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大宮アルディージャの最終ラインを支える高校3年生。市原吏音のさらに加速する驚異的な成長スピード

2023.10.02

18歳だと言われなければ、その年齢に気付く人はいないだろう。市原吏音。高校3年生。大宮アルディージャU18のキャプテンは、あっという間にトップチームでも完全に定位置を掴んでしまった。その特大のポテンシャルも、大人に混じっても見劣りしない体格も、そして大舞台になればなるほど燃えるようなメンタルも、すべてに期待しかないこの若武者を以前から見守ってきた土地将靖が、これから辿るであろう大きな飛躍に想いを馳せる。

天皇杯3回戦・セレッソ大阪戦で堂々のトップデビュー

 『驚きがなかったのが最大の驚き』――現在では大宮アルディージャの最終ラインで押しも押されもせぬ中心的存在となった市原吏音。そのプロデビュー戦となった天皇杯3回戦、セレッソ大阪戦を振り返ると、“そういえば…”と冒頭の言葉のように感じさせられたことに、改めて気づいた。

天皇杯3回戦、セレッソ大阪戦のハイライト動画

 試合会場への道中、先発メンバーを確認し市原の名前を見つける。2回戦のジェフユナイテッド千葉戦直前に2種登録自体はされていたが、カップ戦ながらJ1相手ということで思い切った起用との印象を受けた。それでも、5連戦の4試合目という苦しい台所事情の中で巡ってきた若武者のチャンスに、楽しみしかなかった。

 4バックの右センターバックとしてプレーするU18チームとは異なり、5バックの中央3枚を浦上仁騎、大森理生との3人で固める、その左に立った。我が子の運動会デビューを見守る保護者のように、最初はついつい背番号43を目で追うが、徐々にそうならなくなっていた自分に気づいた。

 悪目立ちすることなく、まったく普通にプレーしているのだ。C大阪のコーナーキックではゾーンディフェンスの中央に入り、手を叩きながら声を上げ味方を鼓舞。ちょっとしたプレーの切れ目でベンチや周囲の選手とコミュニケーションを取る姿も、言われて、ではなく自ら声を掛けている。気が付けば大宮守備陣は、つい数日前に18歳になったばかりの高校生にけん引されていた。

 今年4年ぶりに大宮に復帰した原崎政人監督が、市原を初めて見たのは今シーズン開幕前のトップチームの沖縄キャンプ。すでにその時点で評価は高かったが、「もっと練習に呼びたかったんですよね。そのオーダーは出していたんですけど、アカデミーの試合の関係や、トップに来た時の出場時間数の兼ね合いもあって、なかなか呼べなかった」(原崎監督)と明かす。そんな中、中2日で行なわれるC大阪戦前に、「1回試そうということで練習に呼んだ時に、それなりのパフォーマンスを出してくれたので、思い切ってスタートで行こう」(原崎監督)と起用を決めた経緯を語った。

敗戦の中で体感した課題と手応え

 結果は1-3で敗戦、天皇杯は3回戦敗退となった。

 「中2日と短い中で初めて5バックをやって、けっこうわからないこともあったんですけど、(茂木)力也さんとか仁騎くんとか、(南)雄太さん含めて周りとコミュニケーションを取って、何とかギリギリって感じでした」

 特に、守備陣としては3失点に目をつぶることはできなかった。

 「1失点目、2失点目は確実にコーチングで守れた。(コーナーキックからの)3失点目は自分の背後のスペースを取られた。相手のでかい選手が自分のところを邪魔してきたその後ろにレオ・セアラが入ってきたので、自分としてはどうしようもできなかったんですけど、それでも守らなきゃいけないのがセンターバック。あの3失点目で確実に試合が終わっちゃったと思う」……

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大宮アルディージャ市原吏音

Profile

土地 将靖

1967年埼玉県生まれ。1993年のJリーグ開幕と同時に試合速報サービスのレポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーに転身し大宮アルディージャに密着、各種媒体への寄稿を細々と続けている。2005年より続いていた大宮全公式戦の現地直接取材はコロナ禍で途絶えたが、近年は下部組織の取材にも注力し、精力的に活動している。

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