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「アタッキングパス」って何? 霜田監督が語る「言語化」の目的

2020.07.26

『戦術リストランテⅥ』発売記念企画

7月18日に発売された『戦術リストランテⅥ ストーミングvsポジショナルプレー』は、『フットボリスタ』の人気連載書籍化シリーズ第6弾で、今作のテーマは欧州サッカーの未来を占う二大戦術トレンド――ストーミングポジショナルプレーの勢力争いだ。

本書には特別企画として、日本サッカー協会(JFA)の技術委員長として長年日本サッカーのかじ取り役を担い、現在はJ2のレノファ山口FC先進的なサッカーを展開している霜田正浩監督との特別対談(「日本サッカーのストーミングvsポジショナルプレー」)が収録されている。今回は発売を記念して、その一部を特別公開! 西部謙司がプロサッカークラブの現場で用いられている「戦術用語」に迫る。

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――今のお話も踏まえて、ザッケローニの頃から今に至るまでの日本サッカーの流れはどうご覧になってますか?

霜田「僕が協会の仕事をやってた8年間は、どの監督さんと一緒にJリーグのクラブを見に行ってもみんな同じことを言っていました。Jリーグのオーガナイズはしっかりしているとか、日本人は真面目で一生懸命でよく走るねとか、そういう褒めるところは褒めます。でも試合のインテンシティが低かったり、攻撃と守備が分断されていたりするところは良くないと。そういう指摘をずっと聞いていました。いざ自分がJ2で監督を始めると、その通りで、やっぱりボール取りに来ないんだ、点差関係なくボールを失ったらみんな引くんだ、とは思いましたね」

西部「それは確かに日本サッカーに共通する特徴でしたね」

霜田「だけど、だんだん海外の情報が日本に入ってきて、戦術の分析や言語化が進み、日本の指導者も世界のサッカーと同じようなエッセンスを持ってやろうという意識が生まれてきていると感じます。もちろん選手のレベルは違いますし、できることとできないことに差がありますけど、志としてやろうと目指しているチームが増えてきてはいるなと。それの最たるものが去年マリノスが優勝したということなのかなと思います」

昨季のJ1王者、横浜F・マリノス

西部「レノファからもマリノスに選手が行きましたけど、スタイルが近いということもあるのかもしれないですね」

霜田「そういう意味では、レノファは日本がW杯で戦うような立ち位置でJ2を戦わなきゃいけないので、負けたくないとか、J3に落ちたくないということを考えると、もうちょっと現実的な戦い方もきっとあるんでしょうけど、それでは選手は伸びないし、上のレベルに行った時に適応できないので、やっぱり世界の流れを意識したサッカーをやりたいなと考えています」

西部「先ほど、ここ何年かでサッカー界でも言語化が進んできたというコメントがありましたが、言語化の重要性については、どうお考えですか?」

霜田「指導者としては選手全員に同じイメージを持たせたいので、その意味で言語化はとても大事だと思っています。同じイメージを自動的に持てるようなキーワードを言ったりしますしね。代表チームよりは時間がありますけど、30人いたら30人みんな頭の中がバラバラなので。僕がやってほしいプレーのイメージとか、絵みたいなものを瞬間的に、みんな同じように思い浮かべられるような言葉をなるべくシンプルに作りたいなと。難しい言葉でどういう意味だろうと考えちゃうと、概念よりも言葉を覚える方が先になってしまう。最終的には言葉なんかどうでもよくて、その概念をちゃんと覚えてほしい。なので難しい言葉にはなるべくしないようにと考えています」


――レノファのサッカー用語で「アタッキングパス」という言葉を聞いたことがあるのですが。

霜田「アタッキングパスは、パスの出し手はどこでもいいんですけど、パスの受け手、レシーバーが必ず逆サイドのワイドレーンの相手の最終ラインと同じ高さで受けるようなパス、と定義付けしています。例えば右でも左でもいいんですけど、どこかで詰まって顔が上がった時に、逆サイドにいる相手のSB、ウイングバックが絞っていたら、その大外の位置で、同じ高さで受けるイメージですね」

西部「ただサイドチェンジって言っちゃうと、同じ高さというところが入ってこないわけですね」

霜田「サイドチェンジとは明確に定義を分けています。サイドチェンジはサイドを変えるだけで、パスを受けた選手がどこの高さであっても当てはまります。それも1本のパスではなくて、3本も4本も繋がってもサイドチェンジです。これに対して、アタッキングパスは、1本のパスでそこに蹴ることです。そのパスがなかなか出ないんですけど、ボールホルダーもレシーバーも常にそこを狙おうと。もしそれが通ると、右のサイドアタッカーが左のSBと1対1になるので、そこからいろんなことができます。そのパス1本で相手が4バックだったら前の6人、5バックだったら前の5人を置き去りにできちゃうので」

西部「その言葉が選手にも浸透しているんですね」

霜田「言葉にして良かったなと思うのは、選手とビデオを見たりすると、(マンチェスター・)シティの試合でもナポリの試合でも、このアタッキングパスいいよねって共有できるんですよね。同じ視線でサッカーを見るために、言語の統一は大事だと思っています」

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西部「指導される時に、言語ってすごく大事になりますよね。言語がないと伝わらなかったり、定着しないという部分がある」

霜田「ベルギーでコーチをしていた時、僕の拙い中学生英語でやってたんですけど、練習後に家に選手が訪ねてきて、今日の練習のこれはどんな意味? みたいな感じで聞きにきてくれたりしたんです。それをまた拙い英語でお互いにコミュニケーションを取ってる時に、やっぱり言葉でしか伝わらないものはあるなと実感しました。特に日本語って結構ボキャブラリーが多いじゃないですか。だから1つの言葉でいろんな意味に受け取れてしまう。なので、定義付けしてこの言葉を聞いたらこれってわかるようにして、それを常に言い続けることが必要だと考えています」

理想は「ポジショナルプレーで攻めて、ストーミングで守る」

西部「そもそも霜田さんがレノファでやろうとしているサッカー、選手たちに与えているイメージってどういうサッカーなんですか?」

霜田「今日のテーマに合わせていうと、ポジショナルプレーで攻撃をして、ストーミングで守備をしたいってことですね」

西部「なるほど。チームの特徴としてボールを大事にするというところを諦めていないのは、なぜなんですか?」

霜田「その方が選手がうまくなりますし、それを諦めてしまうとそこで成長が止まってしまいます。今『4』の選手を『4.5』にするとか、『6』の選手を『6.5』にすることを逃げないでやらないと、選手がうまくならないからですね」

西部「GKもボールを繋いでいきましょう。後ろからできる限りビルドアップしましょうとなると、ミスも当然出るじゃないですか。そういう時はどういうリアクションになるんですか?」

霜田「ミス前提で話しているので、次にミスしないようにしようって言って終わりです。なので、次ミスしないためにはどうするのかを考えて行動に移してみるとか、練習の1本1本を意識させるとか、そういう地道な作業しかないので、ミスを怒ることはあまりないですね。同じミスを3回も4回もしたら怒りますけど」

西部「基本的にはミスが起きたらそれに向き合う」

霜田「はい。ミス前提なので。ミスが起きても諦めたくありませんし、上達するにはミスを恐れてはうまくならないので」

西部「繋ぐということをやりつつ、守備ではストーミング。それはどういう風に組み立てていますか? ポゼッションするチームだったら、押し込める、押し込めるから高い位置でプレスができるという循環を作ろうってことなんでしょうけど、そういうことですかね?」

霜田「自分たちがこうやって攻めようというと、だいたいどこで失うかをある程度予測がつくので。だから、どこで奪われたら誰が囲みにいくとかね。奪われた瞬間下がらないとか、そういうシンプルな約束事をいくつか決めて、それを選手にやらせると。もちろん『5秒間で奪い返せ』って言って奪い返せない時もあるので。奪い返せないという前提で行けと言ってます」

西部「奪い返せない時にはこうしろっていうのがあるからってことですね?」

霜田「はい。そこまでセットで。『奪い返せ』だけで終わっちゃうと、『奪い返せませんでした』で終わっちゃうので。奪い返しに行きたいけど、奪い返せなかった後のこともセットでやろうという感じですね」

西部「欧州の戦術を取り入れるにしても、良いところだけ真似するんじゃなくて、例えば外された時どうするの? というセーフティネットも張らないと、意味がないですよね」

霜田「そうですね。やりたいことがやれなかった時もセットで選手たちにトライさせるということは意識しています。やりたいだけじゃなくて、やりたいけどやれなかった。でもそのまま点を取られて終わりとか、負けて終わりになると、自分たちがやりたいことをやろうとして負けたんだからしょうがないよ、という話になっちゃう。それはプロのチームとしては絶対にやっちゃいけないことなので、あくまでも勝敗にはこだわりたいし、志が高いから負けてもいいとはまったく思っていません」

西部「いわゆるいいサッカーをやるということと、試合に勝つということを、どっちかしか取れないみたいに言う人がいらっしゃるじゃないですか。でも実際はそうじゃないですよね」

霜田「そうじゃないです。いいサッカーをやったら勝つ確率は上がりますから。勝つか負けるかはいつもわからないって選手には言ってますけど、どうやって勝つ確率を上げるかという部分は共通認識を持ってやろうということですね。逆に言うと、ポゼッションもカウンターも全部ツールで、目的は勝つこと。あるいは目的は相手にボールを渡さないこととかね。手段を目的にしないのは大事かなと思いますね」

Masahiro SHIMODA
霜田正浩

1967年2月10日生まれ、53歳。現役時代はフジタ工業(現・湘南ベルマーレ)、京都紫光クラブ(現・京都サンガ)でプレー。引退後は京都サンガ、FC東京、ジェフ千葉で指導者と強化部スタッフを務め、09年より日本サッカー協会入り。技術委員長やナショナルチームダイレクターを歴任し、日本代表の強化に尽力した。17年より指導現場に戻り、シント=トロイデンのコーチに就任。18年からレノファ山口の指揮を執る。


Photos: ©RENOFA YAMAGUCHI FC, Getty Images, Pool/Getty Images

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。