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ミラン&トゥールーズに見るMCOとUEFAコンペティションの「健全性」

2023.11.22

現在リーガエスパニョーラとプレミアリーグでそれぞれトップを走るジローナとマンチェスター・シティ。シティ・フットボール・グループ傘下の両クラブはこのまま行けばUEFA主催大会への出場権を得ることになるが、同一オーナーが保有する複数クラブの参加は原則として認められていないのが現状だ。マルチクラブ・オーナーシップ(MCO)の拡大は今や欧州サッカーが受け入れるべき現実となりつつある中で、今季も「UEFAコンペティション同時参加」問題により3組6クラブが審査の対象となっている。その「容認」という結論、一方でUEFAが新たな制約条件をMCOクラブに課した背景事情を、ミランとトゥールーズのケースを中心に片野道郎氏が考察する。

『フットボリスタ第98号』より掲載

 欧州サッカーでMCO(複数クラブ保有)が急速に進展する中で、同一オーナーが異なる国に保有する複数のクラブが、同時にUEFAコンペティションの出場権を手に入れるケースが増え始めている。この23‒24シーズンも、米投資ファンドのレッドバード・キャピタル・パートナーズ傘下にあるミラン(CL/セリエA4位)とトゥールーズ(EL/フランスカップ優勝)、英国の実業家トニー・ブルームが保有するブライトン(EL/プレミアリーグ6位)とユニオン・サン・ジロワーズ(EL/ベルギーリーグ3位)、アメリカとエジプトの投資家が共同保有する持株会社アソシエーション・フットボール傘下にあるアストンビラ(ECL/プレミア7位)とビトリア・ギマラエス(ECL/ポルトガルリーグ6位)という3組6クラブが、新たな「MCO案件」としてUEFAによるチェックの対象となった。UEFAはCFCB(クラブ財務監視機関)による審査を行い、最終的にこの3組6クラブすべてについて当該コンペティションへの参加を許可している。

RBグループが編み出した前例

 MCOはもはや無視することができない欧州サッカーの現実である。FIFAと提携するスイスの研究機関CIESによれば、2023年6月現在、MCO傘下にあるクラブは全世界で282に上るとされる。これはコロナ禍前の2018年と比べると2.2倍にあたる数字だ。もともと規模が小さく、ローカル資本による持続可能な経営が難しくなっていた中堅国以下のプロクラブの多くは、コロナ禍がもたらした収入減で存続の危機に陥っている。そうした状況にあるクラブにとって、少なくとも一定期間は安定的な経営を保証してくれる投資ファンドのようなグローバル資本は、救世主的な存在だと言っても過言ではない。

 純粋にスポーツ的な観点から見ると、同一オーナーが保有するクラブが同じコンペティションに参加すれば、結果とそれがもたらす利得をめぐって利益相反の関係が生じることは明白だ。実際どの国のプロリーグでも、同一オーナーによる複数クラブ保有には厳しい制約が課されている。しかしこれはあくまで、参加チームがほぼ固定されておりMCOが直接的な利益相反に繋がる国内リーグの話。参加チームが毎年変わり、直接対戦しない限り明確な利益相反が生じにくいUEFAコンペティションの場合は、ある程度の許容範囲を設定し、それをクリアしていれば同時参加を妨げないという考え方が取られている。

 この「MCOクラブのUEFAコンペティション同時参加」問題が大きくクローズアップされたのは2017年、レッドブル・グループのRBライプツィヒ(ドイツ)とRBザルツブルク(オーストリア)をめぐってだった。ライプツィヒがブンデスリーガ昇格1年目の16‒17シーズンに2位となり、オーストリアリーグ常勝のザルツブルクと並んで翌17‒18シーズンのCL出場権を手にしたのだ。この時には、UEFAが「コンペティションの健全性とMCO」について定めた競技規則第5条を満たす形で、RBグループがオーナーシップのあり方を見直し(ザルツブルクから資本と経営幹部を引き上げ、単なるスポンサーとしてのみ関与する体裁とした)、UEFAのCFCBがそれを審査、最終的に承認するというプロセスを経て、両クラブの同時参加が容認された。「容認」という言葉を使うのは、CFCBの報告書に記された次のような結論からも、これが法解釈をめぐるギリギリのせめぎ合いの結果であったことが推察されるから。

2018年にELのグループステージで相まみえたライプツィヒとザルツブルク。対戦した2試合ではザルツブルクがともに勝利し、1位で決勝トーナメントへ進出した。画像はアマドゥ・ハイダラとコンラート・ライマー(右)

 「CFCBは、ザルツブルクが自身とライプツィヒ(またはその逆)に対して、UEFA競技規則第5条に定めるところの『決定的な影響力を行使する主体』になり得ると考える。その観点から見て、両クラブ間の協力協定や移籍活動のような特定の要素は注視に値するものであった。しかしながら、詳細な分析(特に両クラブが行った変更について)の結果、CFCB裁決委員会は、本事例では一方のクラブが他方のクラブに対して決定的な影響力を行使しているという結論を正当化するには証拠が不十分であるという結論に至った」……

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ジローナトゥールーズフットボリスタ第98号マンチェスター・シティミラン

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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