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三笘、冨安、遠藤…変わるイングランド人の「日本人選手観」。純然たるトップクラスとして認識されるために期待すること

2023.08.26

かつてはネガティブな意味合いで“教育レベルならトップクラス”と言われていたという、「サッカーの母国」における日本人選手像。今季のプレミアリーグとチャンピオンシップ(2部)に各3人が参戦する現在、そんなイングランドの人々が抱く和製フットボーラー観の変化を、現地で25年以上にわたり取材を続けてきた山中忍さんが伝える。

 8月18日、遠藤航の電撃的なリバプール入り(←シュツットガルト)が決まった。同日には、友人からのLINEメッセージにも驚かされた。近所に住む彼は、現住所こそ西ロンドンだが、心は常に“ホーム”にあるアンフィールドのシーズンチケット保持者。故郷のクラブが獲得に動いた、モイセス・カイセド(←ブライトン)とロメオ・ラビア(←サウサンプトン)をそろってチェルシーに横取りされた末の新MF獲得でも、「悪い気は全然しない。日本の選手はテクニックもハートもあるからな」と言ってきた。

 もちろん、遠藤獲得にショックを覚えたサポーターはいたに違いない。20歳前後でプレミアリーグ経験付きの両名からプレミア初挑戦の30歳へと、中盤中央の補強ターゲットが変わったのだから。それでも、追って伝えられ始めた国内メディアの反応も、「低リスクの短期ソリューション」といった類。つまり、補強の効果は間違いないと予想されている。改めて、イングランドの人々が抱く日本人フットボーラー観は変わったものだと感じさせられた。

サッカー選手と学歴

 「改めて」の理由は、前月にかつての日本人選手像を思い出させる出来事があったからだ。話題の主は、チェルシーのアカデミーで育成されたテューダー・メンデル・イドウ。アンデルレヒト入りが発表された18歳のMFは天才少年として知られた。英国の名門校イートン・カレッジで、全国の13歳男児から年に14人だけが選ばれる王室奨学生としての入学を許されて学んだ、文武両道の極めつきだった。

 メンデル・イドウが生まれるはるか前、まだ遠藤も幼児だった頃を思い返してみると、「サッカーの母国」で日本人選手に与えられる高評価と言えば、多分に皮肉が込められた「教育レベル」での話だった。クラブの下部組織からプロへの進路が当たり前で、20歳前に契約がもらえなければプロとしての将来はないとの感覚を持つイングランド人には、プロになれる素質を持っていながらの大学進学が「余計な回り道」としか理解できなかった。日本がW杯初出場を果たした1998年フランス大会開催時、中田英寿が「優勝する可能性だってゼロじゃない」と抱負を述べる映像が『BBCテレビ』の中継番組で流れると、司会のガリー・リネカーが「あり得ない」ときっぱり否定し、巷では「学歴トーナメントなら優勝候補」と言われたものだ。同大会の代表メンバーには、Jリーグ開始(1993年)前に学生時代を送った7人の大卒選手がいた。

 イングランド人選手はというと、タブロイド紙などが「頭脳明晰イレブン」を選ぶようなことがあれば、現役MFだが世界的には無名のダンカン・ワトモア(現ミルウォール/2部)が経営学士の資格所有者として名を連ねるばかりか、それぞれAレベル(高卒資格)とGCSE(中卒資格)の試験で優秀な成績を収めた過去を持つ、ネダム・オヌオハとフランク・ランパードの引退組もいまだに選出される。それほど、学歴でも勝負できる選手は珍しい。

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山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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