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GK大国ドイツで学んだ大宮アルディージャ松本拓也コーチが語る、GKの目線から見た日本と世界の違い

2022.01.10

日本人選手が海外でプレーするのが当たり前になった今でも、欧州のトップクラスで日本人GKがレギュラーになるのはハードルが高い。日本人GKが世界との距離を詰めるには何が必要なのか。中村航輔を日本代表に育て上げ、ドイツの指導現場での経験も持つ大宮アルディージャの松本拓也GKコーチに話を聞いた。

※ 『フットボリスタJ』より掲載

日本人GKの充実ぶりは目を見張るものがある

―― このインタビューのメインテーマは「日本と海外におけるGKの違い」となります。

 「あくまでも僕が自分の目で見てきた中での見解にはなりますが、わかる範囲でお話しさせていただきます。まず、近年の日本の若手GKの台頭は素晴らしい流れだと感じています。谷晃生選手(湘南ベルマーレ)や大迫敬介選手(サンフレッチェ広島)、鈴木彩艶選手(浦和レッズ)、沖悠哉選手(鹿島アントラーズ)、波多野豪選手(FC東京)など、若くしてJ1の所属クラブで正GKの座をつかんでいる、あるいはつかみつつある選手が、数年前に比べ各段に増えた印象です」

―― 確かに、現在の若手GK陣の充実度はここ数年で見てもかなりのものですよね。

 「はい。もちろん、昨季の降格なしという例外的なレギュレーションの中で各クラブともに思い切った起用が可能になったことも一因だとは思いますが、とはいえ抜擢された若手GKたちもしっかりと結果で応えていますよね。

 試合経験を積むことで急成長を遂げた選手もいますし、これは日本サッカー界全体にとっても非常にポジティブな流れだと思います。また、ガンバ大阪の東口順昭選手やコンサドーレ札幌の菅野孝憲選手など、35歳を過ぎてもなおJ1の第一線で活躍し続け、さらにいっそう凄みを増しているベテランGKもいます。全体として、日本人GKの充実ぶりは目を見張るものがあると感じています」

―― なるほど。松本さんの目から見ても日本人GK全体としていい流れであると。

 「間違いなくそうだと思います。ただ、この良い現象を今回だけで終わらせたくないですよね。良いGKを育成することができるようになった今、日本は継続性という次のフェーズに入ったと思っています。世界レベルのGKを今後も継続的に輩出するために何をしていくべきか? 日本とドイツでの経験を踏まえて僕なりに感じたことをお伝えしたいと思います」

ドイツのGKは出たら必ず仕留める

―― 1対1の対応というフレーズは、ここ数年でかなり頻繁に聞くようになりましたね。

 「今やGKにおける必須スキルの1つとなりました。柏レイソルで指導させていただいていた時から、日本の中では1対1に強いGKを育成してきたつもりでいました。その部分に関してはある程度自信を持ってドイツに乗り込んだのですが、すぐにどこかへ吹っ飛んでしまいました。1対1は、バイエルンのマヌエル・ノイアーやバルセロナのマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンなど、近年のドイツのGKが特に得意としているプレーだと思います。

 しかし特筆すべきは、1対1が強いのは彼らトッププレーヤーだけでなく、アマチュアリーグに所属しているGKだろうと育成年代のGKだろうと、どの選手も抜群に強いという点です。これには衝撃を受けました。彼らは相手FWがドリブルで進入してくる1対1の場面はもちろん、ゴール前にラストパスが出てくる際にも的確な読みで詰め切ってシュートコースを消してしまいます。ボールが移動中にパスの到達地点に向けてスプリントし、相手がシュートを打つ瞬間にはもう目の前でコースを塞いでしまっているイメージです」

―― シュートコースに身体で蓋をするんですね。

 「そうです。寄せ方、詰め方が非常に上手で、洗練されています。サイドから巻いて入ってくる低いクロスなどにも、クロスが入ってきた側から追い込むようにコースを限定して寄せ切ってしまいます。ドイツのGKは詰めて抜かれてしまうプレーが極端に少なく、“出たら必ず仕留める”という印象があります」

―― 必ず仕留められる秘訣はありますか?

 「僕がドイツに行っていた際も『何でこんなに身体に当たるのかな』と不思議に思っていたのですが、ドイツ人と日本人の1対1の違いとして、まずドイツでは間合いを詰めるか否かの判断基準を相手との距離によって決めている、という点が挙げられます。その基準となるのが3mです。選手やGKコーチによってその『3m』という距離に多少の違いはあると思いますが、3mまでの距離に詰められるようであれば相手との間合いを詰めましょう、そこまでの距離に詰められないようであれば相手との距離を取って(味方の戻りも待ちながら)シュートに対応しましょうと、距離によって詰めるか否かを決めていました。日本では相手との距離に関係なく、1対1=詰める、寄せるという考え方が先行し、相手(ボール)に向かって飛び込む“スターセーブ”と呼ばれるプレーがこれまでのスタンダードとしてあった印象です。実際に私もドイツに渡る前まではそう指導していました。結果、お尻を地面について飛び込んでGKの身体の上空をチップキックで決められてしまうケースが多かったと思います。ただここ1、2年で距離を判断基準にした考え方は日本でもかなり浸透してきて、何でもかんでも間合いを詰めて無謀なチャレンジをして失点するシーンは少なくなってきたと思います」

ドイツのGKはサイドから巻いて入ってくる低いクロスなどにも、クロスが入って来た側から追い込むようにコースを限定して寄せ切ってしまう

「海外のGKは大きいから」で片付けてはいけない

……

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GK大宮アルディージャ松本拓也

Profile

福田 悠

1985年11月29日生まれ。法政大学社会学部卒業後、大手文具メーカーを経て2012年にライターに。『週刊SPA!』のサッカー日本代表担当を務めるほか、フットサル全力応援メディア『SAL』、『PRESIDENT』など様々な媒体に寄稿している。大学3年時より9年間フットサルの地域リーグでGKとしてプレー。多くの現役Fリーガーのほか、サッカースペイン代表ジョルディ・アルバらとも対峙した経験を持つ“GKライター”。趣味は路上弾き語り。

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