4月12日発売の『フットボリスタ2023年5月号』は、現代サッカーにおいて復権しつつある「ウイング」を大特集。その連動企画としてWEBではJリーグの注目株を含め、サイドを主戦場に活躍する国内外の選手にスポットを当てる。初回は、先日Jリーグ公式チャンネルにも“J1 No.1ドリブラー!?”としてキレキレドリブル集が公開された今話題の25歳、北海道コンサドーレ札幌の金子拓郎を取り上げたい。
今季のJ1で際立った存在感を放っている1人が、北海道コンサドーレ札幌のMF金子拓郎だ。日本大学から2020年に札幌入りし、プロ4年目を迎えているレフティは、右ウイングバックのポジションを主戦場として得意のドリブル突破を武器に活躍中。テクニカルかつハイスピードなドリブルワークは観る者の視線を集め、ドリブル回数もリーグトップクラスの数字を叩き出している。攻撃的なサッカーを身上とする“ミシャ”ことミハイロ・ペトロヴィッチ監督の下、ルーキー時から才能を発揮してきたが、今季はそれにさらなる磨きをかけてライバルチームの左サイドを切り崩し続けている。
「試合に出られるのならば、どのポジションでもやりますよ」と前置きしながらも、「でも正直、右サイドが主戦場になるとはプロ入り当初は思ってもいませんでした。特別指定選手の時もボランチやシャドーで出場していましたし」と、現在の状況は本人をして想定外だった様子だ。
そもそも金子にとっては札幌入り自体が思いもよらない形だった。
大学3年だった2018年夏のこと。日大サッカー部は北海道釧路市で合宿を張り、最終日に札幌市内で札幌と練習試合を行ってその足で帰京するスケジュールだった。そして、そこがターニングポイントとなる。金子は回想する。
「札幌との練習試合を終え、空港に向かうべくバスに乗ろうとした時に監督から『金子はちょっと待て』と言われたんです」
その理由は、練習試合でのパフォーマンスが札幌首脳陣の目に留まり、そのまま練習参加をしていくことを要請されたからだ。
「びっくりしましたね。まさかそんなことが起きるなんて思ってもいませんでしたから。『やっと合宿が終わって帰れるぞ!』という心境でしたから戸惑いもあって(笑)。それは冗談ですが、めちゃくちゃうれしかったです。自分がプロクラブから興味を持たれるなんて予想もしていませんでしたので」
果たして、金子はそのまま北海道滞在を1週間延長して札幌で練習参加をした結果、予想外のストーリーは現在にまで続いている。
ハジを想わせるプレーメイカーを、あえてのアウトサイド起用
と、金子側の視点から見れば極めてドラマティックだが、真相は偶然性に支配されたシンデレラストーリーなどでは決してない。札幌の鈴木智樹強化担当が振り返る。
「その年のデンソーカップで見て以降、(金子)拓郎の存在はずっと気にしていました。でも、あの年は僕が本格的に学生のスカウトを担当するようになった初年度で、僕個人のコネクションがまだあまりなかった。どのように日大さんにアプローチしていこうか逡巡(しゅんじゅん)していた状況だったんです」
そんな最中に日大と地元で練習試合が組めたことは、何かの運命なのだろう。鈴木は続ける。……
Profile
斉藤 宏則
北海道札幌市在住。国内外問わず様々な場所でサッカーを注視するサッカーウォッチャー。Jリーグでは地元のコンサドーレ札幌を中心にスポーツ紙、一般紙、専門誌などに原稿を寄稿。