ポルトガルが誇る名将が母国へ帰還を果たしている。監督キャリアを通じて26ものタイトルを獲得してきた輝かしい功績を持ちながらも、近年は手腕に陰りが見える中で今月ベンフィカへ復帰したジョゼ・モウリーニョのことだ。2025-26シーズン序盤戦で躓いた古巣とともに再起を図る62歳の今を、ゴンサロ氏とたどっていく。
2025年9月18日、ジョゼ・モウリーニョが25年ぶりにベンフィカへ帰ってきた。ポルト、チェルシー、インテル、レアル・マドリーでの輝かしい経歴が頻繫に語られるが、彼の監督業の始まりはベンフィカである。実はとあるタイミングも25年前と共通しているが、まず簡単に第1次政権を振り返ってみよう。
古巣ポルトと「『戦争』をするために戻ってきたわけではない」
2000年9月、シーズン早々に辞任したユップ・ハインケス監督の後釜として就任。名将ボビー・ロブソン監督のアシスタントとして、スポルティング、ポルト、バルセロナでの指導経験はあったものの、指揮官としての実績が皆無の彼には、メディアやサポーターから多くの疑念が注がれた。当時の入団会見ではこう意気込みを語っている。
「何気ない言葉として受け取ってほしくないのですが、実のところ、すごく誇らしく思っています。私を正当に選んでくれた人々に感謝する代わりに、毎日最大限のプロ意識を持って働いていきます」
しかし船出は芳しくなかった。初陣のボア・ビスタ戦は0-1で敗北、次いでUEFAカップのハルムスタッズ戦、ポルトガルリーグのブラガ戦は2試合連続のドロー。4戦目のベレネンセス戦でようやく初白星を挙げた。その後は徐々に調子を上げ、4連勝も記録。連勝街道の4試合目、スポルティングとのダービーは3-0で完勝を収めたものの、奇しくもこの大一番を最後に、わずか11試合でモウリーニョは解任された。
要因はベンフィカ会長の交代劇である。モウリーニョを招へいしたジョアン・バレ・イ・アゼべド会長が選挙で敗れ、新会長にマヌエル・ビラリーニョが選出される。選挙において一貫してアントニオ・オリベイラ監督(現ポルトガルサッカー連盟ディレクター)の就任を確約していた後者に、モウリーニョは契約継続の条件と新契約を要求したが却下され、不本意ながらクラブを去った。
その後、ウニオン・レイリアを経て2002年1月からポルトの指揮を執ると、2002-03シーズンには3冠、翌季にポルトガルリーグ連覇と17年ぶりCL優勝へ導いたのは知っての通り。宿敵であるベンフィカへの復帰は古巣ポルトのサポーターからすれば、複雑な心境になることは当然である。第2次政権発足の5日前には本拠エスタディオ・ド・ドラゴンで試合を観戦するモウリーニョを、スタンディングオーベーションで迎えていたのだからなおさらだ。
さっそく本人は初陣アベス戦後の記者会見ではポルトに対する考えを問われたが、そこで最大限のリスペクトを口にしていた。
「就任会見で『ベンフィカが世界最高峰のクラブである』と言いましたが、『ポルトがそうではない』とは言っていません。『ポルトが世界最高峰のクラブか?』と聞かれれば、『イエス』と答えます。私はポルトを怒らせるためにベンフィカへ戻ってきたのではありません。再びビッグクラブを率いる可能性に賭けるためでした。彼らが私に腹立てないことを願っています」
その上でライバルクラブの会長たちとの関係が良好であることも強調している。
「ベンフィカに来てから、(アンドレ・)ビラス・ボアス(ポルト会長)や(フレデリコ・)バランダス(スポルティング会長)とも話しました。彼らとは良好な関係で、友人でもあり、互いにリスペクトしています。私がベンフィカの監督であるという事実は、私が『戦争』をするために戻ってきたという意味にはなりません。ポルトのスタジアムにおいて拍手喝采で迎えられることはないでしょう。ただポルト時代は私とクラブ双方の歴史において、非常に重要な部分を占めています」
再び去就を左右しかねない、会長選という不確定要素
次戦リオ・アベ戦の前日記者会見でモウリーニョは、今回の再任の背景について詳細を語っていた。
「ベンフィカがCL(リーグフェーズ第1節)のカラバフ戦に敗れた時、私は妻とバルセロナにいました。翌日にルイ・コスタ会長から電話があり、私にベンフィカの監督に就任してもらいたいということ、そして直接話したいということを言ってきました。私は『イエス』と答え、その日のうちにポルトガルへ行き、話し合いをする旨を伝えました。それで話は終わったのです」
そして決して金銭目的ではなく、タイトルへの渇望が彼の心を動かしたという。
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Profile
ゴンサロ
大学時代にポルトガルのリスボンへ留学。現地エスタディオ・ダ・ルスの熱狂的雰囲気に圧倒され、ベンフィカの虜となる。趣味はベンフィカやポルトガル代表の試合観戦を目的とした海外旅行。ポルトガルサッカーに関するニッチな情報を日々SNSにて発信している。X:@BergkamPutin
