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今スペクタクルなサッカーが見たいならベティスを見ろ! ゴールショーを生む「中央密集」スタイルのメカニズムを解読

2022.02.25

バルセロナ、アトレティコ・マドリーの低迷もあり例年にない状況となっているラ・リーガの上位戦線を、宿敵セビージャとともに盛り上げているのが3位のベティスだ。コパ・デルレイ、ELでも勝ち上がっている成績面もさることながら、特筆すべきは見る者を魅了するそのスタイル。退屈とは無縁、アグレッシブなサッカーを実現するチームの機能性を紐解く。

 ベティスは今、リーガで最もスペクタクルなチームだと言える。ゴールショーを見たいなら、彼らの試合を見れば良い。

 リーガ25試合で得点47はレアル・マドリーに次ぐ2番目で、失点30は10番目。リーガ、コパ・デルレイ、ELの全38試合中、零封されたのは7試合しかなく、逆に相手を零封したのは9試合しかない。その結果、スコアレスドローに終わった試合は皆無である(例えばレアル・マドリーは4つある)。リーガ得点ランキングのベスト20に5位ファンミ(12ゴール)、17位ウィリアン・ジョゼ、ボルハ・イグレシアス(ともに7ゴール)と3人を送り込んでいる唯一のチームでもある。

 それでいて強い。出入りの激しい試合をするチームは安定した成績を残せないというのが相場だが、ベティスはリーガ3位、コパ・デルレイ準決勝進出、EL決勝ラウンド1回戦(ベスト16)進出と、スペインで唯一3つのコンペティションで勝ち残っている。

 ショーか結果か、と問われればクライフの薫陶を受けたスペインですら結果が最優先なわけだが、その上でゴールショーが見られるのならそれに越したことはない。地元セビージャのファンは久々に――おそらくキケ・セティエン1年目の2017-18シーズン以来――大いに盛り上がっており、フロントはマヌエル・ペジェグリーニ監督の2025年までの契約更新を発表したばかり。今世紀に入ってのべ25人がベンチに座り、3季を無事乗り切った監督が皆無というこのクラブにおいては、今季が就任2年目で来季3年目の挑戦権を得たというだけで快挙である。監督に続き主力のナビル・フェキル、セルヒオ・カナーレス、イグレシアス、アレックス・モレーノの契約更新が予定されている。クラブとして、ペジェグリーニを中心とした長期プロジェクトに本腰を入れ始めたわけだ。

 では、そんな魅力的なチームはどんなサッカーをしているのか? まず戦術的な概要を述べてから詳細の分析に入っていこう。

ペジェグリーニ采配の4原則

 ペジェグリーニ監督のサッカーには、全キャリアを通じての共通点が4つある。

 1つ目はシステムが[4-2-3-1]であること。2つ目は、トップ下タイプのテクニシャンを好むこと。2列目ではフェキル、カナーレス、ファンミ、ホアキン(昔はウインガーだったが今はトップ下)、ロドリ、ディエゴ・ライネスといった攻撃的MFが優先的に起用され、クリスティアン・テージョ、アイトール・ルイバルといったウインガーは控えでの出番が多い。3列目はキープ力があるウィリアム・カルバーリョ、運動量があるギド・ロドリゲスという持ち味の違う守備的MFが並べられている。最終ラインはアレックス・モレーノとエクトル・ベジェリンの攻撃的SBと対人能力にやや不安があるマルク・バルトラ、ビクトル・ルイス、ヘルマン・ペッセーラからの2択である。

ベティスの基本布陣

 3つ目は、ローテーションを積極的に行うこと。週中の国内カップ戦、欧州カップ戦と週末のリーグでは先発メンバーが6、7人違うのは当たり前で、例えばリーガで500分以上をプレーしている選手が21人いる(ちなみにレアル・マドリーは17人)。すでに紹介した得点ランキングでCFの1枠を争うレギュラーのイグレシアスと控えのウィリアン・ジョゼがゴール数で競り合っているというのが、ローテーションが成功している証である。息切れ気味のレアル・マドリーやセビージャに比べて選手たちは明らかにフレッシュで伸びしろが残っており、好調は今季いっぱい続くと思われる。

 4つ目は、最終ラインが高くなかなか下げないこと。ここからはベティスが攻撃的(得点が多く)で出入りの多い(失点も多い)スタイルとなっている理由である、この守備戦術について詳しく説明していこう。

ベティスを率いるペジェグリーニ監督

ラグビーのモールのような連続プレス

 守備のスタートであるボールロスト時の対応はプレスである。というか、今やプレスをかけないチームはほとんど存在しないだろう。大事なのはどんなプレスで、どこまでプレスにこだわるのか。そこでチームの特徴が決まる。

 例えば、レアル・マドリーはアグレッシブでなくあっさりしている。プレスの種類は奪うためのプレスでなく、相手の攻撃を遅らせるための“迎えに行く”(パスコースを塞ぐ)プレス。こだわり具合も、ファーストプレスをかわされたら諦めて即退却し低いブロックを敷く。プレスに人数も手間も時間もかけない。

 ベティスはこの正反対だ。アグレッシブにしつこく行く。仲間が近くにいれば2人がかりでも行く(レアル・マドリーの2人がかりはまずない)。ファーストプレスがかわされれば、セカンド、サードと次々に行く。では、連続してプレスをかける組織はどうなっているのか? エリア別に説明していく。

 まず、最終ラインの動き。

 プレスを突破されたわけだからラインを下げざるを得ない。どこまで下げるかは、次のプレスのタイミングで決まる。間髪入れずプレスに行ければ、下げる距離は短くて済む。逆にプレスが遅れれば距離は長くなり、スピードも速くなる。ボールホルダーをフリーにすれば裏のスペースを狙われかねないので、後ろ向きの気持ちも、後ろへの警戒感も増す。

 次に、ボール周辺の選手の動き。

 ボールに最も近い選手が前へ出て第2波のプレスに行く。この時すでに他の選手をマークしていればそれを離すことになり離した瞬間にパスを通されるリスクもあるが、最も危険なのはボールホルダーなのだからリスクを負ってプレスに行く。この間、すでにプレスをかわされた選手と周りの選手はボールの後ろ、味方の後ろに下がって次の第3波のプレスの準備をする。これらはスペインサッカー連盟の定義で言えば、「サポート」「役割交代」と呼ばれる動きだ。

 最後に、ボールから遠い選手の動きはオーソドックスで、パスの受け手となり得る選手を警戒しつつ下がりながらボールの方へ寄せて危険スペースを消す、となる。

 以上の一連の動きは俯瞰で見ていると、半身で踏み止まりながら下がる最終ライン、「下がって前へ行く」を連続して渦を巻くようなボール周辺(ラグビーのモールから剥がれた選手が、一度下がり新たに加勢していく動きを髣髴とさせる)、網の目を監視するボールから遠いスペースの選手という構造になっていることが、全体のダイナミズムとして認識できる。

敵地でシャビ体制となったバルセロナに初黒星をつけたリーガ第16節のハイライト動画

駆け引きなし。常に「前」へ

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ベティスマヌエル・ペジェグリーニ戦術

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。