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プリシッチ。アメリカサッカーの未来を背負う「剛」のドリブラー

2018.12.28

母国産スーパースターが不在だったアメリカ待望のワールドクラス候補生。その剛直にして果敢なドリブル突破が試合の局面を、そしてアメリカサッカーの未来を切り拓く。

 エンターテインメントとしてスポーツを満喫する文化が浸透する自由の国アメリカで、“サッカー”は着実に人気を集めつつある。そんな大国全土の期待を一身に集める青年がクリスティアン・プリシッチだ。「アメリカ初のワールドクラスになれる逸材」と言われる男は、クロアチアとの二重国籍を持っていることもあり、若くしてヨーロッパの育成環境に身を投じる。その後、若手の育成に定評のあるドイツの名門ドルトムントのアカデミーに加入。現在はトップチームに昇格し、ブンデスリーガを舞台に腕を磨いている。双肩に背負う大陸の期待を自覚しながら、若きエースは覚醒の時を待っている。

 「アメリカのメッシ」と称される天才肌の若手ドリブラー、という評判からイメージされるのは、様々なフェイントを使いこなす「柔」のドリブラーかもしれない。しかし、実際の彼はと言うと「剛」のドリブラーだ。足裏を使った狭いスペースの突破やトリッキーなフェイクも状況に応じて使うことはあるが、主軸となる武器は爆発的なスプリント。背筋の伸びた体勢から相手を振り切る姿は、カカーやデ・ブルイネを思い起こさせる。

 加えて、アウトフロントで“押し出す”ボールタッチもストロングポイントの一つ。重心の真下に置いたボールを身体とともに持ち出すタッチによって、スプリントを破壊力抜群のドリブルに昇華させる。普通のドリブラーであれば、ボールが身体から離れる仕掛けの場面でも体軸から離れないので、守備側は飛び込むタイミングを判断することができない。実際、プリシッチと対面するディフェンダーは仕掛けのタイミングに立ち遅れることが多い。キックフェイントを挟みながら前に持ち出すだけでも、止めるのは困難だ。本人は「(チームメイトの)ロイスをお手本にしている」と語っているようだが、ロイスとは特性の異なるアタッカーに成長していくのではないだろうか。

 姿勢の良さは、周りを使うプレーにも繋がる。ドリブラーでありながら、利他的なプレーも苦にしないプリシッチは、コンビネーションで相手を崩すドルトムントに最適。シンプルなパスが必要であれば、柔軟に周りを使う。またドリブルを、抜くのではなくパスコースを生み出す目的で使うことも多い。特にサイドエリアでは、コースを生み出すことでアシストパスに繋げる狙いがうかがえる動きが少なくない。さらには、視野が保てていることからゴール前でのシュートセレクションも悪くない。

 シュートパターンの増加、特に中距離からのシュートには向上の余地もあるが、10代の頃から欧州のビッグクラブで練習に参加し、磨かれた判断力はトップクラスでも通用する。ボールを持ち上がるスキルや視野の広さを考えれば、当然中央での起用も考えられる。


20歳とは思えぬ聡明さ

 プリシッチの精神的な強さと落ち着きは、20歳の選手としては図抜けている。インドアサッカー選手の父から様々なことを学んできた青年は、達観したような物言いで周囲を驚かせることもある。「16歳から18歳の時期は、育成において絶対的に重要だ」と語る20歳は、世界中を見渡しても希少なのではないか。自らの成長への徹底したこだわりと、明確なプロセスを描く聡明さは、コパ・トロフィーにノミネートされた10人の中でも別格だ。

 2018年、W杯優勝を成し遂げた同い年のキリアン・ムバッペは「ワンダーボーイ」と呼ぶべき活躍を見せた。タレントぞろいのフランス代表では、多くの経験豊富な選手がムバッペをサポートした。対照的に、プリシッチは「母国のW杯予選敗退」という屈辱を背負うこととなってしまった。「素晴らしい夏を経験させてあげられなかったことを、申し訳なく思っている」と語る青年は、過渡期にあったアメリカ代表のエースという重責を担っていかなければならない。少し運命が変わればチームを牽引していたかもしれないアルティドールは、期待されていた結果を欧州で残すことはできなかった。

 メッシやロナウドでさえ、10代の頃から国民の期待を背負ってはいなかった。普通の選手であれば壊れてもおかしくないようなプレッシャーにさらされながら、それを成長の糧にする。プリシッチには、そんな底知れなさがある。この男がアメリカを導き、大陸のサッカーが1つ上のステージに進む――そんな予感がしているのは、筆者だけだろうか。

■Profile
生年月日:1998.9.18(20歳)
国籍:アメリカ
出身地:ハーシー
身長/体重:173cm|65kg
ポジション:MF
背番号:22
クラブ経歴:ブラックリー(05-06)▶ミシガン・ラッシュ(06-07)▶ペンシルバニア・クラシックス(08-15)▶ドルトムント(15-)
トップ初出場:2016年1月
17-18公式戦:42試合5得点
18-19公式戦:18試合3得点

■Keywords
とにかく謙虚
日本的に言えば9月に成人したばかり。若さに似つかわしくない落ち着きと謙虚な態度、客観的自己評価が成長を支えている
でも、勝負事では譲れな
「たとえテレビゲームであっても負けたくない」と語るように、勝負となるとピッチ外でも負けず嫌いな一面が顔をのぞかせる
海外生活もへっちゃら
長い海外暮らしで適応力は抜群。流暢なドイツ語を使いこなし、休日は手作りのタコスをチームメイトに振る舞っているそう
恋人はフットボール…
昨年、父親が「息子には、真剣に交際している相手はいないようだ」と発言。今は一心不乱にフットボールに打ち込んでいる
大の愛犬家
昨年のクリスマスは、SNSでの「誰か彼とワシントンに来てくれないかな」という投稿を見たファンが連れてきた愛犬と満喫

Photos: Getty Images

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アメリカ代表クリスティアン・プリシッチドルトムント

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。