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東京Vへ個人昇格した吉田泰授は寵愛を授かる“弟キャラ”。山形番記者も待ちわびるプロ初アシストの瞬間

2025.08.28

8月20日に幕を閉じたJリーグの夏の移籍市場(第2登録期間)。そのデッドラインデーに駆け込みでモンテディオ山形から東京ヴェルディへの完全移籍が発表されたのが、プロ3年目を戦っていた吉田泰授だ。特別指定選手時代も含めて山形で愛された“弟キャラ”の旅立ちを惜しむとともに、個人昇格へのエールを同クラブ番記者の佐藤円氏に綴ってもらった。

 人名では珍しい “授”の字には、ようやく授かったという親の思いが込められているという。その後はひとりっ子の母子家庭で育ったが、寂しがり屋だという母親からは、いまだに事あるごとに電話がかかってくるという距離の近さだ。

 「仲のよさは友達感覚です。自分の友達とも友達感覚で接したりしてる親なので」

 そんな母親の愛情をたっぷり受けて育った吉田泰授は、人と接する際にも、なんとも言えない人懐っこさを発揮する。初対面ではやや構えてしまうそうだが、ひとたび心を許せば垣根をつくらず、ちょっぴり舌足らずな話し方とほんわかした空気で相手を包み込んでしまう。モンテディオ山形で年上の選手やサポーターを相手に、抜群の “弟キャラ”でかわいがられてきた。

Photo: ©MONTEDIO YAMAGATA

あの再開試合での“やらかし”を自虐に挽回を誓う素直さ

 2023年1月9日、モンテディオ山形のキックオフイベントが開催された。様々行われたコーナーの中には新加入記者会見(新加入選手紹介)もあり、吉田を含む新戦力はステージ上でメディアの質問を受けていた。「山形につながりのある選手はいるか?」との質問に、吉田は山形のアカデミーで育ち、当時山形でプレーしていた1学年下の選手の名前を挙げた。

 「半田陸(現ガンバ大阪)とは試合でマッチアップして潰されてました」

 自虐ネタで会場の笑いを誘った。

 自虐ネタはこれだけではなかった。これに先立つ自己紹介では、「自分のプレーの特徴は、強引にでも縦に仕掛けてクロスを上げ切るところです」と自身のプレーをアピールした後、「去年のデビュー戦でのやらかしを挽回できるように、今年は頑張っていきます!」と話し、こちらも会場全体の緊張感を和らげるのにひと役買っていた。

 吉田はその前のシーズン、山梨学院大学に在学中、1試合ではあるが特別指定選手としてすでに山形デビューを飾っていた。「やらかし」はその試合で起きた。

 夏の終わり、8月31日にホームで行われたJ2第8節・ファジアーノ岡山戦。すでに4月に90分を戦い終えていたが、その中で審判のルール適用ミスがあったと認定され、適用ミスが発生した11分から再開試合として行われることが決まった。しかし、双方にわだかまりを生んだ再開試合が4カ月の時を経ていよいよ行われるという頃、折悪しく山形のチーム内で感染症が流行っていた。試合当日、ベンチのピーター・クラモフスキー監督は不在で、急遽、佐藤尽コーチが指揮を執ることになり、主力の多くも欠場するスクランブル状態。既存の選手だけでは18人の登録メンバーが埋まらないこともあり、7月に来季内定が決まり、特別指定選手となっていた吉田もベンチ入りすることになった。

……

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J2リーグJリーグイサカ・ゼインキャリアケガモンテディオ山形吉田泰授東京ヴェルディ移籍

Profile

佐藤 円

1968年、山形県鶴岡市生まれ。山形のタウン情報誌編集部に在籍中の95年、旧JFLのNEC山形を初取材。その後、チームはモンテディオ山形に改称し、法人設立、J2参入、2度のJ1昇格J2降格と歴史を重ねていくが、その様子を一歩引いたり、踏み込んだりしながら取材を続けている。公式戦のスタジアムより練習場のほうが好きかも。現在はエルゴラッソ山形担当。タグマ「Dio-maga(ディオマガ)」、「月刊山形ZERO☆23」等でも執筆中。

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