なぜミラン、モナコ、バルセロナがコンゴ民主共和国と提携?背後に迫るルワンダとの代理戦争の影
欧州ビッグクラブが軒並み積極補強に動いた今夏、ミラン、モナコ、バルセロナが相次いで中央アフリカから強力な助っ人を迎え入れている。パートナーシップ契約を結んだコンゴ民主共和国のことだ。その背後に迫るルワンダとの代理戦争の影を、Yuki Ohto Puro氏に解説してもらった。
スポンサー契約も揺るがすDRCとルワンダの緊張状態
コンゴ民主共和国(DRC)のフェリックス・チセケディ大統領は大のパリSGサポーターとして知られている。ネイマールやアンヘル・ディ・マリア、マルコ・ベラッティ、プレスネル・キンペンベといった錚々(そうそう)たる選手から祝辞を贈られ、背中に「TSHISEKEDI 10」とプリントされたサイン入りのユニフォームをプレゼントされたこともあるほどだ。大統領選の末に2019年1月より現職に選出された「ファツィ」の愛称で親しまれる彼が、同年12月に隣国ルワンダとパリSGの間でスポンサー契約が結ばれたと知った時にはどのような心境だっただろうか。
これは18年にルワンダとアーセナルの間で交わされた同様の契約の第2号で、「Visit Rwanda」というスローガンは現在でも試合前のトレーニングキットやパルク・デ・プランス、デジタル広告など、パリSGに関わる様々な媒体で確認できる。スポンサーシップの目的は同国での観光産業活性化、コーヒーや紅茶をはじめとした特産品の販促、そしてルワンダの世界的なブランディングだ。
締結後、ルワンダ開発庁の責任者は「我われは観光収入の一部をパリSGとの提携のような戦略的提携に投資している。それがルワンダの世界的なイメージ向上に良い影響を与えると理解しているからだ」と語った。その後、Visit Rwandaは23年にバイエルン、25年にはアトレティコ・マドリーと欧州各国リーグへ広がっていった。
ルワンダとDRCは1990〜93年のルワンダ紛争と94年のルワンダ虐殺(映画『ホテル・ルワンダ』をご覧になった方も多かろう)に端を発した第一次コンゴ紛争以降、継続して衝突を繰り返し、今もなお緊張状態にある。直近では、2021年にDRC東部地域でルワンダの支援を受けた反政府勢力M23が活動を再開して、主要な都市を武力占拠した。これは人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチにより超法規的処刑、性暴力、戦争犯罪を含む人権侵害行為と非難された。25年に入ると活動がさらに激化し、1月に北キブ州の最大都市ゴマが、2月には南キブ州の州都ブカブが占拠され、多くの犠牲者と難民を出すに至った。
この振る舞いはVisit Rwandaを掲げる各クラブのファンに大きな衝撃を与え、反発を招いた。今年1月下旬にパリSGサポーターがVisit Rwandaに反対する7万5000人の署名を集めクラブに提出。2月にはDRCがパリSGとアーセナル、バイエルンの首脳陣へスポンサー契約を白紙に戻すよう依頼する書簡を送付した。同月、英国政府がM23の活動を理由にルワンダへの支援打ち切りを発表。4月にはアーセナルのサポーターグループであるGunners For Peaceが「Visit Tottenham」という不倶戴天の宿敵であるはずのトッテナムの魅力を伝える動画をSNSに投稿、さらにプレミアリーグ第34節クリスタルパレス戦ではユニフォーム袖にプリントされたVisit Rwandaを隠すためのアームバンドを配布し、ノースロンドン流のアイロニーでNOを突きつけた。
この流れの中でバイエルンは8月、ルワンダとのスポンサー契約を撤回した初めてのクラブとなった。彼らは表立って公共の場に掲示されるVisit Rwandaの広告を取り下げ、代わりにルワンダとの青少年育成プログラムに転換すると発表。これは3月にドイツ政府が英国に足並みをそろえてルワンダ支援を停止したことと無関係ではないだろう。またバイエルンでは、以前にもカタールの人権記録に疑義を抱いたサポーターがクラブ年次総会で声を上げており、それがカタール航空との契約打ち切りの一因になった過去がある。ある意味ではそういった事態への事前対処でもあったかもしれない。
DRCはアフリカ大陸有数の資源産出国であり、リチウムイオン電池に欠かせないコバルトの生産量では全世界の70%を占めている。その他ダイヤモンド、金、スズなどが豊富でスマートフォンや精密機器に必須のレアメタル、タンタルも流通量の15%がゴマを含むDRC東部産だ。ルワンダはM23を通じてこの地域からタンタルを収奪、輸出することで莫大な利益を上げており、この紛争は民族対立の側面以上にDRC東部の鉱物資源をめぐる利権争いと捉えることもできるだろう。
「マッテイ計画」でアメリカ、イタリア、ミランの思惑が一致
この事態に終止符を打つべく動いたのが、25年よりアメリカ大統領に再び返り咲いたドナルド・トランプだった。第1期トランプ政権時代よりルワンダのポール・カガメ大統領とは旧知であったが、再選後にコネクションを生かして仲裁役を買って出たのである。1月にマルコ・ルビオ国務長官を通じてカガメ大統領へ即時停戦を要求すると、4月にはアメリカの仲介でルワンダ、DRC両国外相による和平と経済発展に関する宣言への署名が行われ、6月27日に和平合意が成された。
合意の中に「『米国政府および米国投資家と適宜連携して』両国を結びつける透明かつ公正な鉱物バリューチェーンにかかる協力を開始・拡大する」という一文が盛り込まれたことは、アメリカがDRC東部の鉱物資源をいかに重要視しているかの証左だろう。また、すでにDRC産コバルトの80%を管理していると推定される中国、そしてこのエリアでの影響力を強化しようと目論むロシアといった他の国々を牽制する目的があったはずだということは、想像に難くない。
和平合意の7日前、DRCがミランとスポンサー契約を結ぶという一報が入った。
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Yuki Ohto Puro
サミ・ヒューピアさんを偏愛する秘湯ハンター。他人の財布で食べる寿司と焼肉が好物(いつでもお待ちしてます)。主にマージーサイドの赤い方を応援しているが、時折日立台にも出没する。
