがやってくる瞬間をうかがっていました。僕らは、過去の大会でそういった経験がなかったのです。今回のワールドカップで直面したようなカウンターを受けるシーンは、以前なら片手で数えられるほどでした。しかし、このワールドカップのGS3試合で起きた被カウンターは、ドイツ代表の悪い部分に光を当てることになりました。相手のカウンターに対する僕らの対応は、あまりにも拙いものでしたから。僕はロッカールームや練習、ピッチ上でチームに対する責任を果たそうとしてきました。チームの顔の一人であり、敗退の責任を負うべき一人です。それは間違いありません」


── ドイツ代表は機能していない戦術で戦い続けてしまった印象を受けました。チームはプランBを持っていなかったのでしょうか? あるいは、プランAを信じて戦い抜こうとしたのでしょうか?

 「僕らは自分たちのプレースタイルであるポゼッションとゲーム支配をやり遂げようとし、さらなる制圧を試みましたが、残念ながらうまく行きませんでした。人々がロシアで目にしたのは、ソリッドな守備陣を擁し、素早いカウンター攻撃にフォーカスしたチームが勝ち進む姿でした。そうした戦術をもって最終的に世界王者になったのがフランス代表です。そしてそれは、現在の世界のサッカーにおける潮流でもあります」


── 韓国戦の終盤、リードされた状況であなたは相手エリア内でゴールを狙うのではなく、センターライン付近でボールを供給しようとしていました。何が狙いだったのですか?

 「試合時間は96分、0-1で負けていて絶対にゴールが必要な状況でした。後方に留まっているのは意味のないことだと思ったので、クロスを送ろうとしました。プレッシャーが掛かっていたので、ミスを犯してもやむを得ない状況だったのです」

韓国戦の96分のシーン。ノイアーのボールロストから2点目を奪われ止めを刺された


スイーパーキーパー”誕生の秘密

ファン・デル・サールは僕にインスピレーションを与えてくれた


── カルロ・アンチェロッティ監督やユップ・ハインケス監督の下では、ペップ・グアルディオラ監督の下でよりも“リベロ”としてプレーする機会が減っていたように思います。ニコ・コバチ新監督はあなたにどんなプレーを望んでいるのでしょうか?

 「新監督が望んでいるのは、僕が僕のプレースタイルを維持すること。それ以外の何物でもありません。僕はプロサッカー選手として10年以上プレーしてきて、年齢は30歳を過ぎました。そうであれば、自分の強みにフォーカスし、自分のプレーを改善するためには勝手知ったる歯車を回し続けようとすべきです」


── あなたはこれまでに多くの偉大な監督の下でプレーしてきました。その中で、GKとして最も影響を与えたのは誰でしょうか?

 「どの監督もそれぞれのやり方を持っていて、どの監督もそれぞれのやり方で僕に影響を与え、GKとしての僕を形作ってくれました。最初はシャルケ時代のフェリックス・マガト監督で、特に規律の面で僕に大きな影響を及ぼしました。グアルディオラ監督の下では彼のボールポゼッションサッカーへの愛を学び、ハインケス監督は細部にこだわり、完成度を高めようとすることを教えてくれました。ドイツ代表におけるヨギ・レーブ監督も、その素晴らしい教えで僕の選手としての成長を助けてくれました」


── グアルディオラ監督からは特に大きな影響を受けているのではないかという印象があるのですが、彼からはGKとしてどのようなことを学びましたか?

 「グアルディオラ監督の下では、ほぼ常にボールを使って練習をしていました。そのような練習は、単純にチームに楽しみをもたらしてくれます。彼のおかげで、僕は自分の技術をワンランク高いものにすることができました。それだけではなく、1タッチを多用することで前に速くプレーすることも教えてもらいました。ペップの下で、僕はよく自分のことをフィールドプレーヤーのように感じていましたよ」


── あなたは現代におけるGKをどのように定義しますか?

 「現代においてGKであるということは、相手のシュートを阻むだけでなく、チームのために試合の流れを読み、3バックであれ4バックであれ守備システムに順応しなければなりません。優先順位としては、最終ラインとの間をできる限り縮め、味方との距離をコンパクトに保つことで守備時に素早く、クリーンに試合を後方から組み立てることが求められます」


── その意味で、あなたはGKというポジションに革命を起こしたのではないですか?

 「僕は自分を、GKの現代化に貢献した唯一の選手だとは考えていません。GKが11番目のフィールドプレーヤーとしてより注目されるようになった初期のGKのうちの一人は、オランダのエドウィン・ファン・デル・サールでしょう。彼は何年もの間、アヤックスとマンチェスター・ユナイテッドでプレーし成功を収めてきました。彼はそのプレーにおいて足を頻繁に使い、それによってGKというポジションがある種の新次元に達することになったと考えています」


── 今日、GKが足を使ってプレーする機会が増えるとともに、技術的に高い水準にあるGKも増えてきている印象があります。新たなトレンドと言えるでしょうか?

 「間違いありませんね。ドイツのGKは素晴らしい環境で育てられています。僕らの国におけるGKの育成というのは、完全にトップレベルにあります。GKがブンデスリーガデビューするとなれば、たとえ若い選手であろうと厳しい環境の中に飛び込んでいく準備ができていなければなりませんし、高い要求を満たさなければなりません。デビューしたばかりのGKであっても技術的、戦術的、精神的、身体的に最高レベルにまで教育されていますからね。練習において彼らは素早い反応を見せることはもちろん、より早く次のプレーを予測する能力も不可欠です。また、最大2タッチで後方から素早く試合を組み立て、チームが前方へボールを運ぶ手助けもできなければなりません。こうした点において、ファン・デル・サールは僕にインスピレーションを与えてくれました。僕はアヤックスの育成組織をとても高く評価していて、彼らに関する映像をたくさん見ましたし、アヤックスの試合も追いかけていました」

現在はアヤックスのCEOを務めるエドウィン・ファン・デル・サール


── 常にボールを受けられる状態であることを望み、たびたびペナルティエリアから遠く離れていくあなたの“ボールへの愛”のルーツはどこにあるのでしょう?

 「僕はボールに触れることをいつだって愛していました。ゲルゼンキルヘンで育った少年時代、友達たちと1日に何時間も、道路の上でボールを蹴っていました。そこでは、僕はいつもフィールドプレーヤーをしていて、いつでもボールを欲し要求していました。フィールドプレーヤーとしての経験は僕にとって非常に大きな助けになりましたし、こうして今ボールを意のままに扱うことができるのはそのおかげです」


── 当時はどのポジションでプレーしていたのでしょうか?

 「特に決まっていなくて、どこでもプレーしていました」


── DFラインを高く保つバイエルンでは、あなたは相手のカウンターに対応するために適切なポジションを取らなければなりません。そのポジショニングはどのようにして決めているのでしょうか?

 「自分のお腹、つまり気分で決めるんです(訳注:ドイツ語の慣用句で、気分で決めることを“お腹で決める”と表現する)。それぞれの試合や状況によって、それぞれの感覚があるんですよ」


── 守るにあたって、味方とのコミュニケーションは非常に重要だと思います。あなたはDFの選手たちとどのくらい密にコミュニケーションを取っているのでしょうか?

 「それも試合の状況によって異なります。味方のDFがリスクを考慮せず前に行こうとしていれば、僕が声をかけて相手のカウンターを未然に防ごうとする、ということはありますよ」


── GKは試合中、スタンドからのファンの声が聞こえやすいポジションだと思います。そうした声に何らかの影響を受けることはあるのでしょうか?

 「僕がシャルケからバイエルンに来たばかりの頃にはブーイングを受けることがありました。ブーイングを受けるのはいつだって簡単なことではありません。そのような状況でも一人きりで試合とチームに集中できるよう、ある種のトンネル(抜け道)を作っておくことは選手にとってとても大事なことですね」


“最高”のその先へ

プレーの予測やより正しい判断を下すといった部分は改善できる


── 世界最高峰のGKであるあなたのプレーに、まだ改善すべきところはあるのでしょうか?

 「僕は自分のスタイルを確立しています。大事なのは、規律を保ち、自分の仕事に集中し、気を緩めることなく情熱をもって常に全力を注ぐこと。ケガをすることなく、健康でいることも重要です。とはいえ、修正できる、より正確に言うならば改善できるポイントというのはいつでも存在するものです。例えば、ペナルティエリアから離れた位置でのプレーや相手との1対1、プレーの予測やより正しい判断を下すといった部分です」


──トレーニングの中でビデオ分析は活用していますか?

 「ええ、使っていますよ。ミスを犯した時、わずか数秒後には何を間違えたのか、どうプレーすれば良かったのかを詳細に知ることができます。僕はGKコーチとともに自分のプレーの細かな部分を分析しています。練習に限らず、プレーがうまく行っていない時にはハーフタイム中のわずかな時間にパフォーマンスを分析することもあります。GKコーチが、持っているラップトップで僕にミスしたプレーを見せてくれます。ミスに対して真摯に向き合い、自己批判を恐れないことは僕らの強みですね」


── 1つのミスを消化するのに、どのくらい時間がかかるものでしょうか?

 「ミスが起きると同時に、すぐに気持ちを切り替えて前を向き、立ち上がらなければなりません。自分に対して疑問を抱き始めてしまったら、もう頭の中に試合のことは入ってきません。試合の間はそこに留まっていなければならないのです。試合終了の笛が鳴って初めて、何が起こっていたのか事細かな分析に入ります。僕は自分自身に対して誠実でいるために、自分のことを自己批判的な人間だと思っています。ですから、自分が停滞していると感じたことがないんです」


── 日本の子供たちは香川真司のような中盤の選手に憧れ、GKはなかなかその対象になりません。あなたがGKに感じる魅力、GKとしてプレーするモチベーションはどこにあるのですか?

 「GKが相手にゴールを許さなければチームが負けることはありませんし、勝利をつかむ可能性は高くなります。ゴールを阻むというのは素晴らしいことです。相手FWと1対1のシチュエーションを制した時にはアドレナリンが止まりませんよ」


── あなたはすでに何度も世界最優秀GKに輝いていますが、あなたにとってGKとしての目標はどこにあるのでしょうか?

 「個人としての目標があるのではなく、いつもクラブや代表チームとともにタイトルを獲りたいと思っているだけです」


── 今季のバイエルンの目標を教えてください。

 「毎年同じです。僕らはブンデス7連覇を望み、また歴史に名を刻みたいと思っています。昨季は決勝でフランクフルトに敗れたDFBポカールでも何かを成し遂げたいと思っています。そして、CLでは毎年決勝に進出したいと思っています。もちろん今年も変わりません。決勝ラウンドでは多くのことが起こり得ますが、十分なポテンシャルがあると考えていますよ」


── 最後に、あなたのインタビューを心待ちにしている日本のファンへメッセージをお願いします。

 「バイエルンの試合を見て、応援して、何より楽しんでください。あなた方をガッカリさせないために、僕らは全力を尽くします」

Manuel Peter NEUER
マヌエル・ペーター・ノイアー

(バイエルン/ドイツ代表)
1986.3.27(32歳)193cm / 92kg GK GERMANY

ノルトライン・ベストファーレン州ゲルゼンキルヘン出身。地元シャルケのユースから06年にトップチームデビューを飾る。当初は負傷したフランク・ロストの代役だったが、類稀なパフォーマンスを発揮し定位置を奪取。09年にはドイツ代表デビューを果たし、翌10年南アフリカW杯でレギュラーを務めたことで名実ともにドイツナンバー1のGKへと上り詰めた。10-11のDFBポカール制覇を置き土産にバイエルンへ移籍。6連覇中のブンデスや12-13のCLなど8シーズンで計15タイトルを獲得している。13-14から3季指揮したグアルディオラ監督時代、非常に高く設定した最終ライン裏の広大なスペースを果敢な飛び出しでカバーするプレーが注目を集め“スイーパーキーパー”と称されるようになった。この間、14年にはドイツ代表でブラジルW杯を制覇。現代型GKを象徴する選手となっている。

PLAYING CAREER
2006-11 Schalke
2011-  Bayern


Photos: Bongarts/Getty Images, Getty Images
Translation: Yuhei Yamaguchi

プレミア会員になってもっとfootballistaを楽しもう!

プレミア会員 3つの特典

有料記事が読める

動画が観られる

雑誌最新号が届く

「footballista」最新号

フットボリスタ 2020年9月号 Issue080

加速する進化。ルール改正やコロナ禍が変えた新スタンダードとは? [特集] 5つの戦術トレンドで見る19-20欧州各国リーグ総括

10日間無料キャンペーン実施中

TAG

ドイツ代表バイエルンマヌエル・ノイアー

Profile

アレクシス メヌーゲ