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日本代表ドクター土肥先生に聞く。アカデミーが「骨年齢」を調べる理由

2019.11.07

昨季のCLでベスト4と躍進したアヤックスは主将のマタイス・デ・リフトを筆頭に自前で育成した若きタレントたちが躍動し、「育成の勝利」と称えられた。「前倒しの育成」「個別の育成」というのが成功のキーワードと言われているが、そのベースとなっているのが「生物学的年齢」という概念だ。それぞれ成長のスピードが違う子供たちに成熟度に合わせて個別に、適切なトレーニングを組むことで才能開花に繋げた。同じく日本にも早くからこの概念にフォーカスしていた組織がある。JFAアカデミーだ。そのプロジェクトを担当し、『サッカー日本代表帯同ドクター』を上梓した土肥美智子先生に、生物学的年齢の測定方法や将来の身長を知るメリットを聞いた。

「生物学的年齢」とは何なのか?


――去年のCLで躍進したアヤックスは、当時19歳のデ・リフトが活躍したように、育成で成功したクラブとして注目を集めました。そのアヤックスが生物学的年齢を考慮した育成の取り組みを始めているというところで、このトピックが注目されてきています。そもそも医療関係者以外には生物学的年齢と言われてもピンとこないと思うので、まず生物学的年齢というのが何なのかというところから教えてください。


 「生まれた時から今現在までの年齢が、一般的な暦の年齢ですよね。何月何日に生まれて、何年何カ月何日経過をしたという年齢。ただ、成長には個人差があります。もちろん性別や民族差も含まれますが。生物学的年齢とは、そうした発達度合い、神経学的な部分とか、心臓とか、機能的なところも含めて体の臓器がどれくらいでき上がっているかを表したものです」


――どの世代までに適応したものなんでしょうか?


 「日本のデータでいうと、男子が19歳、女子が18歳ですかね。もちろんズレる人はいますが、それくらいで大体成長が完了するので」


――生物学的年齢の調べ方にはいろいろ種類があるんですか?


 「まず骨年齢を調べるアプローチがあります。もともとは医療の現場で、病気によって体が成長しない、生物学的年齢が上がらないケースに対して、昔から使われています。左手のレントゲンを撮って骨の成熟度を見て、過去の日本人のデータの集積から骨年齢を判断するということですね。これに対して、本人の身長の変化を見て、最大身長成長速度PHV(ピークハイトベロシティ)を示す時期から将来予測を出す方法や、両親の身長から子どもの身長を予測する『ターゲットハイト』といったアプローチもあります。これらはどちらかというと最終予測身長を見るのが主目的ですが、そこから逆算して骨年齢、生物学的年齢を計算することもできます」


――骨年齢のレントゲン画像で、具体的には何を見るのでしょうか?


 「骨年齢の推定には2つ方法があります。1つはアトラス法で、指の骨と手首の骨の成長度合いを見るのですが、その名の通り、図版集と比べて生物学的年齢を推測します。もう1つは、TW法(ターナーアンドホワイトハウス法)で、骨の成熟度をスコアリングします。骨核ごとに発育段階を区分し、そこに点数(スコア)をつけ、その合計で生物学的年齢を割り出します。たとえば指の骨なら、成熟度BからIまでの8段階に分けられています。また、回帰曲線から予測身長を推定することも可能です。私たちが使っているのはTW法です。こちらの方がより正確だと思います」

TW法で基準となる指の骨の成熟段階について説明する土肥先生


――そうしたレントゲンによる骨年齢の測定と比較すると、PHVのような身長そのものから予測するアプローチは精度が低くなるんでしょうか?


 「そうですね。あくまで過去の日本人のデータから判断するので、(低年齢で高身長など)成長速度のパターンが特殊な人については推測するのは難しくなるケースもあります」


――左手のレントゲンを撮るだけで骨年齢がわかるのであればもっと普及してもいいと思うのですが、なぜあまり広がらないんでしょう?


 「やはり多少なりとも被ばくをしてしまうという部分ですね。正常な人に被ばくをさせるというのは、倫理的にも問題があるので。サッカー協会では同意書を取った上で撮影しています」


――実際のところ、被ばくのリスクはどの程度なのでしょう?


 「どこの臓器に対してなのかによっても変わってきますが、自然被ばく、例えば胸の写真1枚が自然被ばくの何分の1かですから、ほとんど影響はないと言われています。あとデメリットでいうと、機器のある施設に行かないと撮れないというのもありますね。そうした理由で一般への普及が難しくなっています」


――コスト的にはどうなんでしょうか?


 「数百円から千円とかその程度なので、そんなに高額な検査ではないと思います。もちろん、病院によっても違いますけれども。ケガとか病気があれば保険診療となるのでさらに安い値段で受けられます。」


――では、PHVの身長から推測するアプローチのメリット・デメリットは何なのでしょうか?


 「メリットは、誰でもできることです。医療機関に行かなくても、身長の推移さえわかればできる。たださっき言ったようにピークのパターンが違う人もいますし、骨を見る方が正確にわかると思うので、精度では劣ります。あくまで統計からの推測なので、個々の状況は考慮できないというところです」


――PHVはその場だけのデータではなくて、継続的なデータが必要になるんですか?


 「成長のピークがわかればいいのですが、そのためにはある程度継続してスコアを取らないと判断できません。日本人の平均が男子だと13.3歳がピークですが、個々のピークを特定するにはその前後のスコアが必要です」


――1年に1回として3年3回分くらいのデータが必要ですか?


 「最短で3回です。骨年齢の場合は1回のレントゲンである程度わかります」

「将来の身長」を知るメリット


――JFAアカデミーが骨年齢の測定を始めた目的は、何だったのでしょうか?


 「主にセレクションなどでの能力評価に利用されています。目的は大きく2つあって、まず1つは生物学的年齢の違いに応じた能力評価をすることです。例えば12歳の子供といっても、生物学的な年齢は14歳から10歳くらいまで幅があります。生物学的年齢が14歳の子と10歳の子では、やれる技術は当然違いますよね。当然14歳の子の方が速く走れる、強く蹴れる。そういう個人差をきちんと見極めて、その子の生物学的年齢に合った能力があるかどうか見極めるということです。ちなみに、アカデミーの選抜テストをやった際に、横軸が暦の年齢、縦軸が骨年齢のグラフを作りましたが、もし骨年齢と暦年齢が同じであれば、比例するラインにみんな乗るはずですよね。でもそんな人は1人か2人で、あとはバラけます。つまり、骨年齢と暦年齢は一致する人が少なく、個人差が大きいということです。もう1つの目的が、純粋な身長予測ですね。その時点で身長が高いからというだけで判断すると、結局早熟で最終的にはあまり伸びないという子も出てくるので」

土肥先生が見せている資料が暦年齢と骨年齢のグラフ


――現場での生物学的年齢の使われ方は主にセレクション、JFAアカデミーの場合は誰を入学させるかの判断材料でしょうか?


 「身体に合った能力があるかという見方ですね。ただ、予測身長が伸びないから取らないというのはサッカーの場合はないです。せいぜいGKを取る場合に、能力が一緒だったら、背が高くなる方を選ぶかもという程度です。ただバレーボールでお手伝いをした時は、将来高くなる人をなるべく選びたいという意向がありました」


――これは監督やフィジカルコーチの管轄になるかもしれませんが、日々のトレーニングの負荷であったり、ケガの予防の観点でも骨年齢は参照されているのでしょうか?


  「トレーニング内容にまで私は踏み込んでいませんが、トレーナーさんたちとは連携しています。私たちはアカデミーで選手のケアもしますが、一番はトレーナーさんが管理をしてくれていて、何か問題があった時にこちらに言ってきてディスカッションをするという形です。なのでトレーニングというより、メディカルケアがメインです」


――具体的にはどのようなコミュニケーションがあるのでしょうか?


 「私たちが一番絡むところとしては、例えば前十字靭帯を小学校6年生で切る子、中1で切る子がいて、その子たちが手術をどのタイミングでするか。まだ骨とか成長する時期は待った方がいいとか、ある程度もう(靭帯が)つくなっていう頃を見計らって手術した方がいいというのはあります。あと多いのは骨端症という、成長期に起きるオスグッド病とか、骨端が閉じてないと変形を起こしたりとか、骨年齢でそういうことが起きるリスクを考えて、負荷をコントロールしてもらったりします。あとはやはり、学年ごとでチーム分けをするので、生物学的年齢が低くて周囲になかなかついていけない子供も出てきます。そんな、指導者側も成長に個人差があることを理解しておく必要があります」


――それはすごく大事なことですよね。本人にとっても逃げ道が見つかるというか、必要以上にネガティブにならないですよね。一方で海外のエリートを育成するクラブだったりすると、アヤックスだけでなく他のクラブも、選手に個別の育成計画を立てることが1つのトレンドになっています。アヤックスのデ・リフトは、僕が聞いた話では、15歳の時に生物学的年齢が17.3歳だったというデータがあり、U-15ではなくU-16のチームでプレーさせたと。そうした生物学的年齢によって実際にプレーするカテゴリーを調整するような育成計画は実現性があるでしょうか?


 「代表レベルでは可能性は十分にあると思います。1クラブでそれをやっていこうというのは、そこまで細かくカテゴリーを分けられない以上、難しいかもしれません」

その後も順調に成長を続けたデ・リフト(左)はU-19チームの一員として16歳でUEFAユースリーグを経験している


――JFAアカデミーでは2003年から骨年齢を測定してきたということで、かなりデータも蓄積されていると思いますが、何か発見はありましたか?


 「骨年齢がわかることで、最終身長の推測だけではなく、適切な手術のタイミングの判断などにもうまく使えることがわかりました。難しいのは回帰式があるのですが、すでにその身長を越えている人、どうしても式を作るのに乗ってこない人、外れる人が出てくる。あるいは今から20cm以上伸びるようなケースもあり、そういう例外の子たちをどう判断するか。予測身長に関しては、アカデミーの方は毎年測定ができてそこからピークがわかるので、PHVで代用してもいいかなと考え始めています。あとは、筋トレのような負荷の高い運動は骨の成長が止まってからの方がいいと言われているので、その目安にも使われています」


――骨年齢で筋トレを始めていい年齢がわかるのは大きいですね。


 「スキャモンの成長曲線というのがあるのですが、神経系の運動は小さい時にやった方がいいとか、背が止まるのが17歳、18歳くらいなので、それまでの間は筋トレは自重だけのものがいい。そういった判断にも使います」


――2003年から導入したとしたら、結果もかなり出ていますよね。


 「1回まとめたことがあって、すごく大きくズレたのってあまりなかったです。ただ予測まで伸びなかった理由を探るのはなかなか難しいです。生活環境の問題もあるので」

「消えた天才」をなくすために


――プレミアリーグでは、生物学的年齢でグループ分けをしているチームがあったり、バイオバンディングの専門トーナメントが開催されたりしているそうです。でも批判もあって、生物学的年齢で人為的にそろえると体格が違う選手と戦う機会が損なわれるんじゃないかとか、あと年上の選手とプレーするとメンタル面で萎縮してしまうんじゃないかとか。こうした部分についてはどう思われますか?


 「これは難しいですよね。体が大きい人たちとやって逆に奮起して伸びる選手もいれば、それが嫌でドロップアウトをしちゃう子もいますからね。でも、医学的な観点からいうと、成熟度が近い、同じ体格の人たちとやった方がやっぱりいいと思います。ケガも少なくなるでしょうし、神経系が発達する時に技術を覚えて、パワーがついたら広いピッチでやるというように成熟度に合わせてトレーニングできる方が、医学的には正しいのかなと。あと、例えば12歳だけど生物学的年齢は14歳というような早熟の子は、技術がなくても体の大きさだけでやれてしまうために、最終的には、元は小さかったけど技術を覚えてきたような子に追い越されてしまう、というようなことがある。そうした意味でも、成熟度が同じ中で集まった方が、自分はパワーでやれていただけだとわかって、そこで技術を磨こうと思えるかもしれない。そういう気づきはやっぱり若いうちにあった方がいいと思います」


――お話を聞いて、よくメディアでも「消えた天才」みたいに言ったりしますけど、本人の努力不足だけでは決してない部分もあるのだろうなと思わされました。


 「どんなスポーツでもそうですが、小学校や中学校の大会でその選手は終わりじゃないので、そこで勝つためのチーム作りではなく選手のことを考えてあげてほしいです。早熟の選手を集めれば勝てますけど、それまでですよね。早熟な選手も晩熟な選手もいる中で、それぞれの生物学的年齢を見ながら、その選手の将来を見据えた指導をしてほしいと思います」


――本人にも生物学的年齢については伝えた方がいいんでしょうか?


 「これは難しいところで、思ったほど身長が伸びないんだと変にがっかりさせてしまうと良くないし、逆に変に期待させてもいけない。なので先ほど話に出たように、プレーがうまくいっていない時に、もし生物学的年齢が低いことが理由だったら、それを言ってあげるというような使い方がいいのかもしれないです。だから晩熟の子はともかく、早熟の子にどう言うかは少し考えた方がいいでしょうね。個人的には選手は知っておいた方がいいとも思うんですよ。変に期待しないし、今自分はどこの位置にいるかを客観的に把握して、それに合わせていつから筋トレしていいかだとか、あるいは早熟だから今強いだけで、きちんとトレーニングしないと将来はダメだっていうことを理解できる。単に早熟か晩熟かで終わりじゃなくて、じゃあどうしたらいいのか、何が起こるのかをきちんと選手に説明してあげる。別に成長差は良いことでも悪いことでもなくただの現実であって、それをどう解釈するかをきちんと教えてあげないといけない」


――そもそも生物学的年齢って街クラブや学校のクラブではなかなか知られていないと思うのですが、勉強さえすれば誰でも測定したりできるんですかね?


 「そうですね。PHVに関しては、本人の身長をプロットするだけなので」


――下の年齢だったら、どれくらいから意味のある値が出てくるんでしょうか。12歳以上みたいな感じですか?


 「ピークが来るのが、日本の平均は男子が13.3歳、女子が10.8歳なので、そこまでは無理なのですが、一度少しだけ数値が落ち込む時期があって、そこからピークにいくまでの平均が、2.6歳とかなんです。その落ち込みが、大体男子が10歳で、女子が8歳。なので、ここさえ特定できれば、おおよそは描けるかもしれないですね」


――人種によっても変わってくるんですか?


 「変わるでしょうね。パターンが変わるかはわからないですけど。成熟のタイミングに関していえば、日本人は欧米人に比べて2年くらい早いと言われているので。だから身長が伸びないんですよ。成長に関しては早熟なんです。あとはハーフとか、そういう方は日本人のデータが当てはまらないです」


――ベースにあるのは、日本人を想定した計算式だと。


 「そうですね。ただカーブのパターンはそこまで変わらないと思います。ピークについては早い可能性があるということで」


――小学生、中学生の年代のグラスルーツの指導者の方とかも、本人の身長のデータさえあればできるとなれば、やりたいんじゃないかと思いますね。


 「できると思います。もっと広く取り入れられた方がいいと思います。今言ったような医学的な観点、ケガとか、心の面もそうだと思いますし、年齢に合った指導を受けていないがために有望な人材をダメにしてしまうこともあるので」

成長エネルギーと貧血問題


――生物学的年齢に関連して、成長スピードの変化などでケガへの対処が変わるというお話がありましたが、他にもアスリートの成長期特有のトラブルはあるんですか?


 「貧血ですね。貧血は女子に多いと思われていますが、実は男子も女子もアスリートには多い。子どもの時って採血なんかしないじゃないですか。アカデミーの子は別ですよ。でも普通は血液検査ってしないんです、自分が貧血かもしれないと思わない限りは。例えば調べたらアカデミーは男子の方が女子より4倍くらい貧血の選手が多いんです。一番身長が伸びている時期に貧血になる傾向がある。運動量が上がって必要量が増えているのに、摂っても追いつかないところがあって、貧血になって有酸素能力が落ちる。それで走れなくなってしまうわけです。でもコーチは見てもわからないから、サボっているんじゃないかとなる。選手自身は体力不足と思って無理をしたり、ケガに至ったりする。あるいは、一生懸命やっているのにわかってくれないと腐るわけですよね」


――確かに、貧血はデータがないと判定できないですね。


 「採血しないからわからないだけで、疑いがあれば採血すればいい。そのためにも身長・体重を把握して、身長が急に伸びたら、もしかして急に動けなくなったのは貧血のせいかもと疑えばいいと思います。バスケのジュニア世代では、貧血は男子の方が2倍多かったんです」


――印象と逆ですね。貧血といえば女子みたいな印象があります。


 「選手のパフォーマンスが下がって、どこか様子がおかしい、一生懸命やってるんだけど動けないんですって言われて、病院に行ってこいと言ったら、貧血だったという例は多いです」


――身長が急に伸びる時期に多いっていうのは?


 「身長が伸びる時にヘモグロビン値が下がる選手が多いんです。あと一時的に低体重を示していることも多い。つまり身長の伸びる時期にその分きちんと食べなきゃいけないんだろうなと」


――エリートレベルのスポーツ選手ゆえにってところなんですかね?


 「それもあると思います。成長は誰にでもあることですが、彼らには運動に必要なエネルギーが余分に必要なわけで、そこの摂取が追いつかない。運動することで、成長に必要な分と基礎代謝に必要な分を食っちゃうことがあるわけですよね。そこで問題が出てくる」


――それは食事量を増やしたり、サプリメントを取ったりすることで対処できるのでしょうか?


 「いや、サプリメントは勧めていません。まず食事でいきましょう(笑)。ドーピングのリスクも考えて、サプリメントじゃなくてまず食事、それでも足りない場合には内服治療を勧めています」


――海外ではかなりサプリメントが普及しているイメージです。日本でも増えてきていそうですが。


 「実際問題として、トップアスリートの8割くらいは摂っています。ユースのオリンピックの子たちも6割くらいは。理由はいくつかあって、もちろんメーカーが効果を喧伝しているのもありますが、今はとにかく手に入りやすい。それなりに値段はするけれども、簡単に手に入る。海外のサプリメントもインターネットで手に入ります。あとは、マーケティングのためにタダで渡されて、摂取しているパターン。でもメーカーは何かあった時に守ってくれるわけではない。ドーピング検査で陽性になった場合、摂ってしまった時点で取り返しはつきません」

骨融合検査でAFCの年齢詐称が激減


――もう1つ骨年齢で聞きたいテーマがありまして、AFCの年齢詐称の防止ですが、これも骨年齢によって行われているんですよね?


 「はい。厳密にいえば、骨癒合を見ています。2007年からFIFAとAFCで研究をしました。骨癒合の度合いを1から6までグレード分類しています。6になるともう完全に癒合している。データ上は、アジアもヨーロッパも含めて、16歳以下でグレード6の人はほぼいないんです。なので、グレード6の場合はもう16歳以上と考えていいんじゃないかと。なのでU-16の時に検査をしてグレード6だと、年齢的に怪しい。ただ戸籍上のシステムがきちんとしていないなどで実年齢とずれてしまっているという場合もあって、そこは難しいんですけど」


――AFCのアジアユースはU-16ですからね。骨融合のレベル6であれば、16歳の大会には出せないということですか?


 「ごくわずか700人に1人くらいの例外はいますが、大会レギュレーションでそう決めました。MRIでグレード6が見つかった場合、その選手は出場させない、規律委員会の方に回ると。医学的には骨がついている、ついてないだけを判断して、あとは規律委員会に任せる形です。違反した選手だけ参加させない、あるいはチームごと参加させないとか、いろいろな規定があるんですが、2007年からそうなりました。最初の年は10例、グレード6がいました」


――結構いましたね(笑)。


 「それで処分が下された結果、そこから後は減っています。最初は429人検査をしていましたが、今は全員やらないで、無作為的に何人か選んでやっています。イメージ的にはドーピング検査に近くて、3人から4人くらい無作為に選んで行います」


――どれくらいが意図的な違反なんでしょうか?


 「意図的な場合と、そうでない場合があります。戸籍制度の段階で不備があったり、自分の正確な年齢自体がわからない場合もある。誤解してほしくないのは私たちは嘘つきを探すわけじゃなくて、選手を守るためになるべくフェアにすることが目的です。若い選手の大会で大人みたいな体つきの選手と戦ったら体の小さい選手のケガのリスクもありますし、スポーツのフェアネス、公平性を保てなくなります。過去にあるアフリカの国で、違反者が5、6人いたんです。そこでチームごと帰国させたら、監督と選手たちが牢屋に入れられてしまったんです。16歳の子たちですよ。仮に意図的にやったとしてもそれは監督や国が悪いわけで。子どもたちを牢屋に入れる必要はないのに、結局そういう犯罪者探しみたいになってしまって……」


――例えばドーピングの場合は、1回やってしまったら何年間出場停止というのがありますよね。年齢詐称の場合はあるんですか?


 「年齢の場合は、この人はこの大会に出られませんというだけで、上のカテゴリーへの出場をダメとは言ってないです。単純にU-16の大会には、骨癒合グレード6の選手は出さないというルールがあるだけです」


――骨癒合グレード6というのは、人種的に変わったりするんですか?


  「以前に行った研究ではアジアも、ヨーロッパも、アフリカも、人種を超えてグレード6は17歳以上である可能性が高いです」


――骨年齢の測り方としては、同じように左手のX線で?


 「MRIを使います。これも左手です。X線は被ばくのリスクがあるということで、できないですね」


――ちなみに、骨年齢を測るのは、MRIでもできるんですか?


 「X線と同じように骨年齢を出すことはできません。でも骨癒合程度であればMRIでも見られます。私も比較したことがあるんですけど、組織分解能はやはりX線の方がいいですね」


――骨年齢を見るにはX線がいいけれど、骨癒合を見るにはMRIがより適しているんですね。


 「MRIでも橈骨の骨癒合、完全癒合か否かは見られます。MRIを導入するにあたって、設備も多くないし金額も高いし、最初は無理じゃないかって話もあったんですけど、結果的には技術的な説明をして、やれる施設を探して協力を求めることで実現できました」


――インタビューは以上です。本日は貴重なお話をありがとうございました。

Michiko DOHI
土肥美智子(日本サッカー協会医学委員会委員/アンチ・ドーピング部会長)

国立スポーツ科学センタースポーツメディカルセンター副主任研究員。医学博士。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。1991年、千葉大学医学部卒業。医師国家試験合格後からスポーツドクターを目指す。放射線診断学専門医として大学病院に勤務するかたわら、スポーツドクターとして主にサッカーの仕事に携わる。2006年より国立スポーツ科学センターに籍を置き、スポーツドクターに専念。トップアスリートの健康管理、臨床研究およびオリンピック、アジア大会、男女サッカーワールドカップ等に帯同。日本オリンピック委員会(JOC)医学サポート部会員、日本サッカー協会(JFA)「医学委員会」委員、アンチ・ドーピング部会長、アジアサッカー連盟(AFC)「医学委員会」副委員長、国際サッカー連盟(FIFA)「医学委員会」委員、国際オリンピック委員会(IOC)「スポーツと活動的社会委員会」委員ほか。

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女性スポーツドクターのパイオニアとしての軌跡

サッカー日本代表帯同ドクター

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Photo: Getty Images

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。

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