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対リバプールの「教材」となるか。知将カルロの周到な王者対策

2019.10.02

日々長足の進歩を遂げるトップ・オブ・トップのフットボール。その進化をより深く理解するには理論を知ると同時に、試合において立ち現れる実践にも目を向けなければならない。

そこで今回は、UEFAチャンピオンズリーグのGS第1節で最大のサプライズ、王者リバプールをナポリが打ち破った一戦のピッチ上ではいったい何が行っていたのか、『ポジショナルプレーのすべて』(小社刊)を上梓した結城康平氏に分析してもらった。

 ユルゲン・クロップが宙を舞った夜、イングランド北西部の港湾都市が歓喜に沸いた。プレミアリーグでも常に立ち塞がるトッテナムを破り、欧州の頂点にたどり着いた彼らは2018-19シーズンの主役となった。ディフェンディングチャンピオンとして「追われる」立場となる今季のUEFAチャンピオンズリーグは、昨シーズンとは質的に異なっているに違いない。

 カルロ・アンチェロッティは経験豊かなイタリア人指揮官の中でも、特に柔軟に現代のフットボール理論を吸収する監督だ。国が変われば、当然求められるフットボールは変わる。それを経験則として理解している男はマウリツィオ・サッリから受け継いだチームを見事に使いこなしながら、さらなる新戦力を追加。相手チームの分析にも長ける知将が導き出したのが、昨シーズンのCLを制したリバプール対策だった。基本的に主軸となるメンバーが変わっていないリバプール相手に、アンチェロッティは周到に準備を重ねていた。

カルロ・アンチェロッティ監督

3トップ対策のビルドアップ

 激しいプレッシングを武器にするリバプールの前線3枚を警戒し、ナポリはビルドアップの局面では「モハメド・サラー側」を狙うという策を選択。サディオ・マネとロベルト・フィルミーノに比べると守備の強度が若干劣るエースのサイドから、徹底してボールを動かしていく。

 ナポリは基本となる4バックから、ビルドアップの中で3バックに変化。左SBのマリオ・ルイが前方のスペースに進出し、サラーの頭上を通すボールを中心にゲームを構築していく。3人でのビルドアップで相手を誘い出し、シンプルに相手のプレッシャーを外していく。そこで鍵になったのが、ファビアン・ルイスの存在だ。

 彼はリバプールの中盤とFWが挟み込んでのボール奪取を狙う「最も狭いエリア」に顔を出し、ショートパスを要求。コスタス・マノラスとカリドゥ・クリバリの両CBが、正確なショートパスを彼の足下に合わせていく。ファビアン・ルイスは基本的には「囮」として機能しており、間のスペースで受けながらシンプルにバックパスすることでマリオ・ルイへのプレッシャーを軽減。ただそれだけではなく、プレッシャーが弱い局面では自らサイドへと展開するなど、リバプールのプレッシングという圧力の中で冷静にプレーを続けた。

 現チェルシーのジョルジーニョのようにゲームを掌握するようなプレーとはまた違うものの、中盤の功労者として両CBとコミュニケーションを取りながらリバプールの勢いを削ぐことに成功。クリバリとマノラスの判断能力も見事で、展開する長いボールと中盤への短いパスを的確に使い分けた。

ファビアンのシンプルなさばきによりリバプールのプレッシングを回避するナポリのビルドアップの図

 前線ではインシーニェが、中盤での激しいプレッシングを外すことを狙って強めのタッチで一気に相手を外すような仕掛けを多用。リバプールはファビーニョが獅子奮迅の活躍でナポリの攻撃を食い止めていたが、機動力のあるアタッカーをそろえたナポリに苦しめられた。

 後半はプレッシングを強めることでGKのメレトがボールに触れる機会を増やし、彼からのボールを回収するという手段を見つけたリバプールだったが、ボールを持たれる時間が予想より長くなってしまったことは否めない。マリオ・ルイが高い位置を取ることの代償として裏のスペースを手放したが、結果的にはアンチェロッティの策が成功したと言えるだろう。

メルテンスをスイッチにした、右サイドの連動

 マリオ・ルイが上がってスペースを狙う左サイドとは異なり、右サイドは攻撃のスイッチとしてドリース・メルテンスが機能。フォーメーションでは2トップの一角となる彼が、右サイドに流れてSBの背後を狙う。ハーフスペースからサイドに流れるメルテンスがロバートソンを足止めすると、ホセ・カジェホンが下がりながら起点に。メルテンスは裏に抜けるだけでなくハーフスペースでボールを受けるなど、元「0トップ」らしい幅広い動きで相手を翻弄した。

 インシーニェが内側に絞ってくるのもポイントで、メルテンスが外に流れても中央に受け手になる選手を確保。俊足のイルビング・ロサーノを封殺するなど、重要な局面を容赦なく潰したファン・ダイクは流石だったが、右サイドは崩しにおけるナポリの生命線となった。カジェホンがPKを誘った場面も、起点となったのはメルテンスのスルーパスだった。2点目のミスも、右サイドを押し込まれた局面から生じている。右サイドからの執拗な仕掛けはロバートソンのオーバーラップを牽制し、リバプールの破壊力を軽減した。

ナポリの右サイドの攻撃メカニズム

「2ボランチの位置調整」と「左右不均等なSB」

 レアル・マドリー時代も同様の「2ボランチ」のバランスを見事に保っていたアンチェロッティは、今回もリバプールの破壊力を受け流すような位置取りにMFを配置した。

 特筆すべきは、「下がって来るフィルミーノ」を捨てたことだろう。同時に、前線の2枚はファビーニョを過剰に警戒していなかった。多くのチームがリバプールの攻撃において起点となるファビーニョを塞ぐことに奔走するが、ナポリは2トップを横に並べてCBにプレッシング。ファビーニョにはボールを持たせる一方で、カウンターを意識させてCBの持ち運びを封じる。

 ファビーニョが比較的プレッシャーの弱い状況でボールを持つと、リバプールはフィルミーノが下がりながら縦パスを引き出そうとする。そこを潰すことに躍起になってしまうと、フィルミーノの視野を活かしたアシストパスが飛び出す。さらに中盤のラインが下がってしまうと、2枚のセントラルMFが前進。エリア付近でセントラルMFが絡む局面を作り出されると、防ぐことは簡単ではない。

 だからこそ、アンチェロティは中盤の浅いラインにセントラルMF2枚をセット。相手のセントラルMFを封じることで、できる限り「中長距離」の縦パスに誘導する。その狙いはリバプールの連続的な攻撃を封じることであり、密集地での戦いを避けることであった。特にアランは高い位置でもボール狩りに参加する強度の高いプレーを連続し、リバプールの中盤を足止めすることに成功した。下がるフィルミーノを常に監視していた守備範囲の広いクリバリの存在も大きく、リバプールは何度か縦パスを躊躇(ちゅうちょ)していた。ナポリの中盤は状況に応じて縦関係になりながら、リバプールの連動に対応していた。

 そのように中盤を経由する手数をかけた崩しを封じられても、リバプールには絶対的な3トップという強みがある。彼らが競り合いにも強いマネを狙ってくることは、アンチェロッティにとっても予想の範疇だった。

昨シーズン、対リバプールにおけるマンチェスター・シティとナポリの類似性を指摘していたツイート

 この試合で右SBに起用されたジョバンニ・ ディ・ロレンツォは 昨シーズンのニコラ・マクシモビッチと同じように、低い位置に下がってCBと連係。マネをターゲットにした長いボールや、裏のスペースへ走るリバプールの狙いを制限する。CBでもプレー可能な26歳は徹底してマネを意識したポジションを取り、マネが中盤まで下がった際はマンツーマンで追いかける場面も目立った。それに加え、マネへの徹底した警戒はカジェホンの位置取りからもわかる。右サイドのアタッカーであったカジェホンは、逆サイドにボールがある際はセントラルMFのような位置でディ・ロレンツォをサポート。ディ・ロレンツォが競り負けてもフォローに入れるポジションで「マネ対策」を完遂した。

 徹底した警戒と緻密な駆け引きで「戦術大国」イタリアのチームらしくリバプール対策を示したナポリを、多くのチームが教材にするだろう。とはいえ、そんな状況でも檻を破ろうかという勢いのあるプレーを見せたリバプールの破壊力は、プレミアリーグ無敗を続けているようにまったく衰えていない。追われる者となったクロップのさらなる策が、どのように「対策」を破っていくだろうか。


Photos: Getty Images

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リバプール戦術

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。