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「ぬるぬる感」の秘密まで徹底解剖。footballhack流、三笘薫ドリブル総論

2022.11.22

23日にカタールW杯初戦で強豪ドイツとの運命の一戦に臨む日本代表。中でも期待を一身に背負うのは、その破壊的なドリブルで左サイドを切り裂き一気にゴールへと迫る三笘薫だ。筑波大学時代からドリブラーとして名を馳せ、ユース時代を過ごした川崎フロンターレでJ1デビューを果たすと、瞬く間に日本中のサッカーファンを魅了。ベルギー1部ユニオン・サンジロワーズでの武者修行を経て、今夏から保有元のブライトンでも出場機会を徐々につかみ、川崎時代と変わらぬプレーで世界を驚かせつつある。そんな彼の特徴を、著書『サッカー ドリブル 懐理論』でドリブルを理論体系化しているfootballhack氏が徹底解説する。

 何もないところから敵陣に切り込み、一瞬にしてビッグチャンスを創造してしまう三笘薫選手。今回はそんな彼のドリブルを中心にしたプレースタイルの解説を筆者なりに試みていく。理解を深めていただくために、参考動画も挟みながらご覧いただきたい。

 三笘選手のドリブルの特徴を整理すると、まずは「①圧倒的なスピード」。そしてそれを最大限に生かすための「②シンプルな仕掛け」。そして彼のボールタッチを表現する時に用いられる「③ぬるぬる感」。最後に、やはりスピードやドリブルだけではない独特の「④サッカーセンス」。これら4つのポイントを切り口に解説を進めていく。加えて、ドリブルとはそもそもどういうプレーなのかという点にも触れながらまとめてみよう。

①圧倒的なスピード

 三笘選手は速い。これは関係者が口をそろえて言うことであり、彼のドリブルを解説する上では外せない特徴だ。特に数歩でトップスピードに達する加速力は、対峙するDFにとって悪夢だろう。しかし、ここで一つの疑問が浮かぶ。スピードがある選手は三笘選手以外にもたくさんいる。それなのになぜ、そのドリブルは他の選手より速く見えるのだろうか。

 その秘密はボールタッチに隠されている。普通ドリブルする時はボールを正確にコントロールするために、膝を持ち上げて爪先をやや内側に下げてアウトサイド付近で柔らかくボールを捉える。この時、足首は通常よりやや伸びた状態で、ボールタッチ後はその足を降ろし地面を踏んで走行を進めていく。そのため通常は足首が返り切らず、足裏と地面の接触面積が小さくなってしまう。極端に言うと、つま先立ちのような格好で地面を蹴らざるを得ないということだ。

 これでは地面からの反発力を上手く受けられずに走行スピードが落ちてしまうが、三笘選手は違う。彼のボールタッチは、アウトサイドを使ってボールを上から斜め下にすくい出すような動きだからだ。ボールにはやや斜めの回転がかかり、足首を返しながらアウトサイドでタッチするので、柔らかいタッチと力強い踏み出しの両方を同時に実現できる。ボールタッチ後の足裏と地面の接触面積が広いため、ドリブル中も素走りの時とほとんど変わらずに走行できているのだろう。

 正確性とスピードはトレードオフの関係にある。一般的に選手はボールコントロールを重視する傾向にあるので、どうしてもスピードが落ちるものだ。そこを三笘選手はややスピードが上回るような、正確性:スピードを4:6くらいのバランスでドリブルしているように見受けられる。つまり、コントロールが多少暴れても、自分の持っているスピードを最大限生かすための足の運びを優先しているということだ。それにより、地面踏ん力(ふんりき)を最大化し、スピードでDFを振り切れるようなドリブルスタイルを構築したのだろう。

 おそらく彼の中では、「この状況では体のこの位置でボールに触れて、こういうボールタッチが最も速い」というパターンがいくつもある。直線のドリブルやスワーブしていくようなドリブルでは異なるやり方、あるいは感覚を持っているように映るからだ。特筆すべきは、切り返し。ボールを上から刈るような鋭いタッチでDFを置き去りにしてしまう。これももちろん、地面踏ん力を最大化するために足を地面に置く感覚で振り下ろしている。ボールには逆回転がかかり、体から離れてもスペースで減速する。そうすれば簡単に追いつくことができるという算段で、DFの逆を取るだけではなく自分の体を素早く運ぶ意識を強く持つことも重要であることを教えてくれるドリブルだ。

 さらに三笘選手は、緩急をつけるのも得意だ。スペースを見つけるとトーンとボールを蹴り出してギアを上げる。そこから一旦細かいタッチのドリブルに切り替えることも少なくない。加速中の大きなドリブルの中で一回だけ小さいタッチを入れると、DFは足元に意識を集中させざるを得ない。そこで再度大きなドリブルで加速し引き離す(下記動画2:59~) という並走中に有効なテクニックも兼ね備えている。

②シンプルな仕掛け

 こうしたスピードを最大限生かしているのが、シンプルな仕掛けだ。三笘選手のドリブルには派手なフェイク動作が少ない。それよりも動きながら主導権を握りつつ、その中で相手の逆を取って抜いていくスタイルだ。最大限対策してきているはずなのだが、三笘選手が加速するとあっという間に背後を取られ、尻もちをついてしまうDFも少なくない。その一瞬でかわすスピードが魅力的であるからこそ、かわした時のボールタッチに目を向けがちだが、ここで筆者が主張したいのは「三笘選手の仕掛けはその前から始まっている」ということだ。

 ここでは状況を2つに分けて解説を進めたい。一つはDFとの間合いが近い時。もう一つは間合いが遠い時だ。まず間合いが近い時。下図のように左サイドでボールを持った三笘選手が相手の右サイドバックと正対したシーンを想像してみよう。

 まず図1は「反発ステップ」と呼ばれるもの。筆者は「懐の縦突破」と呼んでいる。前傾して軸足をボールより前に置いた後、利き足でボールを引きずるように縦に押し出して加速するドリブルだ。人体構造上、この形が一番速い。DFにタイミングを合わせられなければ、どんな選手でも少なくとも体半分は前に出られる。三笘選手はそこからも速く、生まれ持ったスピードの上に鍛え上げられた加速力が乗るので、普通の選手が半身しかリードできないところで2歩、3歩のリードを奪える。相手はこの脅威に常に晒されて対応せざるを得ないため、三笘選手はこの縦への加速をダシに、内側をアウトサイドでカットインしていくフェイントを見合いにできる。こうしてDFは両方向へのケアを余儀なくされるので、ますます止めるのが難しくなってくるというわけだ。

 図2はサンフレッチェ広島で活躍した元日本代表DF路木隆二氏が得意としていたことから、個人的には「路木フェイント」と名づけている仕掛け。懐の縦突破の軸足の踏み出しをダミーにして一度、DFに縦を警戒させる。半歩後退させた後、相手がニュートラルな姿勢に戻った瞬間にまた縦に突破する形だ。重心が後ろ足に乗り切って、バランスを戻そうとしてその足を踏んだ瞬間に仕掛けると、DFは動けなくなり簡単に突破を許してしまう。バスケットボールで言うところの「ジャブステップ」だ。

 図3は「蟹ドリブル」とでも言うとしよう。縦突破の姿勢で「行くぞ、行くぞ」とインサイドでボールを踏んで小さく小突いて脅しをかけながら、その後に加速する。ボールを移動させながらジャブステップを行うフェイントだ。この仕掛けでは、前のめりになった体にボールがついてくる。ジャブステップだけではその場から移動ができないので状況を変えられず、DFにプレッシャーをかけられてしまうこともあるが、蟹ドリブルを入れると間合いや角度も変化させられるので、相手とのタイミングをずらす駆け引きができる。

 図4はある種の正対ドリブルではあるが、三笘選手は明確にDFのウィークサイドの足を狙っていることがある。両者がゴールラインに向かって移動している時、三笘選手は右サイドバックの左足に向かって、1、2タッチ小さなドリブルで接近する。これをされると間違いなくDFの足は止まってしまう。その瞬間に縦へと突破を決める流れだ(下記動画1:05~)。

 次に間合いの遠い相手との1対1を見ていこう。この状況では意図を持ってDFに近づいていくことが重要になる。ただずるずると前進するだけでは、スピードに優れていても簡単に止められてしまうからだ。接近することでDFの反応を引き出し、逆を取っていくことが有効となる。そのパターンも得意としているのが三笘選手だ(下図)。

……

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三笘薫

Profile

footballhack

社会人サッカーと独自の観戦術を掛け合わせて、グラスルーツレベルの選手や指導者に向けて技術論や戦術論を発信しているブログ「footballhack.jp」の管理人。自著に『サッカー ドリブル 懐理論』『4-4-2 ゾーンディフェンス セオリー編』『4-4-2 ゾーンディフェンス トレーニング編』『8人制サッカーの戦術』がある。すべてKindle版で配信中。