SPECIAL

【クラシコレビュー】バルセロナの意表の5バックが“結果的に”ハマった理由とは?【山口遼×きのけい対談前編】

2023.11.04

アウェイのレアル・マドリーがバルセロナを逆転で下し、勝利を収めた今シーズン最初のエル・クラシコ。主力に負傷者が相次ぐ中で予想外の布陣を採用したバルセロナの出方など勝負のポイントとなった点について、東京大学ア式蹴球部の先輩後輩であり、現在はエリース東京FCで監督とテクニカルコーチとしてともに指導に携わっている山口遼氏ときのけい(木下慶悟)氏が対談形式で分析する前半。

「そうせざるを得なかった」バルサ

――まずはそれぞれの視点から、試合の全体的な印象を聞かせてください。

きのけい(木下慶悟)「今シーズンのマドリーは敗れたのがアトレティコ(・マドリー)戦のみで、ラ・リーガで躍進中のジローナやCLでのナポリなど力のあるチームに勝利してきていますが、そういった試合でのパフォーマンスと比べて、そもそものチームとしての配置や個々の選手の判断といった部分で前半はすごく悪くて、後半になって選手交代も含めて改善して結果的に勝つことができた、というのが大まかな印象です」

山口遼(以下、山口)「バルセロナについてはケガ人が多過ぎて、いつもとは違うやり方で臨んだという側面がありこの試合だけ特殊だった部分がどうしてもありました。その中で、あれが会心のやり方だったかと言えばそうではないと思うのですが、特に前半は比較的うまくやっていたと思います。バルサが5バックでミドルブロックから前向きにカウンターと仕掛けるというプランを選んだことへの動揺もあったのか、マドリーがあまりにも良くなかったという面もありました。ただ、後半に入ると投入されたレバンドフスキの芳しくないパフォーマンスに象徴されるように、状態面も含めて代えられる選手がいなかったことによるガス欠感は否めず、ゴール前でフリーの選手を作られたのは2、3回だったと思うのですが、そこで決め切るクオリティを持っているマドリーにやられてしまいました。とはいえそれも、メンバーの状態を考慮すると仕方ないのかなという印象です」

――ではここからは、より具体的な試合のポイントについて分析していければと思います。大きなポイントとなったのが、すでに言及もありましたがバルセロナの3バック(5バック)の採用でした。その狙いと成否について、どのように映ったでしょうか?

山口「前提として、ケガ人が多くて右ウイングをできる選手がほぼおらず、CFもいないのでフェランがやるしかない状況でした。その中で、右の幅取りを誰がやるのかと言うとカンセロにやらせるしかありません。そうなった時に、中盤自体はロメウを出してギュンドアンとガビと組ませれば[4-3-3]にできるのですが、サイドで幅を取る選手を誰にするのかという問題が生じます。それもあっての3バックだったのかなと。ベストの陣容ではないのでやや守備的なプランになりましたが、前向きでカウンターへ移行するシーンは何度も作れていましたし、それを狙ってのメンバーだったように見えました。

 興味深かったのが、ダブルボランチにロメウを起用しなかったこと。ギュンドアンとガビを組ませたのは、比較的守備的な配置にしている中でもボールへの関わりを重視して選んだのかなという印象で実際に機能もしていました。ただ、結果的にはうまくいきましたがゲームプラン的な意図と選手配置の合理性はあまり感じられなかったというのが正直なところあって、なぜこの配置にしたのか、真相はチームの内部事情に精通していないとわかりません」

きのけい「バルセロナはマドリー対策として、ビニシウスの対面にアラウホを置くというのを以前からやっていました。昨シーズンまでのビニシウスは左の大外レーンにいることが多かったのですが、今シーズンはより内側でプレーする時間が長くなっています。それも踏まえて、中央でのビニシウスを防ぐという意味で3バックにしてきたという側面もあったのかなとマドリー視点では感じました」

――特に前半は、バルセロナがサイドから崩していくシーンが幾度も見られました。マドリー視点で言うと、開いたCBを起点にくさびのパスを入れられた際に相手の連係を止められなかったという印象があるのですが、この点についてはどう分析されていますか?

きのけい「マドリーの考え方として、1つポイントとなっているのがバルベルデのポジショニングです。今シーズン、彼は基本的に最終ラインには加わらず[4-4-2]で守備を行っています。ただ、過去によりレベルの高い相手との対戦となった時、例えばCLを獲った時などは、アンチェロッティはバルベルデを最終ラインに落とす守備を採用していました。

 ただこの試合ではそうやってバルベルデを落とした時、構造的にかみ合わない部分がありました。相手の3バックの右に入ったアラウホに、誰が出ていくのかという点です。前半はベリンガムが出ていく形を採っていたのですが、その時にクロース周辺のスペースが空いてしまい、ガビとフェルミンの2人が正しいポジションを取っていたことでそこを使われた。これが立ち上がりの15分くらいまでに起こった現象でした。

 こうした状況を受けて、マドリーは修正を加えました。ベリンガムをガビ、クロースをフェルミンの管理に当てることで、守備面に関しては一定の安定感を取り戻していったと評価しています。この修正により噛み合わせが変化し、今度は逆のCBのイニゴ・マルティネスにフリーで持ち運ばれることになるのですが、致命傷にはなりませんでした」

――翻って、バルセロナ視点で見た時にこのサイド攻略は狙い通りだったと言えるでしょうか?……

残り:6,186文字/全文:8,466文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

エル・クラシコバルセロナレアル・マドリー

Profile

久保 佑一郎

1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。

RANKING