ミハイロビッチの戦術分析コーチとしてサンプドリア、ミラン、トリノ、そして現在はボローニャと、セリエAを舞台に活躍してきたレナート・バルディ。昨季、彼のチームに日本代表の期待の新星が加わった。果たして、新世代コーチの目に冨安健洋はどう映っているのか――『モダンサッカーの教科書』コンビが2年目のシーズンを掘り下げる。
後編では、成長の跡が見られる具体的なプレーからイタリアで求められるDFのディテール、そしてこの逸材の未来について考えてみたい。
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背後からマークする1対1に課題
片野「CBとしてプレーした今シーズン、彼のプレーがどのように向上したか、具体的に教えてください」
バルディ「あらためて言っておかなければならないのは、ボローニャの守備戦術は最終ライン、とりわけCBに大きな負担をかけるものだということです。敵のビルドアップに対しては前線からマンツーマンでのハイプレス、ボールロスト時には前からボールに詰めてのゲーゲンプレッシングが基本的な振る舞いですから、そのプレスがかわされると最終ラインは中盤のプロテクトがない状態で、しかも数的均衡の状況で相手の攻撃に直面することが珍しくありません。トミも広いスペースを1人で見ながら、相手との1対1に対応しなければならない。そこでは小さなミスで後手に回るだけで失点に直結してしまう。さっき触れた失点に繋がったミスの多くは、そうしたシビアな状況で生まれたものです。そこは情状酌量の余地が十分にあります。
その前提の上で個別に見ていくとして、まず守備の個人戦術に関して言うと、最も向上したのは体の使い方です。イタリアに来た当時は、フィジカルコンタクト時にうまく体を入れることができず、空中戦で押されてバランスを崩したり、マークしている時のポジショニングで後手に回ったりすることがありました。今はその点が大きく改善された。もちろんルカクのように体格的に明らかな優位にある相手とマッチアップした時には、困難に陥ることもありますが」
片野「インテル戦ではそのルカクに引きずり倒されてゴールを許しましたよね。あれは明らかに相手のファウルだったと思いますが……」
バルディ「お互いつかみ合っていましたから、ファウルになるかの境界線ぎりぎりだったことは確かです。ペナルティエリア内での位置取り争いはなりふり構わない肉弾戦であり、同時にマリーシアや狡猾さがモノを言う部分が小さくありません。そこは向上したとはいえ、まだまだ大きな伸びしろを残しています。しかし、オープンスペースでの競り合いや相手に正対しての1対1では、ルカクやイブラのような巨体のFWにも負けることは滅多にありません。空中戦でも明らかに強くなりました。当初は飛ぶタイミングから空中での体の当て方まで修正すべき点がいろいろありましたが、今は大きく改善されています。昨シーズンは1試合平均の空中戦が3.5回で勝率は53.3%でしたが、今シーズンは競り合う相手のレベルが上がったにもかかわらず、1試合平均5.8回で勝率が58.7%まで上がっていますからね。ヘディングでは、クリア時のボールコントロールも大きく向上しています。トミはもともと間接視野と状況把握に優れているんですが、単にハイボールを弾き返すだけでなくそれを攻撃に繋げることを常に意識するようになって、彼のクリアがポジティブトランジションに繋がる頻度が明らかに高まりました」
片野「プレー中に首を振る回数が多いのは、TV観戦していてもわかります。周りを見ながら常にポジショニングを修正していますよね」
バルディ「ポジショニングに関して迷いが見られなくなったのも大きな進歩です。組織的守備のフェーズでは積極的にリーダーシップを取ってラインをコントロールするようにもなりました。以前は指示を受けて従う立場で振る舞うことが多かったのですが、今は自ら積極的にコミュニケーションして周りに指示を出し、動かすようになりました」
片野「自分の判断に自信がないとできないことですよね」
……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
