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シャビ・アロンソが新生レアル・マドリーに反映する「規律と支配」(後編)。カレーラス、ハイセン…モダンフットボールに逆らうポジショナルプレーへの挑戦者たち

2025.09.26

シャビ・アロンソ新監督の下で2025-26シーズン開幕を迎え、公式戦7連勝を飾っている絶好調のレアル・マドリー。ラ・リーガで得点増と失点減に導いた攻守の整備を振り返りながら、新戦力のアルバロ・カレーラス、ディーン・ハイセンらの貢献と戦列復帰のジュード・ベリンガムへの期待を、元エリース豊島FCテクニカルコーチのきのけい氏が前後編に分けて分析する。

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“各プレスラインのすぐ背中”に立つ原則が担保するポジションバランス

 アロンソのビルドアップの方法論は、レバークーゼン時代とさほど大きくは変わっていない。配置は [2-3-5]を中心に[3-2-5]や[3-1-5-1]のように見えることもあるが、本人も述べているように、数字上の表記はさして重要ではない。肝となる原則は、それぞれの選手が“各プレスラインのすぐ背中”にポジションを取る、というものである。選択肢を確保しながらゆっくりと前進するにはフリーで前向きの選手を作ることが非常に重要であり、アロンソもそのために心血を注いでいる様子がうかがえる。

 ボールホルダーに寄らない、という考え方はスペインを起点にヨーロッパでは常識となっているが、1つ目のプレスラインから離れすぎると、今度はその奥のプレスラインを形成する選手の管理下に自ら入ってしまう。そうすると、縦パス(距離も長くなる)の移動中に相手がファーストDFを決めやすくなり、背負った状態でボールを受けることとなる。マドリーの選手たちはアロンソ着任以降、ボールホルダーから離れるアクションの回数が増えたが、その際頻繁に首を振り、さらに奥のプレスラインに近づきすぎないよう立ち位置を調整しているように見える。結果として、それぞれの立ち位置が散開しすぎず、近い距離感で複数の選手との間にパスラインを引けるようになった。

 また、後方に落ちて受ける際のポジショニングも同様である。前向きで視野を確保できる位置まで相手のプレスラインから離れることで、背負った状態でボールを受けることが少なくなった。もっと言えば、無理に相手が食いついてきて背負って受ける状況になってしまった時のメカニズムも浸透しており、近い距離のレイオフやバックパスによるやり直しを多用することで、再び前向きのボールホルダーを作り出している。その際、出し手としても受け手としてもMFと近い距離感を取るSBが関与することが多く、これもアロンソの落とし込んだビルドアップの特徴と言えるだろう。

 各プレスラインのすぐ背中に誰かがいれば自然とバランスの良い配置ができあがるため、選手間のポジションチェンジは許容されており、流動性は比較的高い。特に右サイドは編成上大外で質的優位を発揮することのできるアタッカーが不在であるため、アルゼンチンからやってきた18歳のフランコ・マスタントゥオーノの内側へと侵入する動きを起点にポジションが入れ替わる。また、クラブW杯ではボランチを務めたギュレルも、トップ下の位置にとらわれず広くボールに関与しながら後方とムバッペを繋いで決定機を生み出しており、レバークーゼン時代のフロリアン・ビルツに近い役割をこなしている。

カレーラスも即フィット、ハイセンが振り払うクロースとモドリッチの幻影

 比較的ウイングが幅を取ることの多い左サイドでは、カレーラスがハーフレーンでビルドアップの出口かつ侵入の入り口となり、さらには相手MFライン奥の空いた席(=味方が誰もいないプレスラインのすぐ背中)を見つけるとスルスルとポジションを上げて選択肢となり、チャンネルランからのクロスまでこなす。サイドレーンからも相手の目線を動かすひとつ飛ばしのパスやレーンを横切るドリブルを多用し、レバンテ戦ではCBにも難なく対応するなど、複数のエリアで複数の役割をこなせるモダンなSBとしてさっそく価値を発揮している。

 試合を重ねるごとに影響力を増しつつあるカレーラス以上に鮮烈なデビューを果たし、すでになくてはならない戦力となっているのがハイセンだ。受け手がボールホルダーに寄らずにプレスラインの背中にポジションを取るということは、言い換えれば相手のプレッシャーを引き受けるという責任をボールホルダー自身が負うということである。マドリーというクラブは、ルカ・モドリッチとトニ・クロースという稀代のプレーメイカー2人がそろって以降の約10年間、彼らが最後列付近に落ちてプレッシャーを引き受けることでビルドアップを成立させてきた。CBが意思決定の責任を負う場面は少なく、下に重い配置となり、それによりCFが孤立したりゴール前が空洞化したりする現象が常に発生していた。

 ハイセンはその伝統に終止符を打った。

……

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Profile

きのけい

本名は木下慶悟。2000年生まれ、埼玉県さいたま市出身。東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻所属。3シーズンア式蹴球部(サッカー部)のテクニカルスタッフを務め、2023シーズンにエリース東京FCのテクニカルコーチに就任。大学院でのサッカーをテーマにした研究活動やコーチ業の傍ら、趣味でレアル・マドリーの分析を発信している。プレーヤー時代のポジションはCBで、好きな選手はセルヒオ・ラモス。Twitter: @keigo_ashiki

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