20代での監督デビューで世間をアッと言わせた男が、またしても人々を驚かせた。来シーズンからライバルチームであるRBライプツィヒの監督に就任することを先行発表。異例の決断を受け周囲からは求心力低下を懸念する声が挙がったが、常識破りの指揮官はブレることなく自分のスタイルを貫く。
文 木崎伸也
Julian NAGELSMANN
ユリアン・ナーゲルスマン
ホッフェンハイム 監督
1987.7.23(31歳) GERMANY
今季、ホッフェンハイムは大きな火種を抱えたままシーズンに臨むことになった。現監督のユリアン・ナーゲルスマンが、来年夏にRBライプツィヒの監督に就任することが発表されたのだ。不振に陥った時、チームを去ることが決まっている監督に選手たちが従うかは未知数。前監督のフーブ・ステーフェンスは「緊張感に満ちたシーズンになるだろう」と警鐘を鳴らしている。
ただ、策士のナーゲルスマンならば、この火種すらも逆に利用してしまうのかもしれない。「少しの恐れもない」と言ってのける31歳の指揮官はこう続ける。
「世間は騒がしくなるだろうが、自分の心の平静、そして選手の気持ちを考えて公表することを決めたんだ」
事前に中心選手のオリバー・バウマンらへ電話をかけ、メッセージアプリを通じて全選手に伝えた。バウマンは「とても残念だけど、優れた監督はいつか去るものだ」と理解を示している。そもそも、ナーゲルスマンは今夏レアル・マドリーからオファーを受けながら「まだトップクラブへ行くタイミングではない」と断ったのだ。あと1年間、世界最高の若手監督を留められることをファンは喜ぶべきだろう。
クラブも監督を支えるべく戦力を補強。ウートとニャブリは去ったが、計3300万ユーロをかけてビッテンコート、グリフォ、カシムらを獲得。レンタル先のラピド・ウィーンで急成長した22歳のジョエリントンはブレイク候補になる。各ポジションにレギュラークラスを2人以上そろえ、クラブ史上初のCL本戦に臨む準備を整えた。
当然、今季もスタイルは超攻撃サッカーだ。ナーゲルスマンは自らの構想をより正確に伝えるべく、次々に独自の戦術用語を生み出している。例えば、ビルドアップの時に3バックがV字型になることを「Vの傾き」(Gekipptes V)、攻撃の適切なパスコースを見つけるまで後方でパス回しをすることを「サーキュレート」(Zirkulieren)と命名。さらに、相手のプレスを斜めのサイドチェンジでかわすことは「シフト」(Verlagern)、中央突破が成功した時にサイドから出てくる選手は「ジョーカー」と呼称している。
加えて、攻撃の形を身につけるために「切り替え時に守備側がわざと4秒間守備をしない」という特殊なミニゲームを行うなどして、とにかく「偶然に頼らないサッカー」にトライしている。
ナーゲルスマンは今季の目標として「CLのGS突破」を掲げた。レアル・マドリーのオファーを断った男はCLで旋風を巻き起こし、ホッフェンハイムでの有終の美を飾るのではないだろうか。
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