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バルセロナのパワープレーは問題の本質に非ず。“メッシ・ショック”で陥った攻守のジレンマ

2021.10.17

黄金時代を築き上げたペップ・グアルディオラ体制の終焉から9年。指揮官はビラノバ、マルティーノ、ルイス・エンリケ、バルベルデ、キケ・セティエン、クーマンと6人もの監督に入れ替わり、今夏はクラブの象徴であるリオネル・メッシも退団したバルセロナ。リーガ第5節グラナダ戦(△1-1)では、かつて世界を魅了した華麗なパスワークの影も形もなく、怒涛のクロス放り込みでゴール前へ上がっていたCBアラウホが1点をもぎ取り、辛うじて引き分けに持ち込んでいる。時の流れとともにアイデンティティの喪失が顕在化しつつあるが、20年以上にわたりバルサを見守っている猫煮小判氏は「パワープレーは問題の本質ではない」と異論を唱えている。

 クロス数、54本。奪った得点、後半ロスタイムの1点のみ。

 まるで、デイビッド・モイーズが率いていた頃のマンチェスター・ユナイテッドが記録したような数字に見えるだろう。しかしこれは、肉弾戦が日常茶飯見られるプレミアリーグのクラブではなく、ラ・リーガを戦うバルセロナのデータである。

 リーガ第5節、ホームのカンプノウにグラナダを迎えた一戦。バルサは開始早々に先制点を奪われると、引いて守るアウェイチームに対してゴールへの糸口を見つけることができず、終盤にCBで先発していたロナウド・アラウホ、さらにはベンチに温存していたジェラール・ピケをパワープレー要員として前線に投入。何とかアラウホがパワーで押し切って同点弾を頭で叩き込み、背水のドロー決着に終わっている。

 ここ数年のバルサでは見られなかったパワープレー。中央からでもサイドからでも流動的にショートパスで崩していくかつての姿はなく、荒々しく強引に泥臭く得点を奪う“らしくない”光景がカンプノウで披露された。

リーガ第5節、グラナダ戦のハイライト動画

“メッシ・ショック”で問われるアイデンティティ

 ヨハン・クライフの哲学の下、ルイ・ファン・ハール、カルレス・レシャック、ジョセップ・グアルディオラによって脈々と受け継がれてきたバルサのDNAは、今は同郷でもあり、クライフが90年代前半に作り上げたドリームチームの一員でもあるロナルド・クーマンに昨季から託されている。ところが現在、そんなクーマンがアイデンティティ喪失の首謀者としてバッシングに遭っている。崩しのアイディアは乏しく、新加入メンフィス・デパイの創造性頼みの攻撃。確かにグアルディオラ体制はもとより、魔術師ロナウジーニョが牽引し始めた2000年代前半からバルサを見ている身からすれば、ここ20年の中で1番泥臭いサッカーをしている。美しさを追求したクライフイズムとは大きく異なるのだ。しかし、そこにはバルサに対する先入観も混じってはいないだろうか。……

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バルセロナロナルド・クーマン戦術

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猫煮小判

静岡県静岡市…いや、静岡県清水市に生まれ育った自称次郎長イズムの正統後継者。好きな食べ物はもつカレー、好きな漫画はちびまる子ちゃん、尊敬している人は春風亭昇太師匠。そして、1番好きなサッカーチームは清水エスパルス!という、富士山は静岡の物でもの山梨の物でもない日本の物協会会長の猫煮小判です。君が清水エスパルスを見ている時、清水エスパルスも君を見ているのだ。

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