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「柏レイソルの“軸”について考える機会になった」渡辺毅ADがビジャレアル研修で考え続けた「準備=地域共生や人間教育」という土台

2026.01.06

ビジャレアルCF・佐伯夕利子氏に聞く、柏レイソルも取り入れた「知的財産」を活用する独自の世界戦略とは?』『柏はなぜ、ビジャレアルから学ぶのか?布部陽功FDは“もったいない”を解決したかった』の過去2回にわたってビジャレアルと柏レイソルの知的財産(IP)「アカデミーディべロップメント・プログラム」について取り上げてきたが、25年11月からフェーズ3として、渡辺毅アカデミーダイレクター(AD/53歳)をはじめとしたアカデミーコーチ陣がビジャレアルを訪問。「実はこの取材の直前まで、アカデミーのスタッフ陣であらためて柏レイソルの“軸”について話し合っていたところです」。Jの名門アカデミーのコーチ陣は、バロンドール受賞者ロドリを輩出したスペイン屈指の育成組織から何を学んだのか?

(写真提供:ビジャレアルCF)

 2025年のJリーグ最終節を終えた直後、柏レイソルのクラブハウスを活気に満ちた軽やかな空気が包み込んでいた。事務所のロビーにはオフになったタイミングで訪ねる多くの客人が待機して直通電話のボタンを次々に押す。そのたびにスタッフたちが笑顔でゲストを迎えに来る。

 選手、スタッフはもちろん、日頃表には出る機会の少ないクラブ運営を担う関係者たち全員が生み出す雰囲気はクラブによって大きく異なる。それがどう違うのか、クラブの成績と関係があるのか説明は難しいが「クラブの現在(いま)の姿」を映し出す1つの要素としていつも興味深い。

 優勝した鹿島には1歩届かず年間2位でリーグを終了。これまでとは変わった活気や軽やかさはデータにはならないが、柏の2025年の戦いを象徴する目に見えぬ「勝ち点」かもしれない。

「全員で一緒に進化」アカデミー陣だけでなく社長&GMもスペインへ

 シーズンもまだ浅い今年3月、快進撃の予感を漂わせる柏レイソルはピッチの内外両方で改革に挑み始めていた。

 今季就任したリカルド・ロドリゲス監督のピッチにおける改革の成功は、数字も明確に示す。

 1試合での平均パス数は609.2本と、優勝した鹿島449.7本(全体で10位)、ルヴァン杯決勝を争った広島(458.5本、同8位)より多く、当然ボール支配率も柏が59.3%でトップ。鹿島と広島は50.2%でともに11位だった(Jリーグ公式データより)。サッカーの質という個性が際立った。

 中でも60得点は、24年の39ゴールを大きく上回る。「堅守速攻からポゼッションサッカーへ」大胆に変身して見せた。

 そしてシーズン開幕よりずっと早い年明けから、ピッチ外でも重要な改革が始まっていた。「未来への基礎工事」だろうか。

 古賀太陽、細谷真大らトップチームの主力となる選手を送り込んできた柏伝統のアカデミーは、育成で世界的な評価を持つ「ビジャレアルCF」(スペインバレンシア州)が展開する知的財産(IP)「アカデミー・デブロップメント・プログラム」をJクラブで初めて購入した。第1フェーズは1月、スペインサッカーと1923年に創設されたクラブの歴史、ラ・リーガ誕生の背景を学ぶオンライン講座で始まった。

 ラ・リーガの、欧州の強豪クラブの知財が技術論や指導論ではなく、歴史や背景から始まった日、コーチたちは少し戸惑い、しかし基礎工事の資材を丁寧に運び込むかのような作業に強い関心を持って臨んだという。

 第2フェーズはシーズンが開幕した3月に、柏に講師2人をビジャレアルから招いて21人のアカデミーコーチに対して行われた。午前中は座学、午後はピッチでアカデミーの指導を一緒に見ながら気づきや新しい発見を共有しディスカッション行う4日間のセミナーが実施された。

 取り組みのきっかけとなったのは同じスペイン人のロドリゲス監督ではない。自らもビジャレアルを視察した経験を持つ布部陽功ゼネラルマネジャー(52)と、ビジャレアルで育成やクラブと日本の橋渡し役となるなど活躍する佐伯夕利子(52=前・Jリーグ常勤理事)のつながりからだった。

リカルド・ロドリゲス監督(中央)と佐伯夕利子氏(右)。左はアレハンドロ・マルケス氏

 知財の仕上げとなる第3フェーズは11月に柏からコーチ陣が現地ビジャレアルを訪問して行われた。人口わずか5万人の小さな町のフットボールクラブの具体的な育成メソッドを、4日間かけて現地で体験する。指導法はもちろん、年代や性別、障がいの有無を超えた人々の交流、人口1人あたりのサッカーのピッチ面積が欧州で最も広いと言われる最高峰のスポーツ環境の提供、教育、文化、サステナビリティ、地域貢献の発信地でもあるクラブの姿をも目の当たりにする。

 特に日本の関係者から「ビジャレアルCFに一度寄らせてほしい」「海外研修をさせてもらいたい」といった要望が佐伯に殺到する。しかし、そういった見学の要望すべてに対応しないのは「クラブは知的財産であり保護するもの」とする明確な一線を引いているからだ。

 第3フェーズを終えて帰国し、それをレポートにまとめている渡辺毅アカデミーダイレクターにも「柏の空気が変ったように感じたのですが……」と聞いた。

渡辺毅アカデミーダイレクター(後列右から1番目)

……

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Profile

増島 みどり

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年独立しスポーツライターに。98年フランスW杯日本代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞。「GK論」(講談社)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作多数。フランス大会から20年の18年、「6月の軌跡」の39人へのインタビューを再度行い「日本代表を生きる」(文芸春秋)を書いた。1988年ソウル大会から夏冬の五輪、W杯など数十カ国で取材を経験する。法政大スポーツ健康学部客員講師、スポーツコンプライアンス教育振興機構副代表も務める。Jリーグ30年の2023年6月、「キャプテン」を出版した。

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