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「はっきりしない」のがフランスのサッカースタイル

2020.05.28

この記事は『プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド』の提供でお届けします。

2018年W杯で2度目の世界一を経験した“現王者”フランス。国立のサッカー養成所であるクレールフォンテーヌをはじめ各クラブも優れた育成機関を有し、次代を担うタレントの宝庫となっているのが彼らの大きな強みだ。一方で、そのプレースタイルに関しては「はっきりしていない」という。その理由と背景をたどってみたい。

2018年ワールドカップを制した“アフリカ”

 フランス代表のプレースタイルは、はっきりしていない。むしろはっきりしていないのが特徴と言える。これはその時々にチームを構成する移民選手の傾向に左右されているからだ。

 1950年代はモロッコ出身のジュスト・フォンテーヌとポーランド系のレイモン・コパを中心とした攻撃的なチームで1958年ワールドカップ3位。この頃のフランスでは東欧系のスポーツ選手が活躍していた。1980年代はイタリア系のミシェル・プラティニ、スペイン系のルイス・フェルナンデス、マリ出身のジャン・ティガナなど、近隣諸国と旧植民地アフリカ系選手とのミックス。この時も華麗なパスワークで“シャンパン・フットボール”と称賛された攻撃型だった。

 ワールドカップ初優勝の1998年は移民の第3波。ジネディーヌ・ジダンはアルジェリア移民2世、マルセル・デサイーがガーナ生まれ。フランス海外県のグアドループ系のリリアン・テュラムとティエリ・アンリ、バスク人のディディエ・デシャン、ビセンテ・リザラズなど、多彩な編成になっている。この時は鉄壁の守備が強みだった。国内リーグも移民系選手が多くを占めるようになり、その中心はアフリカ移民であった。

1998年W杯決勝の先発メンバー。前列左からカランブー、ジョルカエフ、デシャン、バルテズ、リザラズ。同じく後列がジダン、デサイー、ルブーフ、テュラム、ギバルシュ、プティ

 アフリカ移民系選手も大きく2つに分けられる。マグレブと呼ばれる北アフリカ系はジダンに代表される技巧派が多く、カメルーンやコートジボワールなどをルーツとする選手はフィジカルの強さを特徴とする選手が多い。グアドループ組も身体能力に秀でている選手が多かった。総じてフィジカルの強さがこの時期のフランスにプラスされた武器であり、それは現在も変わらない。

 2018年、ロシアワールドカップで2度目の優勝を成し遂げたメンバーはアフリカ系の選手が多数派だ。

 サミュエル・ウムティティ、ラファエル・ヴァラン、ブレーズ・マテュイディ、ポール・ポグバ、エンゴロ・カンテ、キリアン・エムバペと決勝の先発6人が黒人選手だった。カリブ海マルティークにルーツを持つヴァランを除く5人はアフリカ系。23人のメンバー中、アフリカ系は15人と約65%を占めている。

2018年W杯決勝の先発メンバー。前列奥からグリーズマン、マテュイディ、パバール、カンテ、エムバペ。同じく後列がポグバ、ウムティティ、リュカ・エルナンデス、ヴァラン、ジルー、ロリス

 ワールドカップで優勝する3つめの大陸はアフリカになるだろう――1980年代からそう言われてきたが、いまだにアフリカ勢はベスト4にも入っていない。ただ、ロシア大会のフランスは半分以上が“アフリカ”で、プレースタイルもアフリカ的ということを考えると、アフリカはすでに世界を制したと言っていいのかもしれない。

普通なのに普通でない

 アフリカ系選手が多数派となっている現在のフランスの特徴はフィジカルにある。

 戦術的にはオーソドックスな[4-4-2]を基調としていて、ごく普通。しかし、個々の優れた身体能力が普通の戦術をグレードアップしている。

 ヴァラン、ウムティティの空中戦の強さ、ギリギリで足が届くリーチ、スペースをカバーするスピードは何度もピンチを未然に防いでいた。カンテはアジリティと無尽蔵の運動量で守備を支え、ポグバのパワーとテクニックがゲームを作り、マテュイディのスピードは攻守をリンクしている。そして、エムバペの爆発的なスプリントは大会の華だった。

 ゾーンのライン形成には、必ず守れない場所がある。重点的に人を集めて守る場所と、そうでない場所の優先順位を明確にすることがゾーンディフェンスの要諦なのだが、フランスは個々の守備範囲が広い。スピード、運動量、リーチの高さがカバーできる範囲を広げているので、同じ戦術でも他国より穴が空きにくい。エムバペは攻め残ることが多かったが、いざとなれば戻ってこられる。スピードがあるので間に合うのだ。

 攻撃はエムバペの速さが大きな武器になっている。1対1でぶち抜いていくスプリント力は圧倒的で、スペースがある時は止めるのが不可能だった。特にポグバからのレンジの長いパスでエムバペを走らせるホットラインは無双。2人の個の力だけでなく、感覚の共有が大きい。ポグバでなければ出せない、エムバペでなければ追いつけない、その関係で成立している。

 7試合で6勝1分(引き分けはグループステージのデンマーク戦)、得点14、失点5。ワールドカップ優勝チームにしては失点が多く、出入りの激しい得失点になっているが、この数字は実態を表していない。フランスの特徴は、どんな相手にも接戦に持ち込めるところにあるからだ。ラウンド16のアルゼンチン戦は3失点、決勝のクロアチアも2失点。しかし、どちらも4点取って勝っている。逆にその他の5試合はオーストラリアに1失点のみ。攻撃型なのか守備型なのかよくわからないが、それこそがフランスらしさだ。撃ち合いでも堅い膠着でも、ゲームの性格に応じて対応できて、相手より1つ上に出られる。

フランスの堅守の要となっているヴァラン。現在は主将としてチームを統率する役割も担っている

 自分たちの形はないので、手筋にはめて相手を圧倒するには至らない。その代わり、どんな相手でもそのパワーを吸収して打ち返せる。普通に守っているが、選手のフィジカルが普通でないだけよく守れる。攻撃はカウンターとセットプレーが得点源だが、速さと高さで違いを作れる。

 ヨーロッパの戦術を、アフリカ系選手を中心としたフィジカルでグレードアップしたのがロシア大会のフランスであり、普通なのに普通でない。オールマイティなとらえどころのない強さこそ、現在のフランスの真骨頂である。

スピードと技巧の傑物エムバペ

フランス代表の攻撃の核エムバペ。瞬く間にフランス代表のエースに、そして世界屈指のストライカーへと上り詰めた

 カメルーン人の父、アルジェリア人の母、キリアン・エムバペはパリ19区に生まれた。クレールフォンテーヌ国立養成所で英才教育を受け、モナコのユース経由でプロデビューというコースはティエリ・アンリと同じだ。

 破格のスピードもアンリと同じだが、同年齢のアンリよりテクニックと戦術眼に秀でている。すでに緩急の使い方を心得ていて、ボールタッチやシュート技術に自分の形を持っている。右方向へ抜け出しながら、角度をつけたキックで左側を狙うのはその1つだ。これはシュートでもクロスボールでもよく使っている。

 クロアチアとの決勝でのゴールは、右方向へ持ち出しながらファーサイドへ蹴る体勢からニアサイドへシュートを決めた。ドリブルで外して開けたコースをDFが防ごうとする逆をついている。

 右サイドを縦に突破した時にはプルバックを狙う。中央のDFはエムバペのスピードに対応するためにゴール方向へ走っているので、戻し気味のパスをカットできない。

 シュートもクロスも、エムバペは自分の速さによる効果をよく知っていて、何とか防ごうとする相手の逆を突く感覚を持っているわけだ。

 10代の世界王者はペレ、ジュゼッペ・ベルゴミ以来。まだ体も軽い。加齢にしたがって重さがついてくるが、それをどこまでコントロールできるか。フェノメノと呼ばれたロナウドは爆発的なスピードだけでなくフィジカルコンタクトをはねのけるパワーを兼備していたが、パワーのための重さが膝に重傷を負うきっかけになっていたと考えられる。スピードとパワーの適切なバランスを見つけられるかどうか、それがエムバペの今後の課題だろう。

 大きな負傷さえなければ、10年間はスーパースターとして君臨できる才能に恵まれている。スピードと技巧の怪物が本格始動するのはむしろこれからだ。

◯ ◯ ◯

爆発的なスピードで相手を置き去りにし、正確なシュートでゴールネットを揺らすキリアン・エムバペに、圧倒的なフィジカルでボールを奪い、優れた機動力と技術で攻撃へと展開する万能型MFポール・ポグバ、そして、高さ、速さ、強さを兼ね備えるモダンCBの代表格ラファエル・ヴァラン。現在フランス代表の各ラインで主役を張る3選手が、大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)に登場!

「サカつく」未経験の方もこの機会にぜひ、ゲームにトライしてみてほしい。

<商品情報>

商品名 :プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド
ジャンル:スポーツ育成シミュレーションゲーム
配信機種:iOS / Android
価 格 :基本無料(一部アイテム課金あり)
メーカー:セガゲームス

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http://sakatsuku-rtw.sega.com/

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Photos: Getty Images

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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