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データとサッカーの“翻訳者”が考える日本サッカーの未来

2019.10.07

2018年5月に創設されたフットボリスタのオンラインサロンフットボリスタ・ラボ」。国外のプロクラブで指導経験を持つコーチに部活動顧問といった指導者から、サッカーを生業にこそしていないものの人一倍の情熱を注いでいる社会人大学生、現役高校生まで、様々なバックグラウンドを持つメンバーたちが日々、サッカーについて学び合い交流を深めている。この連載では、そんなバラエティに富んだラボメンの素顔とラボ内での活動、“革命”の模様を紹介していく。

第6回は、スポーツデータに関連するサービスを提供するデータスタジアム社にてサッカーデータ系メディアの制作やコラム執筆を行っている八反地勇さん。ここ数年急激に進化するJリーグのデータ利用やデータが作る未来のサッカーについて語ってもらった。

音楽系専門学校からデータスタジアムへ


──まずは自己紹介からお願いします。


  「学生の頃はとにかく体育が苦手で。小5くらいから金管バンド、その後中学、高校も吹奏楽をやっていました。それと並行して自分で曲を作りたいと思い、小6くらいからパソコンで作曲もしていて。その後本格的に音楽をしようと思って上京して、音楽学校に入りました」


──なるほど、作曲の流れでソフトに詳しくなっていったんですね。


  「そうですね。そして東京に来たタイミングでサッカーをすごく見るようになって。2002年に音楽学校を卒業した後、データスタジアムがちょうどサッカーの事業を始めるタイミングで試合のデータ入力のアルバイトを募集していたので応募して、そこからサッカーのデータに関わるようになりました」


──もともとデータ分析に興味があったんですか?


 「僕はサッカーを見始めた時から例えばイタリアの『ガゼッタ』紙の採点をひたすら自分でメモするとか、そういうことをやっていたので、記録に残していくのは好きだったんでしょうね。社員になってからは運用の管理やコンテンツの企画がメインになり、運用を効率化させる必要がある中でプログラムを勉強するようになりました。一方で自分自身が考えたものをアウトプットしたくて、そのためにWEBも勉強し始めました。そして2012年にデータスタジアムの運営で『Football LAB』というWEBサイトが開設され、自分がその運営に関わらせてもらうことになり、そこで記事を書いたりデータの分析もやっています」


──そもそもデータスタジアムが『Football LAB』を設立した目的は何だったんですか?


 「サッカーのデータをもっと一般に広めていきたいというのと、あとデータの研究が盛んになり新しい指標やデータの実験をしてそれをアウトプットする場として機能すればという意図もあります」


──コンテンツは記事がメインなんですか?


 「コラムやグラフィックもありますし、Jリーグのチームや選手ごとにデータをグラフなどを用いていろんな見せ方をしているページもありますね。Jチームに対戦シミュレーションをさせることができるページもあります」


──そうしてサッカーのデータに関わるお仕事をされる中で、フットボリスタ・ラボに入った理由は何だったんですか?


 「テクノロジーの発展とともにサッカーのデータが増えてきて、サッカーの知識をもっと深めないといけないという思いが生まれてきました。フットボリスタはいろんなことを深く突き詰めているので、他の雑誌よりもよく読んでいまして、そんな中でオンラインサロンができたと聞いて、正解のないサッカーというものについて、いろんな角度の意見を知りたいと思い、入りました」

Jリーグにも訪れたデータ革命


──今は日本でもサッカーのあらゆる分野でデータが利用されるようになってきていると思うのですが、現場で働かれている八反地さんとしては、最近の変化はどう感じられていますか?


 「メディアの発信内容に関していうと、試合中の速報、試合時間中に出てくる情報はすごく変わりましたね。昔は簡単な得点や交代、警告や退場といったイベントくらいしか流れてきませんでしたが、今はパス数やヒートマップ、タックル数やデュエルなどのデータがリアルタイムで更新されるようになってきました。サッカーはリアルタイムで出せる数値があまりないスポーツだったのですが、近年で中継時のコンテンツが増えたと思います」


──競技側ではどうですか?


 「現場だと昔はデータ自体に抵抗がある人もいて、10年くらい前までは限定的にしか普及していませんでしたが、この10年で急激にデータの利用が増えてきました。今年でいうとJリーグが映像やデータを一元的に管理する『JリーグFUROSHIKI』の構築を始めていて。これによってJリーグでも試合中にチームがリアルタイムで映像を確認できるようになっています」


──日本ではデータ分析のビジネスにおける利用も近年重視されていると思うのですが、八反地さんは、サッカーとビジネス領域のデータアナリストはどのように違うと考えられますか?


 「サッカー自体が曖昧なスポーツなので、単純に数字の大小だけで測れない部分があるというのが一番大きいと思います。なのでビジネス的な視点で統計学を学んできた人にサッカーのデータを渡すと、どうしても単発のアクションの成功可否だけで分析してしまう傾向がありました。実際のサッカーはもっと複雑なので、例えばパスなら、その前のプレーは何だったのか。縦パスを受けてのパスか、自分でボールを運んだ後のパスなのか。さらには得点差や試合の残り時間など、考慮すべき要素はいっぱいある」


──まだうまくデータを活用できないクラブが多い中で、どのような人材が求められているんでしょう?


 「現時点では必ずしも純粋なデータアナリストが求められているわけではないと思います。僕自身の話でいうと、自分はデータアナリストだとは思っていなくて、むしろアナリストの人たちを補助するような役目を担っています。サッカーそのものとデータベースの間に入るような感じで、こういうふうに紐づければこういうことができるよ、というアドバイスをしたりアナリストが使いやすいようなデータフォーマットを用意したりする仕事が最近多いです。そのような“ 翻訳作業”をすることで、大量のデータとアナリスト、そして現場のスタッフが繋がるのだと思います」


──あとは現場のコーチや分析担当にデータに対する知見がある人が入ってくるとまた変わってきますよね。今号で登場していただいたデータスタジアム出身で横浜F・マリノスのアナリストをやっている杉崎健さんもそうですし、筑波大出身の新卒アナリストも増えています。


  「ここ5年くらいでJの現場もすごく進化していますね」


──そこも含め、日本のサッカー界のデータ利用はどのように発展していくべきだと思いますか?


 「まだデータを使った戦術への落とし込みが十分でないと感じています。今はトラッキングデータによって選手のポジショニングもすべてデータ化されて、パスを出した時に相手の選手がどのくらいの距離にいたかも全部わかります。そういうデータを使うことで、これまで主観的に捉えられていたところを、より客観的に把握できるようになっていくと思います」


──スプリント数とかは利用する想像がつきますが、例えば選手間の距離のデータとかはどう指導に生かせばいいんでしょう?


 「そのチームがどういうサッカーをやりたいのかをまず知った上で数字を見ないと意味がないですね。例えば全体のコンパクトさを示す数字自体はすぐ出るのですが、チームにその意図がなければ気にする必要がないデータとなります」


──そのチームのゲームモデルに対してきちんとデータの落とし込みができれば、ということですよね。データサイエンス系の話でいうと、サッカーとAIの今後の進化はどうなっていくと思われます?


 「スポーツ全般に言えますが、画像解析系は研究が進んでいます。サッカーはピッチが広いので大変なのですが、バスケットボールやアイスホッケーなどの屋内のスポーツでは、試合映像から骨格の状況も取得できるようになっていますし、顔の向きといった情報も取れるようになっています。今後のデータの話になると今は『AI』という言葉が盛んに出てきますが、僕は最終的にサッカーというスポーツがどこまで人間性を維持するのかが気になっています。例えば近未来において選手にチップか何かが埋め込まれてリアルタイムに監督の指示通り動けるとなった時に、それはサッカーとして面白いのかどうか。AIが戦術解析をして選手がその通りに動くのが一番勝てるとなった時に、果たしてそれは面白いのか、という疑問があります。なのでサッカーの本質的な面白さを維持しつつ、どこまでテクノロジーを入れるのかには興味があります。サッカーが好きな人って、絶対に自分で考えるのが好きじゃないですか」


──ゲームモデルとかプレー原則の研究が進んでくると、囲碁とか将棋みたいにAIの監督が指揮した方が強いみたいな時代が来るかもしれない。データで判断するAIの監督に選手が「俺はこの試合に懸けてるから出せ!」ってアピールしても通じないじゃないですか。そうなったらキツいですね。


 「僕もキツいと思いますね。サッカーを見なくなりそうな気がします」


──最後に、リーダーを務めてもらっているラボ・データ部の活動も含めて今後の展望を。


  「サッカーのデータってオープンにできる部分がごく一部なので、どうしても扱える人が限られてしまうという課題があります。でも僕としては広くいろんな人の意見を聞きたいと思っており、最近はネットでレビュー記事などを書く人も増えてきていますので、オープンデータの利用や、Football LABでの共同執筆という形を用いて一緒にスキルアップしていき、サッカーのデータの価値を上げられればと考えています。ラボに限らず、データに興味がない人をどう振り向かせるかに今後も挑んでいきたいです。データでできることが多くなってきている中で、もっと広い層の人にデータは必要だとアピールしていければと思っています」


──ぜひその挑戦にラボも活用してください。今日はありがとうございました。

フットボリスタ・ラボとは?

フットボリスタ主催のコミュニティ。目的は2つ。1つは編集部、プロの書き手、読者が垣根なく議論できる「サロン空間を作ること」、もう1つはそこで生まれた知見で「新しい発想のコンテンツを作ること」。日常的な意見交換はもちろん、ゲストを招いてのラボメン限定リアルイベント開催などを通して海外と日本、ネット空間と現場、サッカー村と他分野の専門家――断絶している2つを繋ぐ架け橋を目指しています。

フットボリスタ・ラボ17期生 募集決定!

フットボリスタ・ラボ17期生の募集が決定しました。

募集開始日時: 10月8日(火)12:00 ~(定員到達次第、受付終了)

募集人数:若干名

その他、応募方法やサービス内容など詳細はこちらをご覧ください。皆様のご応募を心よりお待ち致しております。

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戦術文化

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。