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サッカーにおける「集中力」とは?イングランドで進む心理学指導

2019.03.11

近年、イングランドサッカー協会(FA)が心理学に注目していることをご存知だろうか。

昨年のロシアワールドカップで、イングランド代表は初めて心理学者のピッパ・グレインジ氏をチームに帯同させた。その効果はてきめんだったようだ。選手間で個人的な話をさせることで、試合中の意思疎通を活性化。また、イングランドにとって鬼門だったPK戦のメンバー選択にも一役買ったという。実際、デレ・アリは彼女を「素晴らしい人物」と手放しで称賛している。

そのFAでは数年前から、サッカーの指導における心理学を学ぶ「サイコロジーライセンス」という指導者向けライセンス講習が始まっている。今回は、イングランドのセミプロチームで指導者をしており、このサイコロジーライセンスを5段階中のレベル4まで取得した塚本修太さん@shuta1342)にインタビュー。講習で学んだ内容の中から、「集中力」に関する興味深い話について語ってもらった。

集中力には4つある

人間は4つの集中力を、同時にフル稼働することはできません


――本日はよろしくお願いします。さっそくですが、まずは自己紹介をお願いします。

 「よろしくお願いします。塚本修太と申します。高校時代に前橋育英高校サッカー部でプレーしたあと、イングランドに渡ってサウサンプトンにあるソレント大学に入学しました。大学ではサッカー学を専攻しています。大学と並行して、現在はバッシュリーFCという9部(セミプロ)のクラブのトップチームコーチと、ノンリーグジェムズという5部のクラブのスカウトを兼務しています」


――大学で学びながら、イングランドのセミプロのトップチームで指導もしているなんてすごいですよね。そのあたりのお話については、私が運営している「プレミアパブ」の記事で聞いているので、気になった方は読んでみてください(笑)。ということで今回の本題、心理学のお話に移りましょう。塚本さんが心理学を学ぼうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

 「心理学については、大学で少し学んで興味を持っていたんです。そこでFAのライセンス講習があると知り、積極的に受講することにしました」


――講習の内容はどういったものになるんでしょうか?

 「最初の方は座学が多かったんですが、レベルが上がるにつれて実践も多くなっていきます。実際、レベル4の講習では実践形式のテストがあります。その日初めて対面するチームに英語で指導を行い、心理学の面で正しいアプローチができていないと不合格になります」


――より詳しい中身も気になるところですがそれはまたの機会にして、ここからは事前にお話させていただいていた「集中力」について聞かせてください。

 「集中力の話ですが、FAのサイコロジーライセンスでは『サッカーにおける心理学とは5つのCに分解できる』と定義していています。「Commitment(貢献)」「Communication(対話、コミュニケーション)」「Confidence(自信)」「Control(抑制・制御)」、そして「Concentration(集中)」です。集中力というのは言わずもがな、サッカーにおいて非常に重要な要素を占めていますよね。

 なぜ集中力にフォーカスするのかというと、昨今、サッカーにおける『判断力』の重要性が広く叫ばれていますが、その判断力のメカニズムについて心理学の『集中力』という観点で分析が可能だからです」


――確かに、判断ミスの原因は集中力の欠如だ、というのはよく耳にします。

 「そうですね。逆に言うと、集中力を多面的にトレーニングすることで、判断力を向上させることができます。

 そもそも、集中力とは『今やらなくてはいけないことに対して、どれだけ焦点を当てることを維持できるか』とFAは定義しています」


――なるほど。

 「なおかつ、『狭い外的集中力』『広い外的集中力』『狭い内的集中力』『広い内的集中力』に4分割できるとされています」


――それぞれ、どういったものを指すのでしょうか。定義を教えてください。

 「『狭い外的集中力』とは、自分以外の特定の何かに意識があることです。サッカーで言えば、ボールの回転や特定の味方選手や相手選手などがその典型です。他にも、守備の際に相手の視線を観察するなども、狭い外的集中力が働いている状態と言えるでしょう。主にボールをカットする際など、1対1のプレーに必要だとされています。

 『広い外的集中力』とは、自分以外のところに広い意識があること。例えば首振りで視野を確保したとしても、どこに誰がいるかを把握できない選手は一定数います。一方で広い外的集中力が優れている選手は、視野を確保した際に複数の箇所に焦点を当てることができて、情報を把握することができます。

 話がそれますが以前、2014年に放映されたNHKスペシャル『ミラクルボディ』という番組で当時バルセロナのシャビが、机の上にアルファベットとともにランダムに並べられた1~16の数字を、1から順に選んで16までできるだけ早く見つけるというテストを行いました。このテスト、一般人の平均は30秒なのですが、彼は13秒だったそうです。これも『広い外的集中力』の高さを象徴するエピソードですね」

「まるでピッチを俯瞰しているかのよう」と称される驚異的な視野の広さを誇ったシャビ。その的確な状況把握力は「広い外的集中力」の高さによるものだと塚本さん(Photo: Getty Images)


――シャビの視野の広さは「広い外的集中力」の高さに起因していたという解釈なんですね。

 「はい、おっしゃる通りです。次に『狭い内的集中力』ですね。日本で一般的に言われる『集中力』に近いのはこれかもしれません。自分自身に焦点を当てて、対話する力です。セットプレー時にキッカーがボールのタッチを確認しながら普段のキック感覚を思い出す作業などはここに入ります。実生活で言うと、いわゆる勉強、暗記などは狭い内的集中力が高くないとできません」


――なるほど、僕は苦手かもしれません。勉強苦手ですし……。

 「僕もです(笑)。

 最後に『広い内的集中力』とは、自分の中でどれだけ『意識の範囲』を広げられるかです。例えば、広い外的集中力で相手の動きを把握します。その後、自身のポジショニング変更に関しては『広い内的集中力』によって精度が変わります」


「集中力」の高い選手、低い選手

ジョルジーニョの「広い集中力」はずば抜けている


――具体的に精度の高い選手を挙げると誰になりますか?

「チェルシーのジョルジーニョは非常に高い集中力を持っていますね。特に、広い外的集中力と広い内的集中力はずば抜けています」

塚本さんが集中力の高い選手として挙げたジョルジーニョ(Photo: Getty Images)

ジョルジーニョのプレーを見るなら


――確かに、ジョルジーニョは非常に判断能力の高い選手ですが、それは集中力が高いからなんですね。

 「そうです。広い外的と広い内的集中力がずば抜けているうえに、集中力の切り替えがとてつもなく速いのも特徴です」


――「集中力の切り替え」というのはどういったことを指すのでしょうか?

 「基本的に、人間はここまで説明してきた4つの集中力を、同時にフル稼働することはできません。ですから、連続的に各集中力を切り替えながら思考を行っているんです」


――「集中力の切り替え」について、プレミアリーグ第12節エバートン戦でのプレーを例に説明してもらえますか? スコアレスドローに終わったこの試合、チェルシーが無得点で終わったのは起点であるジョルジーニョがエバートンのリシャルリソンとギルフィ・シグルズソンの徹底マークにあって苦しみ、攻撃に変化を出せなかったというのが大方の見方でした。

 「確かに、この試合でのジョルジーニョは普段と同じパフォーマンスは発揮できていませんでした。それでも、随所に彼の能力の高さはうかがえました。

 例えば、なんでもない場面に見える前半8分53秒です。ここではアンドレ・ゴメスが左サイドのペナルティボックス角で前を向いてボールを持ちました。その瞬間、10mほど前方に位置するシグルズソンと、同様の距離感で中央にいるセオ・ウォルコットがフリーの状態でした。するとジョルジーニョは広い外的集中力を駆使してピッチ全体を把握し、広い内的集中力で「シグルズソンが危険」と判断してマークに向かいます。それを察知したA.ゴメスはシグルズソンではなく中にいるウォルコットに強いパスを送ると、それを受けたウォルコットが中にトラップしてドリブルで前に運びます。そのシーンでマークに行くべきなのはマテオ・コバチッチなのですが若干遅れ気味です。

 ジョルジーニョはその状況を広い外的集中力で察知すると、サイドに開いて抜け出そうとするシグルズソンよりもウォルコットが危険と広い外的集中力で判断。狭い外的集中力に切り替えてウォルコットにタックルします。ボール奪取に成功するとまた広い外的集中力で全体感をつかんで、広い内的集中力で最も違いを作れると判断したエデン・アザールに縦パスを送りました。

 ここまでのプレーはおよそ5秒間でしたが、ジョルジーニョはこの間に何度も集中力のエリアを切り替えており、その切り替えのスピードも彼の魅力です」


――確かに、この速いスピードでコロコロと脳を切り替え続けるのは至難の業ですよね……。逆に、そういうプレー、集中力の切り替えが苦手な選手はチェルシーにいますか?

 「ダビド・ルイスはその典型かなと思います。

 同じ試合の58分43秒、エバートンのマイケル・キーンが縦パスを送り、チェルシーから見て左サイドにいるシグルズソンが抜け出したシーンです。すでにマルコス・アロンソが裏を取られており、D.ルイスがカバーに行く必要があるのですが気づいていません。ずっと狭い外的集中力でボールを見ている状態ですね。

 本来、状況に応じて集中力を切り替える必要があるのですが、D.ルイスは守備の場面で集中力を切り替える術を見につけていないので、こういう状況が起こります。

 最終的に逆サイドのCBのアントニオ・リュディガーが左サイドまでカバー。連動して右SBセサル・アスピリクエタが自分のサイドを捨ててより危険な中央に絞った段階で、ようやくD.ルイスも外的集中力が働き状況に気づくんですが、時すでに遅しです。左サイドの大外にいるフリーのベルナールにパスが渡りピンチの場面になりました。

 D.ルイスはこの場面に限らず、守備の場面では集中力の切り替えが遅いですね。なので1試合の中でパフォーマンスにムラが出てしまいます」


――なるほど。では、こういう選手に集中力を切り替えさせる、その速度を上げるにはどうしたらいいものでしょうか?

 「ジョルジーニョのように状況に応じてというのは難しいと思うので、集中力の切り替えのトリガーの共有でしょうか。例えば相手のCBがロングボールを蹴ろうとしている瞬間は集中力を切り替えるよう意識づけるとか、あるいはピンチの一歩手前の場面でスペースを意識させる、などでしょうか」


――マウリツィオ・サッリ監督のサッカーだと、攻撃面の練習に時間を割くことも多いでしょうしそこまで手は回らないかもしれません。

 「そうだと思います。日々のトレーニングで地道に改善するしかないですね」

――なんにせよ、試合や選手を分析するうえでこの「集中力」という観点に着目すると、また違った見え方がするかもしれません。本日は勉強になる話をありがとうございました。

「こちらこそ、ありがとうございました」

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イングランド代表メンタル心理学

Profile

内藤 秀明

1990年生まれ。大阪府箕面市出身。大学時代に1年間イギリスに留学し、FAコーチングライセンスを取得。現在はプレミアリーグを語るコミュニティ「プレミアパブ」代表としてイベントの企画運営や司会をしつつ、マンチェスターユナイテッド・サポーターズクラブジャパン会長としても活動。2019年1月に初の著書『ようこそ!プレミアパブ』上梓。Twitterアカウント:@nikutohide ウェブサイト:https://premierleaguepub.jp/