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ゴンサロ・イグアイン。ミランが待ち焦がれた“エリアの支配者”

2018.10.21


 25――ミランの攻撃の主軸となっているスソが、昨シーズンまでのミラン公式戦(国内カップ戦/ELを含む)で挙げたアシストの総数である。その割合を見ると、一つの興味深い事実が浮かび上がる。うち、CFの選手がゴールに送り込んだのは半分以下の12アシスト。選手の内訳を見るとクトローネの6が最多で以下ラパドゥーラが3、バッカ、カリニッチ、アンドレ・シルバが1ゴールずつだ。つまり、得点源となることを期待された戦力へのアシスト数が少なかったのである。

 翻って今シーズン、スソは8試合で6アシストという素晴らしい数字を残しているが、その内訳は違ったものになっている。カラブリアが1でボナベントゥーラが2、そして残りの3アシストが新エースストライカーへのお膳立てだったのである。言わずもがな、ユベントスから移籍したゴンサロ・イグアインのことだ。ミランでの公式戦出場はまだ7試合というのに6ゴール、しかもスソと呼吸を合わせてゴールを奪ってくれる。「今までの僕たちには欠けていた存在だった」と、スソは地元メディアに断言していた。

 バッカやアンドレ・シルバは移籍後に新天地で活躍しているから、彼らのストライカーとしての実力に疑いを挟むべきではない。では、イグアインは何が違ったのか。スソのラストパスをゴールに結実させた3つのシーンを振り返ると、そこには一つの特徴が見えてくる。それは『嗅覚』、もっと言えばゴールエリア内でポジションを取り、パスを呼び込むまでの動き出しの巧みさ。シュートに必要なスペースを見抜いて動くのが早く、しかもパスの要求も明確なのだ。

 まずは、第5節アタランタ戦2分のゴール。

 ミランは守備から攻撃に転じ、右サイドを攻め込む。カウンターを食らって左サイドを崩された格好となり、相手の3バックはフォローのため左へとスライド。3バックの中央にいたパロミーノは左に視野を向け、サイドに寄り気味になった。ゴール前に走り込んでいたイグアインはその瞬間、右でボールをキープしたスソに向かって前方を指差した。パロミーノが背を向けたことで、空いた裏のスペースだ。その直後にケシエが内側のスペースへ飛び出してきたため、パロミーノはイグアインから視線だけでなく体も離してしまう。こうなれば、もはやゴール前でフリー。スソからはイメージ通りに正確なクロスが供給され、あとは打ち切るだけ。右足をノートラップで合わせ、正確にボールをミートした。斜め後ろから来たボールをボレーで打ち切る、シュート技術の高さそのものが驚愕である。だがそんな難しいプレーができたのも、イメージ通りにパスの呼び込めたからなのだろう。

 次に、第8節キエーボ戦の1点目となる27分の先制点。スソが右サイドから出したグラウンダーのボールを、ゴール前でダイレクトシュート。ボールを流れだけを追っていると、たまたまゴール前に詰めたところに良いボールが来ただけ、というふうに見えなくもない。だが違う。これも、イグアインがあらかじめスペースに反応した末に折り返しを呼び込んだものだった。

 アクションは、左サイドに攻め上がってきたCBのサパタが放ったアーリークロスから始まる。イグアインは2枚のCBに挟まれており、ボールは体を寄せていたバーニがヘッドでクリア。その瞬間、マークは剥がれた。そしてスソが右サイドに流れてクリアボールを拾おうとした瞬間、イグアインは横へと走った。サパタのクロスによりキエーボのDFラインが押し下げられた結果、密集していたはずのゴールエリアにはスペースができていたのだ。誰よりも早くイグアインが動き出したのを感じ取り、スソもそのスペースへとグラウンダーのボールを流す。タイミングはぴったりと合い、右足のシュートは正確に決まった。

 そしてキエーボ戦2点目となる35分のシュート。ここでは、オフサイドポジションからの戻りを巧みに使った狡猾な位置取りでフリーのスペースを確保した。

 ミランは左からの攻撃。ゴール前にグラウンダーのクロスが入るが、キエーボの守備陣はこれをかき出す。ゴールエリア内に詰めていたイグアインも、2人のDFに挟み込まれていた。ボールは前方へとクリアされ、キエーボのDFラインは押し上げを図る。この時、イグアインはあえてオフサイドポジションに残り、相手DFの視野から逃れた。しかし味方がクリアボールを拾った瞬間、相手CBの背後からフリーのポジションへと動き、オフサイドラインに並んだ。そしてパスを要求。正確に入った縦パスを受けるとクイックに反転し、シュートを放った。


比較対象は偉大な先人

 イグアインの絶対的な得点力は、ゴール前での密集地でわずかなスペースを見つけ、あるいは自ら捻出する動きによってもたらされる。それは、ミランの近年の前任者たちにはなかったプレーの質だ。バッカやアンドレ・シルバはエリア内で細かいボールコントロールのできる選手だが、足下にボールを納めて仕掛けるためのスペースを必要とするタイプだ。ゴール前に密集を築くことに躊躇のないイタリアのDFと相対した時、彼らへのスペースは消される。当然スソからのパスコースも消される、という算段だった。裏抜けの巧いワンタッチゴーラーのクトローネへのアシスト数がはるかに多かったのも、決して偶然ではない。密集地で点で合わせられるという点ではカリニッチも優秀だったはずなのだが、不調から脱却できず結果が出せなかった。ともかく、閉じたディフェンスを前にしてもボールを呼び込んでくれるCFの不在感は、イグアインの到来でようやく解消されたということだ。

 さらに、イグアインの存在はゴールエリアの外でも頼もしい。体躯を利してDFを背負うタイプではないが、非常に高い技術によってボールを前線で収めてくれる。チェックをかわし、引いた位置から味方にラストパスを出す器用さも備えている。カウンターになれば、自分でボールを運んでいく力もある。[4-3-3]のCFとしてチームを円滑に機能させることができるのも、イグアインの利点である。つまりガットゥーゾ監督が取る現システムとの親和性は高く、それも移籍からさっそくフィットに成功した要因の一つだ。

 スターの喪失感に苛まれ続けたミラニスタたちにとって、ようやく先人たちと比較しても見劣りしないようなエースストライカーが現れた。現地のファンの中には「シェフチェンコとイグアイン、果たしてどっちが上か」のような比較で盛り上がっている者もいるが、そういう話が本当にできるようになったのも幸せなことだろう。むろん、その評価にはミラノダービーの成績が少なからず影響するはず。このカードに強いスソからのアシストを得て、ミラノの街の記憶に残るようなゴールを決められるか注目だ。

Photo: Getty Images

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Profile

神尾 光臣

1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。