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デ・ゼルビ・メソッド。イタリアの奇才に学ぶビルドアップの極意

2024.01.09

シーズン途中の2022年9月に就任したブライトンをEL圏内の6位に押し上げ、プレミアリーグの舞台で一躍脚光を浴びた44歳の智将ロベルト・デ・ゼルビ。グアルディオラも世界最高だと絶賛した先進的なビルドアップのコンセプトを、ここではサッスオーロ監督時代にイタリアサッカー監督協会(AIAC)主催のウェビナーで本人が語った内容を基に、QuintupleOneDay氏が解説する。

※『フットボリスタ第99号』より掲載。

なぜビルドアップをするのか?

 デ・ゼルビのチームはなぜビルドアップをするのだろうか。以前イタリアで行われたウェビナーに講師として招かれたデ・ゼルビは、その理由として以下の3つを挙げている。

❶主体的に“アドバンテージ”を作る

 ビルドアップの意図の有無を問わず、後方の選手がボールを持つ場面はサッカーという試合において自然に発生するものである。その中でビルドアップをするということは、そのプレーを通して“アドバンテージ”を確立することを目指すことである。

 アドバンテージで最もシンプルかつ重要なコンセプトは数的優位である。相手よりボールに関与する人数が多い場所へ連続したショートパスを通してボールを運ぶことができれば、より良いチャンスを作ることができる。

 また、このアドバンテージは単に優位(Superiority)のことだけを指すのではない。例えばマンツーマンで守備をする相手に対してピッチ全体で同数の状態になる時は、先述のショートパスで繋ぐ利点がなくなっている状況と言える。その場合は、オープンスペースで1対1になれる状況こそがアドバンテージだとデ・ゼルビは語る。

❷“運”の要素を減らす

 監督によっては、後ろでボールを持っている時に前線へロングボールを入れセカンドボールを狙う戦術を採用するチームもある。しかし、どれだけヘディングが得意な長身FWでも、長いボールを相手DFと競り合いながら頭でコントロールする場合と比べ、わずかでもスペースを見つけ足下でコントロールした方が確実にボールを意図した方向に動かすことができる。

 また、ボールの転がる先に“運任せ”でリアクティブに反応して対応を続けることは、無駄に体力を浪費することを意味する。つまり、運の要素を減らすことは、プレーの精度だけではなく、フィジカル面でも利点があると考えられるだろう。

❸指導者の“キャラ”に合わせる

 絶対的な正解というものが存在しないサッカーにおいて、戦術はプレーする選手の特性に合わせることと同じくらい、それを指導するコーチの特性に合っていなければならない。相手のスタイルに合わせ守備を中心にゲームプランを組み立てたい指導者が、チームにビルドアップの重要性を説いても聞き入れられないのではないだろうか。

 デ・ゼルビは自身を「確立した自分たちのスタイルで試合の主導権を握りたい」、「ボールを保持する局面の方が“楽しい”と感じる」、「ビルドアップに必要な技術を選手に教えるのを好む」といった“キャラ”だと自覚しており、強い信念があるからこそ、選手たちは彼の言葉を信じ、彼のアイディアを受け入れている。

ビルドアップの3原則

 ビルドアップは単にDF陣がボールをうまく扱う技術があれば良いというものではないとデ・ゼルビは言う。状況の主導権を握るためには「パスの質(強弱、正確性)」「(左右どちらにも動ける)姿勢」といった“身体”の部分に加え、「知識」「読み」「判断」といった“頭脳”の部分が必要となる。

 デ・ゼルビはビルドアップ時は基本的に[2-4-4(4-2-4)]のフォーメーションを採用し、身体と頭脳の使い方を以下の3つの原則に落とし込み、自身のビルドアップのスタイルの基礎としている。

❶プレスを引きつけながら“アドバンテージ”を見極める

 デ・ゼルビのビルドアップでは「相手のプレス」が選択するべきアクションを見極める大きな判断基準となる。相手のプレスの強度が強ければ強いほど、たった1本のパスで複数(5~6人)の相手選手を置き去りにすることができるため、そのような場合は“縦に急ぐ”方がアドバンテージを得られる。

相手のプレスが激しい時は“縦に急ぐ”ことで前線に数的優位を作ることができる

 一方で、相手のプレスが弱い/リトリートしている場合は、ボールだけを前に運んでも数的優位を作れないのでメリットは少なく、選手全員が相手陣地まで上がってボールを保持し、ポゼッションを失えば整った陣形でカウンタープレスを仕掛けられるようにする方がアドバンテージを得られる。つまり、“縦に急がない”ことが求められるわけだ。今季1-3で敗れたプレミアリーグ第3節ウェストハム戦での相手陣内でボールを保持する戦いはその代表例と言えるだろう。

相手のプレスが弱い時は“縦に急がず”陣形を整えながら高い位置で保持した方がアドバンテージがある

 このように、相手のプレスが意思決定の重要な基準となることから、デ・ゼルビのチームでは最終ラインの選手が足裏でボールを止め、静止することで相手のプレスを誘発しようとする場面が多く見られる。足裏でボールを止めることについて本人は「左右どちらかに身体を傾けてボールを受けることは、そのプレーに参加していないことと同じ」と表現し、その重要性を語っている。

❷相手のプレスが“来た方向”を狙う……

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フットボリスタ第99号ブライトンプレミアリーグロベルト・デ・ゼルビ三笘薫戦術

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QuintupleOneDay

日テレ・東京ヴェルディベレーザを観ながら、将来女子サッカーにも国内3大会に加え大陸選手権とクラブワールドカップが整備され、いつの日か5冠を達成することを夢見る人。

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