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ハーグリーブス、単調で過酷なリハビリを完遂した…はずだった

2019.03.14

「ケガとともに生きた」選手たち#2

3月12日に発売された『月刊フットボリスタ第67号』では「ケガとともに生きる」と題し、アスリートにとって逃れることのできないケガにサッカー界がどう向き合っているのか、不運に見舞われた選手たちの逆境の乗り越え方、人生への向き合い方から、なかなか表に出ないケガの予防、治療、リハビリにまつわる最新事情までを取り上げている。

ただ実は、フットボリスタがこうしてケガについて特集するのは初めてではない。ちょうど10年前の2009年11月5日発売号で、負傷に泣かされた選手たちの状況や当時の最新事情にフォーカスしていた。そこで今回の最新号に合わせて、当時の特集からいくつかの記事をピックアップして掲載する。

#2はオーウェン・ハーグリーブス。“ジャンパー膝”とも呼ばれるしつがい腱炎の、長く辛いリハビリを支えたモチベーションの源、そして……。
2009年11月5日発売『週刊footballista #142』掲載

Owen HARGREAVES
オーウェン・ハーグリーブス|マンチェスター・ユナイテッド

 ハーグリーブスと言えば、一心不乱にボール奪取に走り回り、対戦相手を苦しめる姿が目に浮かぶ。だがその一方で当人は、慢性化した膝のケガ(しつがい腱炎)に苦しみ続けてきたのだった。イングランドきってのボランチは07年7月のマンチェスターU入り以来、1年越しの想いを実らせて加入したクラブで、わずか37試合にしか出場できていない。

■「5度曲げるだけで大きな進歩」

 最新にして過去最悪の故障再発は08年9月のこと。たび重なる戦線離脱に昨冬の移籍市場での放出も噂された中、薬物治療に限界を感じたクラブと本人が膝の世界的な権威である米国人医師リチャード・ステッドマンに診断を仰ぐと、古巣のバイエルン時代から悲鳴を上げてきた両膝には、メスを入れる以外に完治の道はないとの答えが返ってきた。

 当初は今季開幕に間に合うかとの希望もあったが、術後の経過が思わしくなく、練習再開までに丸1年を必要としてしまった。チームの練習場にハーグリーブスが戻って来たのは09年の9月末。長く辛い「空白の1年」を乗り切ることができたのは、そのプレースタイル同様、ひたむきにリハビリへと取り組む姿勢があったからこそだろう。

 08年11月に右膝、09年1月に左膝を手術したハーグリーブスは、アメリカで「朝食→リハビリ→昼食→リハビリ→夕食→就寝」という単調で過酷な生活に耐えてきた。イングランドを離れる際、暇つぶしのために購入した10枚のDVDは一度も見ることがなかったという。それだけ、膝の回復に専念して毎日を過ごしていたのだ。モチベーションの源は、わずかずつだが着実に感じることができたリハビリの成果。本人いわく、「最初は膝を5度ぐらいの角度に曲げられただけでも大きな進歩だった」のである。

■ 復帰に向けて意欲十分

 地道な努力が実を結び、一時は年内の復帰が絶望視されたハーグリーブスは現在、今月中の公式戦復帰に向けてチームメイトと汗を流している。「すべては順調だ」と語るファーガソン監督は、丸1年以上実戦から遠ざかっていても「複数ポジションをこなせる上にプレースキックの精度も抜群」と期待を寄せずにはいられないMFを、あえてCLグループステージの登録メンバーに含めている。

 クラブ公式サイト向けのインタビューで、「復帰初戦は興奮し過ぎて入場する前に気絶してしまうかも」と、冗談交じりに再出発への意欲を口にしたハーグリーブス。攻守にエネルギッシュな背番号4の熱いプレーが再びマンUファンを興奮させる日は、もう、すぐそこまで来ている。

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この記事が書かれた時はカムバック間近と見られていたハーグリーブスだったが、再びトラブルに見舞われ離脱。半年後の10年5月、サンダーランド戦のアディショナルタイムに交代出場し念願の復帰を果たすも、負傷禍は続く。再復帰戦となったのは同年11月のウォルバーハンプトン戦。08年以来の先発となったのだが……わずか10分で左太腿を痛め無念の交代(写真)。再々復帰の時は訪れず、“マンチェスターUのハーグリーブス”の物語は39試合で幕を閉じた
翌11-12シーズン、夏の移籍期限終了間際にマンチェスターCへ加入。デビュー戦となったリーグカップのバーミンガム戦ではゴールをマーク(写真)し喝采を浴びた。最終的に4試合に出場したこのシーズンを最後に現役引退
現在は『BTスポーツ』などでサッカー解説者を務めているハーグリーブス。まだ38歳、ケガがなければ現役を続けていてもおかしくない年齢ではあるが、ステージを変え輝きを放っている

Photos: Getty Images

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オーウェン・ハーグリーブスケガ

Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。在住も20年を超えた西ロンドンが第二の故郷。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』『ペップ・シティ』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。