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実は4つの型がある。これが本当のゲーゲンプレッシング

2018.04.10

Tactical Tips 戦術用語講座


2010年代のブンデスリーガで最も多く飛び交った戦術用語と言えば、この「ゲーゲンプレッシング」で間違いない。真っ先に思い浮かぶのは、盟主バイエルンを抑えてのリーグ連覇でこの戦術を世に知らしめたクロップのドルトムントだろう。だが、2度のCL制覇を成し遂げたグアルディオラ時代のバルセロナも、傑出した攻撃とともにゲーゲンプレッシングを駆使していたことは意外と知られていない。

今やすっかり定着しているからこそ、その言葉の意味をもう一歩踏み込んで探りたい。


それぞれの型を区別する要素

 ゲーゲンプレッシングを構成する要素には集団的にボールへ向かっていく動きだけでなく、ボールロスト前の立ち位置やボールロスト後のポジションの取り方も含まれ、その違いによっていくつかの型が存在しているのだが、メンタリティの観点からすべてが同一視されているのが実情だ。

 あらゆるゲーゲンプレッシングに共通するのは、チーム全体がボールロストの瞬間にスイッチを入れ、連動しながらボールに対して強烈なプレスをかけること。成功させるためには、ボールを失う前にあらかじめ各選手が適切なポジションを取っていなければならない。基本的には選手間の距離が極端に広がっていたり、数的不利の状況では効果は薄く、攻撃的にコンパクトな陣形を取り、選手間の距離を縮めている時ほど威力を発揮する。

 そのため、監督はあらかじめ距離を詰めるべき場所と開けておくべき場所を決めておかなければならない。そうすることで例えば、相手の強力な攻撃手がいるエリアや、逆に自分たちの弱点となっているエリアではゲーゲンプレッシングの使用は避けるなどの対処法を見つけることができる。

 選手にとっては、ゲーゲンプレッシングの効果を最大限に発揮するためには、自分がいつ、どこで、どのくらい周囲との距離を詰めておくべきなのかが課題となる。

 ゲーゲンプレッシングのプロセスの中で、型による違いを生む要素が2つある。最大のポイントとなるのが、何を基準に(何に対応する形で)ポジションを取るのか。これは通常のプレッシングとゲーゲンプレッシングとの違いでもある。通常のプレッシングはあくまでそれぞれのフォーメーションを基準として、それを大きく崩すことなく圧力をかけていく。一方で、ゲーゲンプレッシングではまるでフォーメーションなど存在しないかのような位置を取り、ダイレクトにボールに対して圧力をかけていく。

 そうして、どういう手段――ボール保持者との1対1、パスカットなど――でのボール奪取をメインにするのか。これがもう一つのポイントである。

 これらの違いにより、ゲーゲンプレッシングは次の4つに大別することができる。


A.プレーエリア制圧型

 ドルトムントがこれに該当する。対戦相手がプレーするエリアを基準として、選手を極端なまでに密集させる。エリア内の相手選手を完全に捕まえ、圧力をかけ続ける。理想は、相手に呼吸する余裕さえ与えないほどのプレッシング。考えられる限りすべてのフリーランニングのスペースとパスコースを遮断するか、あるいは意図的に開けたコースへと誘導する。この形では、ボールを失うまでの選手間のポジション調整がより重要になる。

 対戦相手をサイドに誘導した上で狙った形でパスカットを成功させたり、あるいはスペースを制圧した後、さらにボールへ寄せてボールを奪い切る。

 ゲーゲンプレッシングをスタートしたらボールに最も近い選手が真っ先にプレスをかけると同時に、赤チームの選手たちがエリアへといっせいに侵入(図A-1)。赤チームの選手たちはこの時、ボールホルダーにはプレーできる2つのスペースがあることを認識しておく。肝心なのは、そのスペースを先に埋めてしまうのではなく、そばにポジションを取ること。するとほとんどの場合、その(意図的に)空けたスペースに向けてパスが送られる(図A-2)。ボールが不正確であればここで一気にボールをカットしてしまう。もしボール保持者がプレー選択をためらえば、エリアはプレーできないほどに狭められてしまっている。


B.パスの受け手制圧型

 バイエルンがこのカテゴリーに入る。たいていの場合、ボールホルダーに対して組織的にプレスを仕掛けるというよりは、ボールに近い1人ないし2人の選手がボールに向かってプレスを仕掛ける。その際、他の選手たちは自分のポジションを基準に動くのではなく、マンマークに近い形で自分の近くにいる選手たちを基準にポジションを取る。この短時間に限定されたマンオリエンテッドな(選手の位置に応じた)やり方は、対戦相手がパスを出した先にいる受け手となる選手にいつでもアタックできる状況を作り出し、1対1の状況で積極的にボールへ向かっていける状態にしてくれる。したがって、パスの出し手へのプレスはそれほど強くする必要はないが、少なくとも後方へのプレーを選択させるか、すぐさま何らかのアクションを起こさせる程度には強いプレッシャーを与えなければならない。

 すると、最もボールに近い選手(この場面ではボールを失った選手)がプレスを仕掛ける。その間に、赤チーム全体がボール方向にスライドし、自分の近くにいる敵選手を基準にポジションを取る(図B-1)。このやり方では、パス自体は簡単に出されてしまうが、1対1の局面が多く作り出され、2対1でボールの受け手を挟んでしまうことも頻繁に起きる。つまり、単純な1対1のようにフィフティ・フィフティの状況でボールに向かっていくわけではない。むしろ、赤チームにとってはすでに動きが準備されており、攻撃の構造もでき上がっていることから局面を優位に進めることができる(図B-2)。


C.パスコース制圧型

 グアルディオラが率いたバルセロナもゲーゲンプレッシングを実践していた。彼のチームの場合は、予測に基づき、相手のパスコースを基準にポジションを取っていた。

 その際、ボールを持った相手選手の周囲にいるゲーゲンプレッシングを仕掛ける選手たちは、特定のパスコースのみを開け、その他のパスコースを塞いでしまう(図C-1)。このやり方では、相手のプレーエリアを狭めるわけでも、1対1を意図的に作り出すわけでもなく、敵選手がフリーだと“錯覚した”スペースへパスを出させ、そのボールを鮮やかに奪ってしまう(図C-2)。このやり方では、対戦相手にとって戦況的にあまり好ましくない方向にパスが送られた時(例えば、数的な不利な状況にあるサイドの選手に中央からダイアゴナルなボールが送られた場合など)や、バルセロナでの具体例を挙げればブスケッツがカバーしているスペースにボールが入った時に頻繁に見られた。

 理想は、ボールロストの瞬間に選手たちが動き出し、弧を描きながらボールを囲むように近づいていき、最終的にパスをカットしてしまう。他の選択肢としては、パスの受け手となる選手たちの前に立ちパスコースを塞いでしまう。彼らはパスコースをすべて塞いでしまっていることをハッキリと示し、バックパスあるいはロングパスを誘導する。こうして、ゲーゲンプレッシングから前へと押し上げていく“通常の”プレッシングへと移行していく。


D.ボールホルダー制圧型

 歴史上で集団的なゲーゲンプレッシングを用いたチームとして、1974年W杯のオランダ代表も挙げられる。

 これは、ある意味ではゲーゲンプレッシングの中でも非常にカオスなやり方だ。というのも、プレッシングに参加する選手たちが敵チームのボール保持者に向かっていっせいに襲いかかり、その後に起こる可能性に関しては何のケアもされていないからだ。とはいえ、当時の状況では、それが最も適したやり方だったのかもしれない。なぜなら、当時は狭いスペースでのボールの動かし方が現在ほどトレーニングされていたなかったし、対戦相手も再びボールを奪い返した後にどのようにプレーするか、洗練されたオーガナイズを準備していたわけでもない。そして何より、プレッシングに対するトレーニングすらしていなかったのだ。

 このやり方では、すべての選手たちがいっせいにボール方向にスライドし(図D-1)、ボールに対してプレスを仕掛ける(図D-2)。この場合、パスコースも気にしないので、中央へボールを通されてしまう可能性がある。仮にパスが通されれば、さらに追いかけてプレッシングを仕掛ける。もし相手のDFが特別ボールの扱いに優れていない場合は、このパスコースを後方から押し上げてきた来た選手が消す。ボールを持った相手選手に対して、強烈なプレッシャーを与え続けていくわけだ。


データで見るそれぞれの特徴

 個人的に、ここまで紹介してきたそれぞれのゲーゲンプレッシングの違いがデータに表れるのか、興味があった。そこで次のような仮説を立ててみた。①パスの受け手制圧型のバイエルンはツバイカンプフ(1対1)で素晴らしい数字を残す一方で、パスカットの本数自体は少ないためプレッシングとしてはそれほど優れた数字にはならない。②逆に、プレーエリア制圧型のドルトムントは1対1では優れた数字が出ないがプレッシングではより優れた数字を記録する。③パスコース制圧型のバルセロナはバイエルンと正反対の数字となる。

 結果は、この仮説に合致するものとなった。検証には、各チームの中盤3選手のスタッツを用いた。なぜなら、このポジションがゲーゲンプレッシングにおいて最も重要であり数字の差が顕著に出るから。SBはボールから離れた位置でプレーすることが多い。FWは「プレッシングの起点」になることが多く、ボールロスト数が勘定されるのに対し、中盤中央の選手たちは最終的にパスカットするか、1対1でボールを奪う役割を担うことが多いからだ。まずは1対1の数字を見てみよう。

 1対1に関しては、それほど驚くような結果は出なかった。ドルトムントの中盤は、ブスケッツたちが構成するバルセロナよりも優れた数字を記録した。ただ、予想通り最も強いのはバイエルンだった。この圧倒的な数字は、バイエルンのパスの受け手制圧型ゲーゲンプレッシングが成功したことの表れであると考えられる。バイエルンは頻繁に1対1の局面を作り出すだけでなく、より優れた状態で1対1に挑んでいるのだ。対照的に、バルセロナはそれほど頻繁に1対1の局面を作らず、そうなった時の彼らの守備はそれほど効果的でなかったことがうかがえる。

 パスカットの回数では、バルセロナがずば抜けた数字を記録した。平均で174.37回というのは、続くドルトムントの86.10回に大差をつけている。目を引くのは、素晴らしい守備をしているバイエルンが最も低い数字となっていること。これは彼らのプレースタイルから簡単に説明がつく。バイエルンは中盤でセカンドボールを回収したりパスカットを頻繁に行ったりはせず、意図的に誘発した1対1でボールを取り切ってしまうのだ。このやり方の場合、他の方法よりも守備は“安定”する。仮にゲーゲンプレッシングを外され突破を許した場合でも、後方に戻れる選手が多く相手が一気にチャンスを作ることが少ないという意味である。


まとめ

 ゲーゲンプレッシングへと移行する境目というのはハッキリとはせず、流動的である。ピッチ上にいる選手たちは当然ながら、その都度状況を見ながら適応していくことが求められる。ただ、これは何もゲーゲンプレッシングだけに限った話ではなく、数的優位な状況で行われるプレー全般に言えることではあるが。

 最後に繰り返すが、ゲーゲンプレッシングはボールロストの瞬間にボールを奪い返そうとする集団的な作業を指す。一方で、通常のプレッシングはフォーメーションを基準として、それを崩すことなくボールに向かっていくサッカーの基本的な作業を指すものである。


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Photo: Getty Images
Translation: Tatsuro Suzuki

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シュピールフェアラーゲルンク

2011年のWEBサイト立ち上げ以来、戦術的、統計的、そしてトレーニング理論の観点からサッカーを解析。欧州中から新世代の論者たちが集い、プロ指導者も舌を巻く先鋭的な考察を発表している。こうしたプロジェクトはドイツ語圏では初の試みで、13年には英語版『Spielverlagerung.com』も開始。監督やスカウトなど現場の専門家からメディア関係者まで、その分析は品質が保証されたソースとして認知されている。