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イタリア育成崩壊の正体(中編)。若手は起用されている――それでも育たない理由

2026.02.16

【特集】イタリア代表はなぜ、弱くなったのか?#2

W杯4度の優勝を誇るイタリアが、2大会連続で出場できず、北中米W杯予選でも再びプレーオフに回ることになった。だが、より深刻なのは結果そのものではない。バッジョ、トッティ、デル・ピエーロといった天才を輩出してきた「タレント大国」から、世界を驚かせる選手がほとんど生まれなくなっているという事実だ。少子化、外国人枠、若手の出場機会減――説明は出尽くした。しかし、どれも決定打にはなっていない。本特集では、成功している国ではなく、失敗している国の内側にこそ学ぶべきものがあるという視点から、イタリアサッカーが直面している問題点を検証する。

第1~3回では、著書『Oro Sprecato(無駄にされた黄金)』で国内に論争を巻き起こした「フットボール・アカデミー・イノベーション・ストラテジスト」ダニエレ・ラッリの証言を通して、イタリア育成崩壊の正体に迫る。中編では、有望なタレントは存在するのにクラブが「出口に栓をしている」とする通俗的な説明――いわゆる『栓の理論』の誤解を整理した上で、レラティブ・エイジ・エフェクト(RAE)という視点から、育成年代における“見えない選別”の問題を掘り下げる。

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「出口が閉じられている」という誤解

――イタリアで偉大なプレーヤーが生まれなくなった、ということで言うと、サッキズムとは別にもう1つ、ボスマン判決の影響も大きいように思います。イタリアが生み出したワールドクラスは、1978年生まれのブッフォン、79年生まれのピルロが最後です。デル・ピエーロやカンナバーロは73年、トッティ、ネスタは76年生まれです。80年代生まれ以降はカッサーノ、デ・ロッシ、バロテッリくらいでしょうか。70年代生まれということは、95年のボスマン判決以前の時代に育成年代を送ったということです。ボスマン判決を機に、イタリアの多くのクラブは強化戦略を大きく転換しました。育成部門に投資するよりも、すでに完成してすぐに使える選手を、とりわけ外国から安く買ってくる方が、目先の勝利を追求する上では効率的だと考えたからです。例えばミランは一時期、U-15以下のユースチームを廃止して、その年代についてはモンツァと提携していたほどです。それ以降、ほとんどのクラブにとって育成部門の重要性が低下してきたことは否めません。

 「その点については、私も分析してきました。話がうまくつながるように見ていきましょう。イタリアで最も広まっている決まり文句の1つは『クラブは育成に投資していない』というものです。しかしイタリアは、アカデミーへの平均投資額でヨーロッパ4位です。スペイン、オランダ、ポルトガルのクラブよりも多くを投資しています。FIGCのデータを見ても、プロクラブ全体のアカデミーへの投資額は、2015年の1億3000万ユーロから 2023年には2億ユーロまで増えている。だから『クラブは育成に投資していない』というのは正しい認識ではありません。

 その一方で、セリエAでピッチに立っている選手のおよそ68%から71%が外国人だというのは事実です。この比率はプレミアリーグと並ぶ数字です。ただこれはあくまで現象の表面的な部分であり、もっと深いところに下りていく必要があります。つまり、これは問題の原因なのか、それとも別の問題の結果なのかということです。私には結果だと思えます。イタリア人選手の質が低いから外国人選手に頼らざるを得ない」

若手は起用されている――では何が足りないのか

――さっきのアタランタのスカウティング責任者の話ですね。

 「はい。クラブはスクデットや欧州カップ戦の出場権、あるいは残留を争わなければなりません。わざわざ自分たちに不利な道を選ぶことはあり得ない。かつてダニエレ・デ・ロッシが選手時代、ゼーマン監督が自分を起用しないことについてこう言っていたのを覚えています。『ミステルは、私よりも他の選手の方が役に立つと考えているということだ。誰も自分で自分の足を撃ったりはしない』。クラブも監督も、自らにとって最良だと考える選択肢を選んでいるというのは、話の大前提だと思います。

 その前提に立てば、『イタリアには有望なタレントが育ってきているのにクラブが試合に出さない。出口に栓をしている』というのは、陰謀論と変わらない物言いだと思います。私はこれを『栓の理論』と呼んでいます。実際、データを見るとこの物言いが正しくないことがわかります。FIGCのレポートに載っている、2021年9月9日から2024年9月9日までの3年間で、各国のトップ10クラブでU-21選手が何人プレーしたかというデータです。彼らの言葉を信じるなら、セリエAは大差で最下位のはずですよね。でも実際には、1位リーグ1の313人に次いで2位なんです。つまり、若手を起用していないわけではない」

現在はジェノアで監督を務めているダニエレ・デ・ロッシ

生み出しているのは“セリエBレベル”なのか

――特に売上高で欧州トップとは離されつつあるセリエAの経営状況を考えると、有望な若手を育てて売るというプレーヤートレーディングを重視しないわけにはいきませんからね。

 「今やクラブにとって、プレーヤートレーディングは貴重な財源になっています。若い選手を起用し、価値を高めて高値で売却する。もしイタリア人選手でそれができるなら、どのクラブも積極的にそうするはずです。そうしていないとしたら、それはイタリア人の若手のレベルが低いからでしょう。決定的な証拠は、イタリア人選手は国外のクラブから求められていないという事実です。今手元に正確な資料はありませんが、主要リーグで少なくとも300分プレーした選手の数は10人にも満たないはずです。外国のクラブに移籍する選手もいますが、ほとんどはあまり試合に出られず、すぐに戻って来る。ケーンにしてもラスパドーリにしても、スカマッカにしてもそうです。最大の問題は、イタリア人のタレントをプレーさせないことではなく、そもそもイタリア人のタレントを輩出できないことにあるのです。実際、セリエBではイタリア人の若手がたくさんプレーしています。彼らがセリエAに上がってこられないとしたら、それはイタリアのアカデミーが生み出しているのはセリエBレベルの選手たちだからだ、ということになりませんか?」

ストリートの消失と「バックシート世代」

――では、あなたが考えるイタリアでタレントが育たなくなった背景は何でしょうか?

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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