2010年からのJ2参戦16シーズンで過去に5度のJ1昇格プレーオフに進出しているジェフ千葉だが、いずれも勝ち上がることはできなかった。小林体制3年目の今季は自動昇格圏の2位まで勝ち点1差まで迫ったものの、3位。6度目の決戦に臨むことになった。そこでJ1昇格プレーオフ突破のために必要なことを過去の教訓も踏まえて、当時からクラブをウォッチしていた西部謙司氏に聞いてみた。
「引き分けでOK」を忘れさせたプレーオフの魔物
J2最終節、千葉は5-0で今治を下したが、上位2クラブ(水戸、長崎)に勝ち点1およばずプレーオフに回ることになった。
過去、千葉は5回プレーオフに進出している。決勝進出は2012年と2014年の2回あるが、12年は大分に0-1で敗れ、14年も山形に0-1だった。この2つの決勝において、千葉はリーグ戦順位が対戦相手より上だった。
リーグ戦順位が上のチームは引き分けでも勝ち抜けとなる。リーグ戦を尊重したルールだが、千葉は2度ともそのアドバンテージを活かせていないのは気になるところだ。特に12年は失点が86分、元千葉の林丈統のゴールという点でトラウマ的な敗戦の記憶になっている。
この決勝で勝利しなければ昇格がないはずの大分が、前半は守備を固めていた。ボールを保持していたのは千葉。ところが、ドローでも昇格できる千葉は得点できないことで焦り始めていた。選手間に温度差があったと思うが、全体的には「上手くいっていない」という感触を持ってしまっていた。
大分は最初からプレー時間を浪費する戦い方だった。得点が必要な大分にとって相手にボールを持たせて時間を減らすのは無駄に思えるが、まともに打ち合うよりも時間を限定して勝負をかけた方が望みはあるという判断だった。そして目論見通り86分のゴールで勝利したわけだ。
ただ、大分の作戦的中はたまたま引き当てただけとも言える。勝利が必要なチームとしての戦い方としては合理的ではなく、いわばそれしかやりようがなかったのだ。
一方、千葉は引き分けで昇格できるのに「ボールを持たされている」というネガティブな感情になっていた。確かに持たされていたのだが、本来は状況的にそれで全く問題ない。勝利が必要なチームなら話は違うが、引き分けで昇格できるのだから、相手の策略通りであろうが何だろうがボール保持のまま時間が経過していくのは状況的には有利なのだ。
つまり問題は千葉が勝って昇格しようとしていたことにある。
最初から引き分けを狙ってプレーすることはまずない。時間の経過とともに引き分けを意識することはある。ただ、その考え方の切り替えをいつ、どのようにするかが難しく、引き分けでも昇格というルールがプレーする上で余分な負荷になりかねない。12年の決勝はプレーオフには魔物が潜んでいると思わされるものだった。
ファンに愛された時点で「自分たちのサッカー」は成功
小林慶行監督が3年間率いた千葉は「勝つためのサッカー」を突き詰めてきた。
今年に関しては「大人になる」が1つのテーマで、試合状況に応じて賢く戦うことも採り入れようとしている。言い換えるとリスクのコントロールの仕方だが、基本はリスクを冒しても勝ちにいくスタイルだ。
千葉の勝つためのサッカーとは、敵陣で攻守を行う構造を作るプレーの仕方である。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
