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「俺たちのゲームを壊している」試験導入ビデオ判定が呼ぶ激論

2017.11.07

皇帝ベッケンバウアーが躍動した70年代から今日に至るまで、長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。ここでは、ドイツ国内で注目されているトピックスを気鋭の現地ジャーナリストが新聞・雑誌などからピックアップし、独自に背景や争点を論説する。今回は、議論が噴出しているビデオ判定へのドイツ国内の反応。

 元FIFA会長のゼップ・ブラッターは、今季からブンデスリーガでスタートしたビデオ判定(VAR)を見てほくそ笑んでいるに違いない。彼は就任中ずっと「サッカーの人間味が失われる」とか「ミスジャッジがなくなると、ファンの議論の材料が減る」という理由で、VARだけでなくあらゆる技術的な判定補助に反対していたのだ。

 それが今、ブンデスで試験的に導入されたわけだが、実際には『南ドイツ新聞』が指摘するように、「観客と関係者たちの議論はさらに激しく、ヒートアップしている」。公共ラジオ局『ドイチェラントフンク』も「ゲームはもっと公平になるはずだったし、もしかするとなったのかもしれない。だが問題は、そうは感じないことだ」と嘆く。ビデオ判定プロジェクトは、現在の形のままでは大失敗に終わる恐れがある。

甘かった「1節に2度」の見通し

 ドイツの審判制度の責任者たちが今年1月に出した見通しには、安心できる響きがあった。昨シーズンの前半戦に実施されたテストの結果を見ると、1節につきブンデスの全試合を通してVARが用いられるのは2度ほどで済む、ということだったのだ。ゆえに、ほとんどの試合では何も変わらないというのが、この技術を批判的に見る人たちへのメッセージだった。ところが、実際に運用してみると、1試合につき2度もVARが用いられているのだから、予測とはかけ離れている。「VARは審判を守るはずだったが、そうではなく、かえって彼らの調子を狂わせた」と『ツァイト』紙。審判たちが、自分自身のコンセプトに忠実でいられなくなったからである。

 本当は、何よりも大切なはずの大原則があった。VARを用いるのは、ある程度サッカーのルールについて知識がある人が見れば誰にでもわかるようなミスと、得点、PK、退場、または選手の見間違いがあるような場合のみ、というものである。それが実際には、「完全なるミスジャッジ」である可能性がないような場合にも用いられている。ビデオアシスタントが、ピッチにいる自分の同僚たちを、単に訂正するだけであることが多い。そしてそれも、常に同じ条件で行われるわけではないのだから、混乱しないわけがない。この技術に賛成する人たちが減るのも不思議ではない。

 第4節ケルン戦(9月17日/5-0)の最中にドルトムントのサポーターたちが持った不快感は、ドイツサッカー連盟に向けて「お前らは俺たちのゲームを壊している」と彼らに歌わせるくらいに大きかった。

 1-0でドルトムントがリードしていた前半終了間際、ドルトムントのCKをケルンのGKホルンがキャッチしようとするがこぼし、ソクラティスが押し込む。この際にファウルがあったとして主審が笛を吹くが、VARの結果、ファウルはなかったとしてゴールが認められた。しかし、この得点は笛が鳴ってからゴールラインを越えたので無効であるとケルン側が抗議。結局は退けられドルトムントの得点が認められたのだが、ファンはこんなゴールはいらないと言うのである。

判定が物議を読んだドルトムント戦後、審判と会話を交わすケルンのシュテーガー監督

W杯次第で“消滅”も!?

 『南ドイツ新聞』は「これまでの運用方法では機能しないということで意見は一致している。今のところVARは公平性や正当性をもたらしていないし、かえって試合を不安定にする印象がある」と論じている。

 『フランクフルタールントシャウ』紙は「新しい暴政の手段」と糾弾。また、『フランクフルターアルゲマイネ新聞』は解決策を提案する。「VARをいつ、どう使うか、もっと細かく検討されなければならない。そのプロセスが誰にでもわかるように。そして何よりも、すべての試合会場で、同じ条件の下で用いられなければならない」。しかし、この“疑問の余地のない条件”というものが実際に存在するのかどうかさえ疑わしい。

 問題が解決しなければ、VARが導入されるであろう来年のロシアW杯はかなりの混乱に見舞われることになる。国際舞台のトップゲームで笛を吹く機会が常にあるわけでない国々の審判たちが、非常に重要な判断をしなければならない場面に出くわし得るのだから。まだテスト初期段階でありながら繰り広げられる感情的な議論は、W杯となればさらに勢いを増すだろうし、それが大会に暗い影を落とすだろう。そうなればおそらく、VARは結局葬られる運命をたどるのではないか。そんな予感がしてならない。

Translation: Takako Maruga
Photos: Bongarts/Getty Images

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VARドイツブンデスリーガ

Profile

ダニエル テーベライト

1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。