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EURO予選で天国から地獄。トルコ、ウェールズに連敗したクロアチアに何が起こったのか?

2023.10.17

「史上最も楽な予選」――EURO予選グル-プDで危なげなく首位を走っていたクロアチアの本大会出場は安泰と思われていた。ところが、10月シリーズでトルコ、ウェールズにまさかの連敗で3位転落。上位2カ国に入れず3位のままだと来年3月の4カ国プレーオフに回ることになる。3位入賞を果たしたカタールW杯後も順調だったクロアチア代表に一体何が起こったのだろうか?

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 9月に行われた日本代表の欧州遠征でトルコを4-2で撃破した瞬間、クロアチア的には嫌な予感がした。「このタイミングでトルコに“解任ブースト”がかかるのか」と。

 すでにアルメニア戦で面目を失っていたドイツ人指導者のシュテファン・クンツは、日本戦の敗北を機にトルコ代表監督の座を追われた。クンツ解任の翌日には、2シーズンのアダナスポルの指揮でトルコリーグを熟知するイタリア人指導者のビンチェンツォ・モンテッラが新監督に指名。「解任ブースト」という表現はクロアチアに存在しないが、チームがピンチの時に引き受ける監督を「消防士」(vatrogasac)、すなわち「火消し役」に例えられる。その効果はクロアチアでも実証済みだ。ロシアW杯の予選敗退寸前にズラトコ・ダリッチが指揮官に抜擢されると、息を吹き返した「バトレニ」(“炎の男”を意味するクロアチア代表の愛称)はあれよあれよと準優勝を果たしたのだから。

 10月12日に行われたEURO予選グループDの首位決戦「クロアチア対トルコ」。モンテッラ新監督は複数の主力を欠きながら国内組を最大限に活用し、初陣にて「炎」を吹き消すことに成功する。クロアチアは欧州で唯一、過去も含めたEURO予選で一度もホームゲームに敗れていない国だったが、30年間続いた不敗神話はトルコ戦であっけなく途絶えてしまった。意気消沈のバトレニはウェールズのアウェイゲームにも敗れて3位へ転落。クロアチアにとって予選2連敗は10年ぶり2度目のこと。トルコ戦の前には本大会ストレートインの確率が「97.7%」と弾かれていたはずが、今では自力突破の目がなくなり、プレーオフに回る可能性が高まっている。

「史上最も楽な予選」のはずが…怪しくなる雲行き

 クロアチアの時計を少し巻き戻そう。ロシアW杯に続いてカタールW杯でも「表彰台」に立ち、6月のネーションズリーグはあと少しのところで「金メダル」を逃したバトレニ。一時期は代表引退も匂わせていた主将のルカ・モドリッチは、「38歳の誕生日(9月9日)に欲しいプレゼントはラトビア戦とアルメニア戦の勝利だ」と新たな照準をEURO2024に合わせた。

 9月の連戦では、ホームのラトビア戦を5-0、アウェイのアルメニア戦を1-0で制し、1試合少ない状態で首位トルコに勝ち点で並ぶ。そのトルコには3月にアウェイで勝利している(2-0)。 開幕戦のウェールズ戦はタイムアップ直前に追いつかれたとはいえ(1-1)、「史上最も楽な予選」と言われるほどクジ運に恵まれたクロアチア。もはや予選突破に死角はない……はずだった。それなのに雲行きは突然怪しくなる。

 イバン・ペリシッチがトッテナムの練習中に右膝前十字靭帯を損傷した、と報じられたのが9月20日。バトレニでは左ウイングと左SBでフル回転し、現役ではモドリッチに次ぐ129キャップの大ベテランを半年間失うことが決定的に。その翌日にはECLのセルティック戦でルカ・イバヌシェツが右足首靭帯を損傷し、全治3週間の診断を受けてしまう。彼はネーションズリーグを含む直近4試合においてトップ下や左ウイングで先発。新天地のフェイエノールトでも上り調子だった。

 負傷者は続く。予選最多の3ゴールを挙げていたFWアンドレイ・クラマリッチが、9月30日のドルトムント戦で激しく脚を蹴られ、1週間経っても膝が真っ黒に腫れたまま。前線の軸であるCFブルーノ・ペトコビッチも10月2日のハイデュク・スプリト戦に強行出場したことで内転筋の故障を再発。これにより9月の連戦で先発したアタッカー4人全員が計算できないという非常事態に陥った(ペトコビッチについては後述するが、セルビアの首都ベオグラードで「奇跡の女医」のセラピーを受けることでベンチ入りに間に合わせている)。

松葉杖をつきながらバトレニを陣中見舞いしたペリシッチ。左がダリッチ監督、右がクスティッチ協会会長

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EURO2024クロアチア代表

Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。

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