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戦術用語講座:ハーフスペース完全版#4

2018.02.27

Tactical Tips 戦術用語講座


攻守で布陣を変える可変型システムが一般化してきたここ2、3年、最後の30mを攻略するポイントになるスペースとしてにわかに注目を集めるようになった「ハーフスペース」。「ポジショナルプレー」を語る上でも見過ごすことができないこのゾーンの特徴から着目されるに至った経緯まで、ドイツの分析サイト『Spielverlagerung』(シュピエルフェアラーゲルング)が徹底分析。

あまりの力作ゆえに月刊フットボリスタ第54号では収まり切らなかった部分も収録した完全版を、全5回に分けてお届けする。


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ポジションチェンジ、選手の意図的な集結、ハーフスペースの特徴

 すでに何度も述べているように、ハーフスペースの長所としてどのレーンにも距離が近く、プレーの選択肢が多いことが挙げられる。ゆえに、サイドや中央のレーンにいる選手とバリエーションに富んだコンビネーションを構築できる。中央でも似たようなことはできるが、同じような相乗効果があるわけではない。仮にサイドの全選手が中央にスライドしてユニットを形成してしまえば、2レーン飛ばしてボールを展開し、オープンな逆サイドを一気に崩す可能性がなくなってしまう。つまり、基本的にはボールを持ったら両サイドのレーンを空にしてはいけない。これを怠ってしまった場合、中央レーンに人が密集してしまう。通常は両サイドのウインガーがタッチラインギリギリまで開き幅を確保するが、それによって(両サイドのレーンへの選手の配置次第だが)サイドレーンにいる選手がコンビプレーの選択肢から消えてしまう。だが、ハーフスペースでは様相が異なる。

 ハーフスペースは(中央レーンよりも)サイドレーンに近い。ゆえにハーフスペースでは、ピッチの幅を確保するためにサイドに配置される選手もパスの選択肢に入ってくる。この時、中央や他方のハーフスペースにポジションを取っていた選手も同サイドに集まり、ボールがあるハーフスペースの周辺でプレーすることも可能だ。彼らは自分が担当するプレーゾーンにすぐ戻ることもできる。さらには、(ボールとは)逆サイドのレーンで幅を確保する選手が中に絞り、ハーフスペースに入り込むようなオプションもある。これはユルゲン・クロップらのチームのSBが頻繁に行う方法だ。

 そうした時、時間的な要素と対戦相手の(活用できる)スペース不足とが相まって面白い相互作用が生まれる。

 時間的な要素というのは、具体的には敵が少ない側のゾーンへとボールを展開するパスの長さのことだ。

 逆サイドにいる選手が中に絞り込んで距離を狭めれば、(パスが)成功する可能性は高くなる。たとえその選手がさらに絞ってハーフスペースまで入り込んだとしても(ここで、ボールがない方のハーフスペースの選手はさらに中央に寄り、サポートに回る)、そのウインガーはサイドレーンでプレーできる。ハーフスペースでボールを持った選手から逆サイドの選手へゾーンを変えるパスが出れば(絞っていたボールとは逆サイドのウインガーは)再びサイドへと開き、それが自らを目がけたロングボールだったとしても、パスが届くころには十分に本来のタッチライン沿いでボールを受けられる。

 ショートパスを繋ぎ複数の選手を経由してサイドのレーンにボールを運ぶ場合には、このサイドの選手のポジショニングはより簡単に機能する。もし途中でボールを失ってしまった場合、サイドから中に絞っていた選手はすぐにそこからさらに中へと絞ることができ、ボールの位置に合わせた適切なポジションを取る。これにより、カウンターを受ける可能性を減らすことができる。

 この動きのメリットを最大限に活用していたのが、“偽サイドバック”を採用していた13-14のバイエルンだった。通常、ファーストサードでは幅を確保しようとするものだが、彼らは意図的に中に絞り込み、サイドのレーンを空け、ハーフスペースに選手を集中的に配置。これにより、サイドのスペースを手薄にする代わりに被カウンター時、戦略的により危険な中央のゾーンを集中的にケアしていた。

 2つ目の要素である対戦相手の(活用できる)スペース不足に関しても簡単に説明できる。

 ボールが中央レーンにある時、守備をする敵チームは比較的安定してブロックを維持し、ハーフスペースや中央レーンをしっかりと埋められる。一例として[4-4-2]で考えてみると、両サイドの選手はサイドレーン付近でのプレーすることが多くなる。なぜか。先に挙げた時間的要因が、守備ブロックのスライドにも影響するからである。ボールが(中央レーンから)サイドに到達するまでに、守備側はスライドを完了してスペースを埋められるだろう。

 だが、ボールがハーフスペースかサイドのレーンにある場合、逆サイドの選手は(ボールが中央にある時より)長い距離を絞る必要がある。さもなければ、守備ユニットをコンパクトに保つのが難しくなるだろう。攻撃側のウインガーはタッチライン際まで広がる必要はない。むしろある程度中に絞って、相手の守備ブロックの幅に合わせたポジションを取ることでカウンターの基点になりそうなレーンをケアするべきだ。これにより、ボールを保持しているチームはすぐさまハーフスペースの周辺に人を集め、局所的にコンパクトなユニットを形成することができる。

 特に攻撃時、カウンターに対してケアをする優先順位が戦略的に低いゾーン(とりわけサイドレーン)でプレーする選手をハーフスペースに集めてしまうことは効果的だ。ここで再び、ペップ・バイエルンの両SVが実践した“偽SB”について考えてみよう。ハーフスペースを占有するのに、サイドレーンからならわずかに数mの移動で十分であり素早く行える。さらに、中央とハーフスペースの3レーンに選手を集中させていることにより、短い距離の移動でポジションチェンジもできる。

 この“キャスリング”(チェスのルール。一手でキングとルークを同時に動かす特殊な手)=ポジションチェンジと一時的なサイドレーンの放棄、そしてハーフスペースが持つ特徴が、他にもポジティブな効果を生み出す。これは中央レーンや、選択肢が制限されるサイドのレーンにはないものだ。

 つまり、集団的なプレー――素早く、ゴールを意識した斜めのパスを生かしたコンビネーションや各選手がお互いにそれぞれの視野を補い合うことで生まれる調和、多くの選手が連動することで生まれる多彩かつ建設的なチームプレー――を可能にするというのもハーフスペースの特徴だ。

 さらに、ハーフスペースは攻撃と守備の局面だけではなく、トランジションの局面でも興味深くかつ重要である。

トランジションにおけるハーフスペースのメリット

 スペインや中南米のサッカー理論と日々格闘する人は、ある一文に頻繁にぶつかることだろう。

 「守備も攻撃も存在しない。そうではなく、それらは“一つ”である」

 ゆえに、この記事の中ではここまで、ボールを持っている時のハーフスペースの使い方について多くを費やしてきた。だが当然ながら、ハーフスペースはボールを持たず、守備をするチームにとっても重要である。基本的に“攻撃”と“守備”を分けるのは、ある特定のフェーズやシチュエーションを戦略的な観点からすぐさま思い浮かべ、理解できるように便宜上使うツールのようなものだ。この守備と攻撃を“統合”し“合一”なものとみなすことの背景には、それぞれ異なるゲーム中の戦術的フェーズに影響を与え合う多くの要素が複合的に絡まり合っている。ゆえに、安定し、インテリジェンスに富み、質の高く、一定の安全を確保しつつ、正確に選手が配置されたボールポゼッションやポジショニングプレーを実行できることは、守備時にも大きな助けとなることを意味している。一方で、良く組織されたプレッシングやゲーゲンプレッシングは攻撃にもポジティブな影響を与える。この点でも、ハーフスペースは独自の性質を備えている。

 ボール保持時にハーフスペースを基準にプレーすると、すでに説明した一方のハーフスペースから他方のハーフスペースへボールを展開することが多くなる。そして、ボール保持時間を長くし、2つのハーフスペースを占有し続けることは、攻撃に優位性をもたらすだけではなく、原則的にはボールロスト後のプレッシングを仕掛ける際にも、興味深い可能性を与えてくれる。

 例えば、逆サイドで中に絞っていたウイングはボールロストの瞬間にボールのない方のハーフスペースをすぐさま埋め、ケアすることができる。このハーフスペースにいた選手たちは一気に中央のスペースに入っていき、ボールサイドでのプレッシングに加わり、分厚いプレッシングからボールを奪い返すか、ボールをサイドの狭いスペースへと追い込む。対戦相手はプレスをかけてくる相手ユニットの外側でボールを回すか、もともと相手がボールを保持していたエリア――選手間の距離が近く、コンパクトに配置されている――をかいくぐっていかなければならない。また同様に、ゲーゲンプレッシングを仕掛ける“罠”を仕込むこともできる。ボール保持時にハーフスペースを占有しておくことで、ボールロストの瞬間にすぐさま中央のスペースを一気に封鎖してしまえる。

 ポジティブトランジションで攻撃に移る時も同様だ。守備のフェーズでハーフスペースをしっかりと埋めておけば、中央のレーンにいる選手を孤立させることができる。これにより、強烈なプレッシャーを与えるか、敵チームをサイドに追い込んでしまう。さらに、ハーフスペースを経由してフレキシブルに前に押し上げることができる。場合によってはそのスペースを空けることもできるだろう(例えば、敵チームの選手たちをサイドに押しやることで、彼らは本来なら埋めるべきハーフスペースを離れざるを得なくなり、この空いたスペースを経由してカウンターを成功させることに繋がる)。

 うまくボールを奪えれば、ハーフスペースが与えてくれる多くの選択肢を生かしたアタックを仕掛けられるようになる。ボールの周辺を囲む“群れ”を脱出するように数本のパスを繋げれば、ゲーゲンプレッシングをかけられた相手には難しいハーフスペースでのターンも比較的簡単に行える。そうして、このハーフスペースからサイドのレーンにボールを送ることもできれば、中央のスペースを使うことも、他方のハーフスペースにボールを展開することもできる。

 加えて、多くのチームがボール保持時にはワイドなポジションを取る傾向がある。だが、幅を確保するウイングはカウンターから直接ゴールを狙う時には必要とされない。彼らはハーフスペースにこそポジションを取るべきなのだ。ボールを奪った瞬間、敵チームには広いスペースをカバーし切れるだけのDFの枚数がそろっていない。したがって、サイドアタッカーは両ハーフスペースをそれぞれ埋める程度に広がっておけば、十分に相手の守備ブロックを広げることができる。これにより、ボールを奪ってからパスをそのまま供給でき、その勢いを殺さずにアタックを仕掛けられるようになる。同時に、敵チームにはオープンスペースができるので、いずれにせよ攻撃するには十分なピッチの幅を確保できる。ロジャー・シュミットが率いたレバークーゼンのように、狭いスペースを生かしたショートカウンターは、この意味ではより成功を約束してくれるやり方かもしれない。シュミットが率いるチームでも、そのカウンターの危険性を理解する上で中央とハーフスペースが鍵となる。

 だが、仮にゴールへと縦に速く、直線的に向かわない場合でも、ハーフスペースはトランジション時にポジティブな影響をもたらす。ルシアン・ファブレ時代のボルシアMGはコンパクトで各選手のポジショニングを基準とした守備とボールオリエンテッドなスライドを組み合わせて、ポジティブトランジションの瞬間には常にハーフスペースを良い状態で占有することができ、集団的で密接な距離を保つことができていた。彼らはワンタッチコンビネーションで一気に前線のCFかそのパートナーにボールを送る。あるいは、相手のゲーゲンプレッシングが機能している場合は、後方の選手を使ってボールを回し、自陣深くで安定したポゼッションを行い、再び落ち着いてビルドアップを始める。当時所属していたダンチ、テア・シュテーゲン、ノイシュテッターの3人はこのシステムを実行する上で最適なメンバーだった。

ハーフスペースの有効性は戦術スタイルを問わない。「パワーフットボール」の使い手ロジャー・シュミット(左)時代のレバークーゼンや鋭いカウンターとサイドアタックを武器としたファブレのボルシアMGも、ハーフスペースの使い方に長けたチームだった

 ここまで見てきた通り、ハーフスペースはボールを経由する上でさまざまな水平方向のゾーンを結びつけるのに限りなく理想に近いエリアであるだけでなく、縦方向へとボールを移動させる時にも非常に有効なエリアなのである。

 その意味で、確かにハーフスペースはさまざまなゾーンを“結びつけるゾーン”だと言える。その一方で、中央のゾーンはどちらかと言えば“オーガナイズするゾーン”である。また、サイドのレーンはボールを一気に縦方向に運び“ブレイクスルー”を行う際に適している。

 ここからはもう一度基本に立ち返り、なぜハーフスペースが戦術上、特別な地位を獲得しているのかを見ていきたい。


ハーフスペース完全版#5に続く→

Photos: Bongarts/Getty Images
Translation: Tatsuro Suzuki

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ハーフスペース戦術

Profile

シュピールフェアラーゲルンク

2011年のWEBサイト立ち上げ以来、戦術的、統計的、そしてトレーニング理論の観点からサッカーを解析。欧州中から新世代の論者たちが集い、プロ指導者も舌を巻く先鋭的な考察を発表している。こうしたプロジェクトはドイツ語圏では初の試みで、13年には英語版『Spielverlagerung.com』も開始。監督やスカウトなど現場の専門家からメディア関係者まで、その分析は品質が保証されたソースとして認知されている。