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現役Jリーガー林陵平が語る、サッカー最先端戦術トレンド

2018.10.09

「フットボリスタ・ラボ」林陵平選手トークイベントレポート 前編


去る9月上旬、「フットボリスタ・ラボ」で開催したイベントに、現役Jリーガーの林陵平選手が登場。本誌に掲載したインタビューで本人いわく「JリーグNo.1の海外サッカーマニア」に違わぬマニアっぷりを披露してくれた林選手が、ポジショナルプレーにはじまり今季の欧州サッカー注目クラブ&選手、そして参加者の疑問・質問にたっぷりと答えてくれた。今回は、そんなイベントの模様を3回に分けてレポート。前編は、林選手自身が現在進行形で実践している注目の戦術用語ポジショナルプレーをはじめ、選手視点で見るサッカーの最先端トレンドについて。


練習の中で、監督やコーチはポジショナルプレーとかそういう言葉はほぼ口にしない


浅野
「『フットボリスタ』の浅野です。今日はよろしくお願いします。では、林選手、自己紹介をよろしくお願いします」


林 
「こんばんは、みなさん。今日はわざわざ集まっていただいてありがとうございます。せっかくの機会なので、参加してくれた人のためにタメになる話ができたらと思っています。ぜひよろしくお願いします。東京ヴェルディの林陵平です」


浅野
「本日は大きく分けて『林選手が考えるポジショナルプレーとは』と『18-19シーズン欧州サッカーの注目クラブと選手』、そして最後に質疑応答という流れで進めていければと思います。

 ではさっそく、一つ目の『林選手が考えるポジショナルプレーとは』からいきましょう。以前に『個人戦術とは何か?』特集の号で林選手にお話を聞かせてもらって、これが最初に『フットボリスタ』に林選手のインタビューを掲載したタイミングでした。もともとTwitterでロティーナ監督のポジショナルプレーが面白いという投稿をされていて、選手がポジショナルプレーって言葉を使うこと自体が珍しかったので、面白いなと思い一度お話を聞いてみたいなということで実現したインタビューだったんです。振り返りにはなってしまいますが、選手が考えるポジショナルプレーについてのお話からお願いします」


林 
「ポジショナルプレーというのは、概念ということで方法論の一つだと思うんです。いろんなサッカーがあって、その中でポジショナルプレーは、ヴェルディでやっていて感じるのが『自分のポジションを守る』ということ。自分の決められたスペースを守ることが大事です。ただ守ることも大事なんですけど、正しいポジションをしっかり取ることも大事。正しいポジションを取ることによって、味方を信じていればボールから寄ってくる。だから、自分は正しいポジションを取っておく。ポジショナルプレーには数的優位と位置的優位、質的優位がありますが、中でも位置的優位がポジショナルプレーについては大事な部分かなと思います」


浅野
「そのあたりを選手で語る人ってなかなかいないと思うんです。林選手はどこでそういったことを学んでいるのでしょうか?」


林 
「ポジショナルプレーとか5レーンとかそういう言葉は、シンプルに自分がネットとかSNSとかで情報をインプットしている部分もありますし、このモダンサッカーの教科書(小社刊)を読んで(学んだ)という部分もあります」


浅野
「ありがとうございます(笑)」


林 
「練習の中で、監督やコーチはポジショナルプレーとかそういう言葉はほぼ口にしないんですよ、実際は。だけど、選手に教え込むのがうまいなとすごく感じますね」


浅野
「よくネットなどでポジショナルプレーだとか、5レーン理論だとか、ここ2、3年で目にする機会が増えたように感じています。『フットボリスタ』で取り上げ始めたのも多少影響しているのかなというのもあるんですが、ただJの現場や選手に、そのあたりの知識ってどの程度浸透しているのか興味があります。そういう言葉を知っているのが必ずしもいいこととは限りませんが」


林 
「いや、意外とみんな知らないですよ。知らないですし、海外サッカーを見る人自体も少ないかなというのは感じます。そういう部分でも選手も成長していかないといけないし、やっぱり、サッカー選手だからサッカーだけやっておけばいいというわけじゃないと思いますしね。自分が成長するためにも、サッカーを見ることは、僕の中ではすごく大事なことです」


浅野
「それに関しては、以前お話を聞かせていただいた時も驚かされたのですが、すごくマニアックに海外サッカーをチェックされているんですよね。チームメイトからはどう見られているんですか?」


林 
「チームメイトからも引かれてます(笑)」


浅野
「引かれてるんですか(笑)」


林 
「引かれるというかもう、海外サッカーについては全部僕に聞いてくれって言ってますからね。それで答えると『お前ヤベーな』って(笑)」


浅野
「いきなりウディネーゼとかアタランタの話から入りますからね」


林 
「まず『そのチームどこだよ』って言われます」


浅野
「なかなか見る時間がないのではとも思いますが、海外サッカーを見ること自体が自分のサッカーの勉強になるところもあるんでしょうか?」


林 
「僕自身はあると思いますね。やっぱり、サッカーを知ることができる。今のサッカーってシステムが決まってないので、[4-4-2]だったり[4-3-3]だったり[3-4-2-1]だったり、それぞれのポジショニングの部分を見ることができますし、ただ単に個人の部分で選手のうまさとか、勉強になることがたくさんあります」


浅野
「なるほど。前回インタビューしたのは(Jリーグの)プレシーズンで半年ほど前でしたが、今回あらためて林さんに聞いてみたいなと思ったことが一つあるんです。前回、ポジショナルプレーだったり5レーン理論ハーフスペースだったりって監督とかコーチが知ってさえいれば、選手は基本知らなくてもいいかなという話をしましたよね。その時は僕もそう思っていたんです。監督が伝える時、選手にわかるように噛み砕いて伝えればいいかなと。

 ただあの後、ナーゲルスマンが週1回、自主参加なんですけど選手に戦術講義を開いているということを知ったんです。たぶん認知の問題なのかなと思っていて、戦術的な知識があった方が、ピッチ上で早く状況を理解できて判断が早くなる。認知にこだわっているナーゲルスマンのような監督が、そういった取り組みをしているのが面白いなと。実際に選手がピッチ上で判断する上で、こういう知識が役に立つのかどうか。ピッチ上の感覚を知っている人じゃないと何とも言えないところがあるので、ぜひ林選手に聞いてみたかったんです」

独自のトレーニングメソッドを駆使することで知られるホッフェンハイムのユリアン・ナーゲルスマン監督


林 
「そうですね。役に立つ部分はありますけど、やっぱり監督やコーチが何を求めているか、自分のポジションに求められているタスクを理解することが大事です。ただ、それにはある程度戦術的な理解がないといけないので、監督やコーチと同等とまではいかないにしても(戦術理解が)一定の水準に達していないと試合に出られないという側面はあると思います」


浅野
「なるほど。僕自身、『モダンサッカーの教科書』を編集する中で先ほど話したような考えになっていったところもあります。

 例えば、前からプレスをかけに行く時、以前は相手が前線に1枚残しているか2枚残しているかに合わせてそれより1人多く、つまり相手が1枚なら2人、2枚なら3人余らせておくのが普通でした。ただ最近は後ろを数的同数にして、前から数を合わせちゃってプレスに行くやり方が出てきている。

 このメカニズムがわかっていれば後ろが同数なのか、1枚余らせているのかをピッチ上で相手を含めた状況を認知できて、いち早く判断できたりするのかなと(書籍を)作りながら思ったんです。監督のやり方ありきではあるんですけど、机上の知識も馬鹿にできないところがあるのかなと」


林 
「そういう部分は、監督が選手にわからせるというか、練習の中で(相手が)どう来るかというのをある程度選手の頭に入れておいて、こうなった時はこうするべきだよっていうのを選手にある程度示してくれる感じですね」


浅野
「なるほど、トレーニングなどで」


林 
「トレーニングの時から、相手がこう来るからこういうふうにするべきだよっていうヒントを与えてくれるので助かります。逆に言うと、(そういった指導が)できる監督とかコーチというのは、今まだ日本に少ないのかもしれません」


浅野
「結局、自分たちの出方だけじゃなくて、相手がどうくるかってところも大きいですからね」


林 
「それはグアルディオラも言っていますしヴェルディでもそうなんですけど、やっぱりいくら自分たちのサッカーって言っても相手があることなので。相手が前線からプレスかけてくるのか、リトリートするのか、前から2枚で来るのか、3枚で追いかけてくるのかっていう部分での引き出しというか、そういうことをわかった上で自分たちがどうプレーするのかっていうのが、今のサッカーではすごく重要だと感じます」


浅野
「やっぱり、相手に対してどう対応するのかってことで言うと毎週末対戦相手が変わるわけなので、その都度練習していくのが基本でしょうか?」


林 
「そうですね。シーズンが始まった当初はキャンプの中でプレーモデルとか、プレー原則というのを自分たちの中に植え付ける部分が多かったんですけど、開幕して1週間に1回試合がある中では相手がどう出てくるか、それ用の対策やプランを練る練習がすごく多くなっています」


浅野
「なるほど。これは本人が目の前にいるから言うわけじゃないんですけど、林選手のインタビューはかなり反響があったんです。選手がこういった話をすること自体が珍しいのに加えて、林選手の言語化能力がすごいという感想が多くて。それでちょっと本人にお聞きしたいんですが、言語化に関して林選手自身が意識していることはあるんですか?」


林 
「意識というか、勉強はしますよね。ただそれ以外にも『フットボリスタ』とか『モダンサッカーの教科書』とか、そういうサッカーの本をたくさん読むのでそれがすごく勉強になっていますし、何回も読むことで自分の頭の中に入ってくるというのもあります」


浅野
「それがピッチ上の、例えばご自身のプレーに反映される瞬間はあるんでしょうか? なかなか自分で言うのは難しいかもしれませんが」


林 
「どうですかね。自分の中では『ああ、こういうことをしているんだな』とかプレーの中で感じますけど、それはもうチームとして共有していることなので。僕がここで受けたら相手が嫌がるなとか、自分の中でそういったことを感じながらやってはいますけどね」


机上の戦術を語るのは簡単。その戦術をチームに落とし込むっていうのはすごく大変


浅野
「次は逆の視点からの質問になるんですが、最近WEBを中心に戦術論的な記事が増えている印象があります。その中にここは面白いなって視点もあると思うんですけど、逆にこれはちょっと違うんじゃないかというものも、プレーヤー側からするとあると思うんです。面白いものとそうでないものの違いを説明してもらうことはできますか?」


林 
「机上の戦術を語るのは簡単なんです。ですけど、まずその戦術をチームに落とし込むっていうのはすごく大変なんだってことは感じてほしいなというのはありますね」


浅野
「もちろん、それは絶対にそうだと思います。具体的にどういうところが大変ですか? 理論と実践の間にあるギャップについてですけど」


林 
「それは僕自身、やっててすごく難しいなというか、ヴェルディでやっているようなサッカーをチームに落とし込むってどういうふうにやればいいかなって、やりながらすごく感じる部分でもあります。ポジショナルプレーっていってもどういう練習をすればできるのかなっていうのはありますし。でも、今僕は実際に練習でそういうサッカーの取り組み方について感じられている部分がたくさんあるので、それは自分の財産になっています。ただ、やっぱり時間がかかるなというのは感じます」


浅野
「それは、(林選手が今取り組んでいるのは)高度なサッカーということなんでしょうか?」


林 
「高度だと思いますよ。高度だしすぐ、2、3カ月でできるってわけではないので。ポジショナルプレーに対して、こういう戦術が出てきていることはみんな気にはなっているし、やりたいとは思っていても、実際に採用しているチームって少ないじゃないですか」


浅野
「特に日本ではそうですよね」


林 
「ですよね。どう教えればいいのかわからないって人もいると思うし、それで勝つのはもちろん、ボールを繋いでゴールまで行くっていうのも難しいところはあると思います。相手のプレッシャーラインを越えて行くために、どういうポジション取りをしていけばいいかとかそういった部分から入らなければいけないので。ただ後ろからボールをバーンって蹴って、こぼれ球拾って、というサッカーではないですから。難しい部分はありますよね」


浅野
「W杯が終わってよく言われることとして、日本人とポジショナルプレーの相性という話があります。日本人でサッカーをやると、ボールに人が寄り過ぎてしまってポジションバランスが崩れる。ただそれは悪いことだけではなくて、狭いエリアをコンビネーションで崩していく、みたいな日本サッカー独特の良さもあって。一方で、ボールを奪われた後にポジションバランスが悪いのでカウンターを食らうと脆い、といった議論です」


林 
「そのあたりはやり方じゃないですか。ポジショナルプレーって攻撃だけじゃなくて、守備もポジショナルプレーですよね。攻撃で奪われた時に取り返せるような陣形を取れていることが大事で、攻撃だけ、守備だけって分かれるものではない。そこが一体となってできれば、攻撃で取られたとしてもすぐ奪い返せるような陣形ではあると思うんです」


浅野
「それこそ、アトレティコ・マドリーとかRBライプツィヒとか、あえて狭いエリアでサッカーを完結させてしまうゲームモデルもありますしね。奪われた後のデザインができていれば大丈夫というのは、確かにそうなのかもしれないですね」


林 
「そうですね。そこは切り離してはいけない部分だと思いますし」


浅野
「日本人選手ってボールに寄りがちって言われますけど、それについてはどう思われますか?」


林 
「そんなことはないですね。それもやっぱり、監督の指導という部分が大事だと思います。監督が『ワイドに開いておけ』って言ったら、日本人は規律を守るのでしっかりワイドに開くと思うんです。でも、どちらかと言うと質的優位の部分で違いを作り出せない。例えば[4-3-3]だったら、ワイドの選手が開いておいて、そこで1対1になった時にドリブルやスピードでかわせるかって言ったらまだまだ(難しい)。(マンチェスター・)シティだったらサネとかスターリングとかですからね。そのあたりの違いがあるんじゃないでしょうか」

爆発的なスピードと切れ味鋭いドリブル突破が武器のマンチェスター・シティMFレロイ・サネ


浅野
「日本人の特性というよりは、最後の1対1で勝てるかどうかの質の問題ということですね。先ほどの話にも繋がってきますけど、スペインとか海外のチームはポジショナルプレーができていて日本(のチーム)ができていないというところで、選手個人の戦術理解度が根本的に劣るのかというと、実はそこまで変わらないんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか?」


林 
「最初からわかっているかどうかで言うと、わかっていないのは日本人の方が多いと思います。今シーズン途中までいたカルロス・マルティネスと話した時に、スペインは小さい頃から戦術的な要素の練習も多いと聞きました。そういう部分で、海外の選手には育成段階から染み込んでいるのかな、何にもない状態での戦術的理解度では日本人は劣っているのかなと感じます。でも、監督がどういうサッカーをするかや監督の教え方によっては戦術的にというか、自分で考えなくても適切なポジションを取れるようになるので、監督次第という部分もあると思います」


浅野
「なるほど。なかなか難しい問題ですね。育成からもうちょっと戦術的にやっていかなければならないというのもあると思いますし、監督やコーチがもうちょっと戦術やポジショナルプレーとか、ヨーロッパの最前線で行われているようなサッカーを実現するためのトレーニングだとかを学んでいかなければならないという両方の側面があるのかもしれませんね」


林 
「そうですね」


浅野
「最近、日本だとJ2とかを見ていると特に、戦術的にすごく進んできたなという印象があるんですけどどうですか?」


林 
「そうですね。対戦してみて、大分(トリニータ)とかすごくシステマチックで面白いサッカーをするなという印象ですし、リカルド・ロドリゲス監督の徳島(ヴォルティス)も今年はそんなにこだわってないみたいですけど、すごいポゼッションでボールを持つのが巧いですし。そういうチームが増えているのはありますよね。実際、この前(浦和)レッズと天皇杯で対戦した時に感じたんですけど、やっぱりJ2とJ1の戦い方は違うなって。J2はどちらかと言うと前線からガツガツプレスに来る感じですけど、J1はどちらかと言うとリトリートした中で、入って来たボールに対してはやらせないよ、という戦い方が多い。併せて、ポジショナルプレーをJ1で採用すればまた面白いのかな、また違った良さが出るのかなとも感じました。この前の試合で、ヴェルディはレッズ相手にボールを回せる部分があったし、ボールを握る時間も多かったので」


浅野
「面白いですね。J1だとベガルタ仙台や横浜F・マリノスなどがそうでしょうか。仙台は頑張っていますが、なかなかすぐは結果が出ないサッカーなんでしょうしね」


● ● ●

中編へ続く


Ryohei HAYASHI
林 陵平(東京ヴェルディ)

1986.9.8(32歳) 186cm / 80kg FW JAPAN

東京都八王子市生まれ。東京ヴェルディの下部組織でジュニアからユースまで過ごした。05年に明治大へ進学して頭角を現し、大学3年の07年関東大学サッカーリーグで43年ぶりの優勝に貢献した。その年の天皇杯では4回戦まで勝ち進み、京都サンガから1得点、清水エスパルスから2得点を挙げる快挙を達成した。大学卒業後、09年に古巣の東京ヴェルディに加入したが、翌年に柏へ移籍する。12年7月からはレンタル、翌13年シーズンより完全移籍でモンテディオ山形に加入。17年に水戸へ活躍の場を移し、チーム最多の14得点を記録した。プロ10年目となる節目の今季、東京ヴェルディへ復帰を果たした。
Twitter:@Ryohei_h11 Instagram:@ryohei_hayashi


Photos: Getty Images, Bongarts/Getty Images

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Jリーグフットボリスタ・ラボ東京ヴェルディ林陵平

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フットボリスタ・ラボ

フットボリスタ主催のコミュニティ。目的は2つ。1つは編集部、プロの書き手、読者が垣根なく議論できる「サロン空間を作ること」、もう1つはそこで生まれた知見で「新しい発想のコンテンツを作ること」。日常的な意見交換はもちろん、ゲストを招いてのラボメン限定リアルイベント開催などを通して海外と日本、ネット空間と現場、サッカー界と他分野の専門家――断絶している2つを繋ぐ架け橋を目指す。