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戦術用語講座:ハーフスペース完全版#2

2018.02.22

Tactical Tips 戦術用語講座


攻守で布陣を変える可変型システムが一般化してきたここ2、3年、最後の30mを攻略するポイントになるスペースとしてにわかに注目を集めるようになった「ハーフスペース」。「ポジショナルプレー」を語る上でも見過ごすことができないこのゾーンの特徴から着目されるに至った経緯まで、ドイツの分析サイト『Spielverlagerung』(シュピエルフェアラーゲルング)が徹底分析。

あまりの力作ゆえに月刊フットボリスタ第54号では収まり切らなかった部分も収録した完全版を、全5回に分けてお届けする。


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視野

 視野とは、中心視と周辺視を合わせたものを指す。中心の視野を最大限活用するために視線を対象物に集める中心視とは対照的に、焦点を合わせハッキリと見えている部分の外側が不鮮明かつぼんやり、ゆがんで見えるのが周辺視であり、基本的には何か怪しいものを“さっと察知する”ためのものである。両目で見る場合の視野の広さは、水平方向におよそ180°~200°、垂直方向には約130°である。

 視野(視界)は、眼筋を動かすことでかなり広げることが可能だ。水平方向であれば最大で270°までカバーすることができる。また、立っている人間が足を動かすことなく(首や胴体の動きのみで)視覚的に把握できる範囲を指す“最大視野”がある。胴体の動きに制限がなければ、360°を目で確認することができる。

 ハーフスペースにポジションを取ってゴール方向への視野の確保することが、特別な効果を生み出す。仮に、ある選手がセンターマークの位置から50m前方(つまりピッチの端)を見るとしよう。この時、彼が視野に収めることができるのは下図が示すようにゴールとその周辺のスペースである。

 では、選手がハーフスペースからゴール(あるいは、ゴール付近のスペースか逆サイドのスペース)へと斜め方向に視線を向けた場合はどうか。下図を見てもらえばわかるように、(中央レーンからゴール方向に視線を向けた時よりも)より多くのスペースを視野に入れることができている。それはすなわち、より多くの選択肢を得られるだけでなく、より多くのスペースを活用することが理論上は可能だということである。

 同時に、選手にとって死角となるスペースは少なくなる。ハーフスペースはタッチラインとの距離が(中央レーンに比べ)近いため、タッチラインを背にしていれば背後からプレッシングを受けたり、相手からの強烈なプレッシャーにさらされる危険性は少なくて済む。

 また、ハーフスペースにポジションを取り斜め方向へのパスの選択肢を確保した方が、中央レーンからの単なる縦パスよりもはるかに相手のスライドする守備を崩しやすくなる。適切な視野を確保することで、受け手がより安定した状態でパスを受けられるようになり、より速く、より遠くへとパスを繋ぐことができるからだ。この特性を生かせば、ダイアゴナルなパスワークで前進してスペースを奪回することも可能になる。

 加えて、タッチラインがプレーの制限になってしまうウインガーの場合とは違い、ハーフスペースにポジションを取ったプレーヤーにとってはそこまでタッチラインが近いわけではない。ゆえにハーフスペースは、「(中央ほど自由ではないが、サイドほど不自由ではなくプレーするうえで)十分なスペースがある」状態と「視野に入らないエリアはあるが、(そのエリアの状況はそこまで重要ではないため)問題ない」状態の間で、理想的なバランスを保てるポジションなのだ。

 もちろん、この見立てを字面通りに受け取る必要もなければ過大評価する必要もない。基礎的な理論を明確化するために、あえて理想的な状況を用いて語っているに過ぎないのだから。当然ながら、いつもこのような理想的な状況になるわけではない。個別のケースではそれぞれの状況を考慮し評価を下す必要がある。対戦相手(の特徴)やその時々のシチュエーションによっては、サイドを使うのがベストな場面はいくらでもある。

 ここからは、攻撃におけるハーフスペースのメリットを見ていこう。特に、コンビネーションプレーやスペースメイキングに関して、ハーフスペースはポジティブなダイナミズムをもたらしてくれる。

パス

 ゴールを基準とするスポーツというサッカーの本質とパスコースの限定という要素が絡まり合って、ダイアゴナルなパスは縦パスとも横パスとも違う選択肢として重要なものとなっている。

 縦パスは、ボールをゴールへ向けて前進させる最短かつ最速の手段だ。しかし一方で、パスの受け手の視野は制限されてしまう。多くの場合ゴールを背にしてボールを受けることになり、背後で何が起きているのか見ることができないからだ。背中にディフェンダーを背負っていたなら、ゴール方向へ振り替えることすらできず、ボールを再び後方へ戻さなければならない。

 横パスは、基本的に相手を一方のサイドに引きつけてから逆サイドにボールを運んだり1本のパスでサイドチェンジをする場合に用いられ、守備側のプレッシャーから逃れることができる。ただ、ゴールへと直線的に近づくわけではないため、相手ゴールへとプレッシャーをかけることはできない。

 縦あるいは横方向へのパスの効果は、いずれも単一かつ単純な方向転換がほぼすべてであり、(対応する)相手に複雑な動きを強いることはできない。敵チームのユニットは、ただボールと進行方向に合わせてスライドするだけでいい。この2方向のパスが新たな、そして優位な状況を生み出すのは、敵チームの陣形が崩れている状況か、パスが新たな方向(縦から横、あるいは横から縦)に送られた時のいずれかの場合のみ。横パスを繋いで片方のサイドから逆サイドへボールを運んだ時、ボール自体は価値のあるスペースを通過するものの、逆サイドで結局は同じことを繰り返す羽目になる。

 守備陣にとって横のスライドよりもコントロールするのが難しい縦方向のスライド(特に後方へのラインコントロール)の方がより危険であり、DFラインの裏にボールが通った場合はチャンスに直結するとはいえ、縦パスも似たようなものだ。一般的に言って、これら2方向のパスの“単調さ”が例外的に効果を発揮するのは、直接ゴールを狙えるペナルティエリア内のような極端なゾーンくらいである。

 対照的に、ダイアゴナルなパスは直接ゴールに迫ることができると同時に、プレーを転換することもできる。それはつまり、パスの受け手が良い角度で視野を確保でき、確実に次のプレーに移行しやすいということでもある。横パスの欠点である相手へのプレッシャーの欠如と、縦パスの欠点である視野の制限は、ダイアゴナルパスでは解消される。縦パスと横パスの良いとこ取りができるのだ。

 ダイアゴナルなパスは、縦パスや横パスに比べ守備チームにより複雑な動きを強いる。ボールサイドへスライドしながら、同時にDFラインの高さも調節しなければならない。さらにほとんどのケースで、守備チームのユニットはある程度アシンメトリー(左右非対称)な対応を要求される。ブロックを構成する選手それぞれが微妙に異なる動きをしなければならなくなるために、ミスを誘発する可能性が高まるのだ。

 では、ダイアゴナルなパスとハーフスペースを特に関連づけているのは何なのか? 一つは、ハーフスペースでゴールを向くと(身体は)自然と斜めを向くこと。もう一つは、ダイアゴナルなパスを(ピッチの)どの位置から送るか、その場所が決定的な意味を持つことが関係している。中央からダイアゴナルなパスを送れば、ボールはゴールから遠ざかってしまう。サイドからであればゴール方向にパスすることはできるが、(ゴールから)離れた位置であり、しかも受け手はゴールに背を向けてボールを受けなければならなくなる。

 ここで再び、ハーフスペースからのダイアゴナルパスは2つのポジティブな側面を浮かび上がらせるとともに、ネガティブな面を帳消しにしてくれる。ハーフスペースから戦略的に重要な中央あるいはサイドのスペースへとダイアゴナルなパスが送られる時、受け手はフィールド方向に視野を確保し、そのままゴールに迎えるような状態でパスを待つことができる。ハーフスペースが持つこのダイアゴナルというメリットと、ダイアゴナルが持つ基本的な特性は、このスペースの鍵となる特徴の一つである。

 加えて、ダイアゴナルなパスはゴールに迫れるという特性も備えている。30mの横パスを通すのは、30mの縦パスを通すのと同じぐらい難しい。なぜなら、守備ラインを形成する相手チームがライン間の隙間をすぐさま埋めてしまうからだ。だが、ダイアゴナルパスは縦方向と横方向に生じるライン間の隙間を“ぶった切る”ことができる。これはつまり、ロングパスの成功率が高まることを意味する。さらに優れた副次的な作用もある。ハーフスペースからゴール前の中央スペース(バイタルエリア)へダイアゴナルなボールが通れば、(その後)縦のスペースも横のスペースも活用することができる。

 ダイアゴナルが持つもう一つの特性は、パスだけではなく敵チームの動き方にも関わってくるものだ。


ハーフスペース完全版#3に続く→

Photo: Getty Images
Translation: Tatsuro Suzuki

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ハーフスペース戦術

Profile

シュピールフェアラーゲルンク

2011年のWEBサイト立ち上げ以来、戦術的、統計的、そしてトレーニング理論の観点からサッカーを解析。欧州中から新世代の論者たちが集い、プロ指導者も舌を巻く先鋭的な考察を発表している。こうしたプロジェクトはドイツ語圏では初の試みで、13年には英語版『Spielverlagerung.com』も開始。監督やスカウトなど現場の専門家からメディア関係者まで、その分析は品質が保証されたソースとして認知されている。