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オランダ代表新監督、ファン・ハールの新機軸「トータル・プレッシング」とは?

2021.09.14

2021年8月、ルイ・ファン・ハールが通算3度目のオランダ代表監督に就任した。「マイティ・アヤックス」と称えられた90年代のアヤックスを生み出した戦術家は、70歳になった今も新機軸を探し求めている。就任早々にオランダ代表を変えつつある戦術的アイディアを、オランダサッカーのスペシャリスト・中田徹氏に解説してもらおう。

 9月7日の夜、ヨハン・クライフ・アレーナに集まったオランダ代表のサポーターは、すっかり陶酔しきっていた。W杯予選、トルコとの大一番でオランダが6-1という信じられないスコアで勝利し、首位の座を奪還したのだ。

凄まじいインテンシティでトルコを圧倒!

 85分頃だった。観客席で「ルイ、ベダンクト!」という合唱が始まった。これはルイ・ファン・ハール監督に対する感謝を表すチャントだった。

 3月、オランダは敵地でトルコに4-2の完敗を喫していた。あれから半年。選手の顔ぶれが大きく変わったわけではない。しかし、フランク・デ・ブール率いたオランダ代表と、ルイ・ファン・ハール率いるオランダ代表の差は一目瞭然だった。

3月に行われたカタールW杯欧州予選、トルコ対オランダのハイライト動画

 圧巻は、試合開始のキックオフ直後のビッグプレーだった。

 オランダは自陣で30秒近くボールを回してから、CBファン・ダイクが右オープンにロングボールを蹴って、敵陣右サイドでFWベルフハウスが攻撃の起点を作った。この瞬間、オランダのスイッチが入った。

 ベルフハウスと右SBドゥムフリースが攻撃を仕掛けてはロストし、即座にボールを回収することを繰り返しているうちに、5人ものアタッカー陣がペナルティエリア内に侵入した。最終的には、ゴール前の狭いエリアをFWデパイとのワンツーからMFクラーセンが抜け出して貴重な先制ゴールを奪った。

 キックオフからわずか54秒という電光石火のゴールだった。

 W杯予選という重圧からか、その前のノルウェー戦(アウェイ/△1-1)、モンテネグロ戦(ホーム/○4-0)では硬さが見られたオランダだったが、トルコ戦ではプレッシャーから解き放たれ、キックオフから攻撃に人数を割き、リスクを背負って攻めきったことが功を奏した。この一気呵成の攻撃を、オランダは準備していたのだろうか? ファン・ハールは「いいや、違う」と否定した。

 「あれは選手たちから自然に湧き出てきた攻撃だったんだ」

 ペナルティエリアの中で5対5(+フリーマンのベルフハウス)の高度なロンドを見ているかのような、オランダの鮮やかな崩しだった。

 オランダの選手たちはボールを失うと間髪入れず回収し続け、トルコに息つく暇を与えなかった。また、トルコのビルドアップに対しては、中盤で1対1を作ることによってパスをサイドに誘導し、そこで囲んでボールを奪った。

 『相手を挑発するプレッシング』という意味の『プロフォセーレンドゥ・プレッシング(provocerende pressing)』も有効だった。これは、自陣に引くことであらかじめ相手陣内にスペースを仕込んでおくプレスで、要はカウンターである。トルコは前半だけで4枚のイエローカードを受けたが、そのうち3枚が『カウンター阻止』のファウルによるものだった。このことからも、オランダの『守』→『攻』の速さと迫力が伝わってくるだろう。

 後半に多少中だるみした時間帯もあったが、オランダは試合終了のホイッスルが鳴るまで、ボールを狩り続ける意欲を示した。

会見で“トタール・プレッシング”を連呼!

 試合後、ファン・ハール監督は満足そうにオランダのパフォーマンスを振り返った。

 「我われは“トタール・プレッシング”(英語ではトータル・プレッシング)を用いた。キックオフから後半のアディショナルタイムまで、選手たちはプレスをかけ続けた。これは普通のことではない」……

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オランダ代表ルイス・ファン・ハール戦術

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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