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「意図的なプレー」「ベンゲル・ルール」… 規則改正史とテクノロジーから考えるオフサイドの未来(前編)

2021.10.30

2021年10月10日に開催されたUEFAネーションズリーグ決勝、スペイン対フランス(1-2)の80分に生まれたキリアン・ムバッペの優勝弾を機に、あらためて注目を集めたオフサイドの解釈。争点となったのは、オフサイドポジションに飛び出したムバッペにスルーパスが通る直前のエリック・ガルシアのボールタッチが「意図的なプレー」に該当するとみなす、現行競技規則の考え方だ。果たしてこの解釈はフットボールにおけるオフサイドの本来の目的に適うものなのか。近年のオフサイドをめぐる競技規則改正の歴史と今後予想される展開を、SUSSU氏が同じく近年注目を集めているテクノロジーの観点も交えながら考察する。 

現行ルールの歴史。「意図的なプレー」が加わった背景

 オフサイドは、IFAB(国際サッカー評議会)によって制定されている「競技規則」 (Laws of the Game)の11章に記述がある。広く知られている「守備側競技者の後方2人目をオフサイドラインとする」現在の規則の原型が築かれたのは1925年に遡る。その後、1990年にはオフサイドラインと同レベルのプレーが認められる緩和措置が取られたが、長いフットボールの歴史の中でもオフサイド条項の改正は目立つものではなかった。 

 変化が訪れたのは2013年。競技規則に記述されるオフサイド要件の解釈の幅が広すぎるとして、状況別にオフサイドに該当するか否かを整理し言語的に定義する記述が追加された。 

 この改正で主に「その位置にいることによって利益を得る」状況が具体化され、UEFAネーションズリーグ決勝で物議を醸したキリアン・ムバッペに対するオンサイド判定でも争点となっている「意図的なプレー」という文言が新たに登場した。守備側競技者を介して、オフサイドポジションにいる攻撃側競技者にボールが渡った時の状況を整理することが主な狙いである。 

 フットボールにおいて、オフサイドポジションにいる攻撃側競技者は、同じ攻撃側競技者からのパスを受けることは禁じられているが、守備側競技者の緩慢なビルドアップやバックパスにプレスをかけてプレーを試みることは、オフサイドポジションからのアプローチでも認められている。

 では、攻撃側競技者のプレーの直後に守備側競技者のプレーが挟まるケースはいかにして判断すべきか?考え方として一律でオンサイドまたはオフサイドとすることもできなくはないが、守備側競技者の「意図的なプレー」の有無で線引きすることで言語的な解決を試みたのがこの2013-14改正である。改正当時、UEFAでチーフレフェリングオフィサーを務めていたピエルルイジ・コッリーナ氏は、「守備側競技者が意図的なプレーをした場合、プレーの結果は重要ではない」と語っており、「意図的なプレー」の指すところは過程までに限ることも周知されている。常に展開が連続するフットボールにおいては、攻撃側競技者のプレー直後に守備側競技者が「意図的なプレー」をしたかどうかを見極めることが難しいシチュエーションが頻繁に存在するが、言語的な定義が定められたことで一応の解決をみた、はずであった。 

ムバッペのオンサイド判定を機に改正も?

  その後現在に至るまで、競技規則は2016-17シーズンの大改正を経て毎年変更を積み重ねている。この流れにおいてオフサイドの条項についても改正を積み重ねているが、先述のオフサイド要件に関わる内容は文言の調整や例外的状況の補足を除き大きな変化はない。

 図2に示す競技規則に照らし合わせた時、UEFAネーションズリーグ決勝におけるエリック・ガルシアのインターセプト未遂は「意図的なプレー」に相当し、オフサイドポジションに位置していたムバッペはボール受けても「利益を得ている」とはみなされないことになる。ゆえにオンサイドとする判定は正しいのだが、仮にエリック・ガルシアがパスに触れることなくムバッペにボールが渡っていればオフサイドの判定となったわけで、守備側競技者のボールタッチの有無が判断の分界点になっていることに違和感を覚えるという見方も根強い。 ……

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VARオフサイド文化

Profile

SUSSU

1988年生まれ。横浜出身。ICTコンサルタントとして働く傍らサッカーを中心にスポーツに関わる活動を展開(アマチュアチームのスタッフ・指導者、スポーツにおけるテクノロジー活用をテーマにした授業講師等)。現在は兼業として教育系一般社団法人の監事も務める。JFAサッカー審判資格保有(3級)。