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ドイツサッカーの知られざる危機。 過剰な商業化がもたらすファン離れ

2017.09.18

ドイツサッカー誌的フィールド 第91回

皇帝ベッケンバウアーが躍動した70年代から今日に至るまで、長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。ここでは、ドイツ国内で注目されているトピックスを気鋭の現地ジャーナリストが新聞・雑誌などからピックアップし、独自に背景や争点を論説する。

第91回は、ドイツのファンに広がる“不快感”の深層。

 一見すると、2017年の夏、ドイツサッカーは見事に花を咲かせている印象を与える。ドイツ代表はコンフェデレーションズカップにリザーブチームで優勝し、U-21チームも欧州選手権を制した。また、ブンデスリーガの観客動員数はレコードを更新。クラブは収入増を喜んでいる。

 だが、目を眩まされてはいけない。なぜなら、ドイツサッカーはベースとなる層のファンから、徐々に離れつつあるからだ。ファンがチームの練習から締め出されることが多くなってきており、スタジアムの年間パスやレプリカユニフォームからビールやソーセージ、有料放送まですべての価格はどんどん値上がりしている。さらに、もうすぐCLは完全に有料放送でしか見られなくなってしまうのだ。

 「サッカーの力の中心を成すのはファンだが、このエネルギー源は容赦なく搾取されている」と指摘するのは『シュピーゲル』誌。また、ドイツ代表マネージャーのオリバー・ビアホフは予言する。「そのうち衝突するだろう」と。だが、根本的な解決策はない。

怒りのブーイングに消えた国民的歌姫の歌声

 今年5月末のDFBポカール決勝後、ドイツのサッカー用語に新語が加わった。「ヘレーネ・フィッシャー化」というワードだ。

 ヘレーネ・フィッシャーはドイツの音楽界最大のスターであり、歌謡曲の女王だ。『南ドイツ新聞』の表現を借りれば「彼女はみんなのアーティストであり、トゲがなく無害の、クリーンな存在である」。ゆえにドイツサッカー連盟(DFB)の首脳陣は、決勝のハーフタイムで彼女に歌ってもらうのは良い余興になると考えたのである。

 しかし実際には、彼女の歌声はオリンピアシュタディオンを包む怒りのブーイングの中に沈んでしまった。

 この一件は、ドイツサッカーに浸透しつつある大きな不快感が、最も強く表出した場面だった。DFBは現在、サッカーをヘレーネ・フィッシャー同様クリーンな娯楽商品にしようとしているのだ。

 人々がサッカーを愛するのは、それがまるで人生のようであるからだ。美しくてインテンシブであると同時に、計り知れなく計算不可能、不公平で、時にかなり退屈でもある。だからこそ誰もが繋がりを見つけられるのだが、その特徴の一部が今、失われる危機にある。

 先述のポカール決勝では、キックオフ前からすでに、両チームのファンたちが一緒になって「シャイスDFB! シャイスDFB!」(シャイス=クソ)と歌い、ドルトムントのサポーターは「DFBと戦う」というバナーを掲げていた。社会の中間層にいる温和なサッカー好きの人たちでさえ、嫌悪感を覚え始めているのだ。

昨季のDFBポカール決勝でパフォーマンスを披露したヘレーネ・フィッシャー

衝撃のアンケート結果

 例えば、ドイツ・スポーツマーケティング研究所所長で教授のアンドレ・ビューラーは、同志たちとともに「FCプレー・フェア。プロサッカーにおける良心のためのクラブ」を設立。1万7000人を対象にアンケート調査を行なったが、結果はショッキングなものだった。何と半数以上の人たちが、このまま商業化が進んでいけば自分はサッカーから離れていくだろう、と答えたのである。さらに80%の人たちが、「サッカー首脳陣にとってより重要なのはスポーツそのものではなく金であると思うか」という質問にイエスと答えている。

 連盟はアメリカ4大スポーツの一つ、NFL最大のビッグイベントであるスーパーボウルのハーフタイムショーを真似てフィッシャーを招いたわけだが、この致命的な大失敗は、DFBはスタジアムのファンたちが本当に望んでいるものは何か、まったくわかっていないことをさらけ出してしまった。

 歯止めの利かない商業化は、ブンデスリーガをバイエルンにしか優勝できないコンペティションにした。それはDFBの首脳陣たちも問題視している。特にアジアやアメリカでブンデスリーガを商品として売る際、不利になるからだ。タイトル争いにスリリングさが失われただけでなく、ドイツサッカーの成功の秘訣――スタジアムの特別な雰囲気、多くの立ち見席、いまだに比較的安いチケット、まだ払える程度のテレビ視聴料――までもが危険にさらされている。短期的に収益を増やそうとするリーグのたゆまぬ努力は、長期的に見るとサッカーの核を脅かすことになる。「ブンデスリーガはまやかしの世界となり、常連ファンを失う危険に向かっている」(『シュピーゲル』誌)。

 今はまだ、無限にあるように見える最大の資源、つまりファンの情熱によってみんながいい思いをしている。しかし政治家とクラブ経営陣、DFBの首脳陣は、サッカーがその魔法を失わないために、この貴重な資源を大切に扱わなければならないという感覚を、持ち合わせていないように見えてならない。

Photos: Bongarts/Getty Images

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Profile

ダニエル テーベライト

1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。