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ワトフォードが“英国らしさ”をもたらすコーチを招聘。語る意外なPKの極意

2022.12.19

 プレミアリーグより一足先に再開しているイングランドの下部リーグに、“英国らしさ”をもたらしてくれるコーチがやってきたという。

 イングランド2部のチャンピオンシップは、FIFAワールドカップによる中断を挟んで12月10日にリーグが再開した。シーズン後半戦に向けて各クラブが再スタートを切ったわけだが、そんな中で興味深い人事に乗り出したチームがある。1年でのプレミアリーグ復帰を目指すワトフォードである。

「英国のメンタリティが足りない」

 昨季のプレミアリーグで19位となり2部に降格したワトフォードは改革に着手した。4部リーグで優勝を果たした青年監督、ロブ・エドワーズを指揮官に大抜擢して新体制で今シーズンを迎えたのだ。しかし、チームはスタートダッシュに失敗し、リーグ戦開幕10試合で3勝しかできずに10位と足踏み。そこでクラブは、すぐにエドワーズに見切りをつけて監督交代に踏み切った。

 後任として連れてきたのは、クロアチア代表やウェストハムなどを率いた実績を持つスラベン・ビリッチ(54歳)である。同氏が9月下旬に監督に就任すると、チームは徐々に結果を残し始め、今では昇格プレーオフ圏内の4位まで順位を上げている。だが、1990年代に武闘派のDFとしてドイツやイングランドで活躍したビリッチは、チームに物足りなさを感じていた。

 今大会のW杯でも証明されたように、クロアチアは単なるテクニックに優れた集団ではない。武闘派とはいかないまでも、全員が戦える選手たちなのだ。そして元クロアチア代表のビリッチは、まだ古き良きイングランドの粗さが残る1990年代にプレミアリーグでCBとしてプレーした経験も持つ。そのため、彼は就任してわずか3週間で選手たちの姿勢に疑問を持ち始めた。「まだ判断するのは早いが」と前置きしたうえで「このチームには少し英国のメンタリティが足りない気がする。古き良き英国の戦い方だ。英国人が少ないチームなので、そのメンタリティを定着させるのが難しいんだ」と首を傾げたのだ。

 確かにワトフォードは多国籍軍だ。オーナーはイタリア人で、イタリアに姉妹クラブを持つ。おのずと外国人選手も多くなる。今季リーグ戦で10試合以上に出場しているイングランド人は3名ほどしかいないのだ。そのためビリッチは、“英国さ”を注入するために新たなアシスタントを助っ人に呼ぶことにした。それがウェストハム時代のチームメイトであるジュリアン・ディックス(54歳)だ。

現役時代の武勇伝の数々

 ディックスは1980~90年代にかけてウェストハムで活躍したDFだ。“ザ・ターミネーター”という愛称を付けられるくらい激しい選手で、よく言えば好戦的、平たく言えば荒くれ者だった。

 古き良きイングランドのフットボールを知るディックスにはいくつもの逸話がある。練習中、股抜きをしてきた若き日のジョー・コールを吹き飛ばして「二度とやるな」と吐き捨てたこともあれば、試合前日に大酒を食らい、夜中の2時に嘔吐しながらも、翌日の試合でリバプールをシャットアウトしたことも。引退後にはパブを経営して自ら店に立っていたこともある。

 ピッチ上では激しいタックルで観客を沸かせた。キャリア通算9枚のレッドカードをもらいながら、ウェストハムのファンから絶大な人気を誇った。そんな彼と意気投合したのがビリッチだった。2人はウェストハム時代に遠征先のホテルで同室になるほど仲が良く、その親交は今でも続いており、ビリッチがイングランドのクラブで監督を務める際にはディックスをアシスタントに据えていた。そして今回も“ザ・ターミネーター”を招聘したのだ。

ウェストハムなどでビリッチ監督(左)が監督を務めた際にアシスタントを務めていたディックス(右)

 「ビリッチの頼みなら」と快くコーチに就任したディックスは「今の時代、俺やロイ・キーンのような選手はいない。絶滅したんだ」と英紙『Daily Mirror』で嘆きながら「俺の仕事は激しく相手を止めることだった。今のサッカー界ならば、俺は2週間に1回のペースで退場になっているだろうね」と語る。

闘将が語るPKの極意

 そんな彼がどんな“英国らしさ”をワトフォードにもたらすのかは楽しみだが、彼のコメントで最も気になったのは武勇伝ではなく「PK」についてだった。今回のW杯でも、イングランド代表はFWハリー・ケインがPKを失敗してフランスの前に屈している

 実は、現役時代のディックスは優秀なPKキッカーで、プレミアリーグで15本(16本中)のPKを決めている。「俺は小細工などしなかった」とディックス。「ボックスの外から助走をとって思い切り蹴り込んだ。あとはそのGKに俺のシュートを受ける勇気があるかどうかさ」

 馬鹿らしく聞こえるかもしれないが、この後に続くコメントが“PKキッカーの心得”のようで興味深かった。

 「プロの選手ならば、11mの位置からシュートを外すなんてあり得ない。時にはポストやバーに嫌われることもあるだろう。だが、完全に外すなんてあり得ないよ」

 “英国らしさ”とは関係ないかもしれないが、ディックスの言う「外すわけがない」という精神こそ、PKの極意なのかもしれない。


Photos: Getty Images

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クロアチア代表ジュリアン・ディックススラベン・ビリッチワトフォード

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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