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セネガル代表を、徹底分析。アフリカらしからぬ戦術スタイルの秘密

2018.06.14

ウルティモ・ウオモが暴く「日本の敵」の正体:セネガル編

詳細な戦術分析でサッカー評論の新たな地平を開拓するイタリアの新世代WEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』は、日本の対戦国をどう分析するのか? そんなフットボリスタからの依頼に応えてくれたダニエーレ・マヌシア編集長がポーランド、コロンビア、セネガルに詳しいUU執筆陣をピックアップし、「日本の敵」の正体に迫ってくれた。セネガルは2002年W杯のキャプテンだったシセ監督の下で、アフリカらしからぬ戦術的アイデンティティを備えたチームに生まれ変わろうとしている。

 2002年の日韓W杯で率いたセネガルを振り返って、ブルーノ・メツはこう語ったものだ。「[4-4-2]や[4-3-3]のチームをピッチに送り出すのに、偉大な監督である必要はない。しかし全員にモチベーションを与え同じ方向を向かせて、1つのチームとして機能させるのは……。サッカーは戦術だけの問題ではない。それを忘れている人々も少なくないが……」。白い呪術師と呼ばれたメツらしい言葉だ。

 そのチームのキャプテンを務めていたのが、現在チームを率いているアリウ・シセ。今大会で指揮を執る2人のアフリカ人監督の1人であるだけでなく、現在アフリカ大陸で台頭しつつある新世代監督の代表格でもある。メツとは対照的に、シセはチームに明確な戦術的アイデンティティを与えることを重視している。タレントに依存する部分が依然として非常に大きいことは確かであるにしても、「テランガのライオンたち」はチームとして1つのスタイルを確立している。プロジェクトの継続性がそれをもたらしたという側面も小さくない。というのも、現在のレギュラー11人中6人は、2012年の五輪代表で主力を担っていたからだ。このチームの助監督がシセだった。

ベスト8に入った2002年日韓W杯のキャプテンだったアリウ・シセ監督。ヨーロッパでプレーしたモダンサッカーを知る男が自国代表の指揮を執り、戦術的なアイデンティティを植え付ける

 シセの目指すサッカーのキーワードは「ポリバレンス」だ。具体的には、チームとしての基本戦略とそれに基づくゲームモデルの枠内で、ポジションチェンジを頻繁に行う流動性の高いスタイル、ということになろうか。とりわけ[4-3-3]、[4-2-3-1]の「サイドのチェーン」、すなわちウイング、MF、SBという3人の流動性と互換性が特徴だ。

 GKの前を固めるのは、大柄で強靭な体格とヨーロッパでの経験を備えた、カラ・ムボジ(アンデルレヒト)、カリドゥ・クリバリ(ナポリ)という強力なCBペア。この2人が不動の地位を築いているのに対し、SBはガサマ(アランヤスポル)、ワゲ(オイペン)、サバリ(ボルドー)、シス(バランシエンヌ)という4人が左右2つのポストを争っている。4人のうち左利きはシス1人だが、左SBには右利きのサバリが起用されることが多い。

 中盤をテクニシャンではなくフィジカルでソリッドなタイプのMFで固めるのは、シセ監督がメツから引き継いだ特徴の1つ。キャプテンで左インサイドMFのクヤテはウェストハム、アンカーのゲイェはエバートンとプレミアリーグの中堅クラブでプレーしており、インテンシティの高いサッカーに馴れている。

マネとケイタのユニークな役割
I compiti particolari di Mane e Keita

 前線にはこのチームの看板とも言うべき2人のサイドアタッカー、サディオ・マネ(リバプール)とケイタ・バルデ(モナコ)を擁している。彼らのスピードと突破力がセネガルにとって最大の武器であることは明らかだが、そのポジション、そして戦術的な活用の仕方は思ったよりも意外性があるものだ。

 マネとケイタの爆発的なスピードとアジリティ、状況判断の速さを生かすためには、サイドに開いた位置で孤立(アイソレーション)させ、そこから突破を仕掛ける形を作るのが最善の策だというのが、一般的な考え方だろう。実際2人はいずれも、テクニックとスピードを生かした1対1のデュエルを好むタイプだ。マネは代表の直近3試合で1試合平均9.5回のドリブル突破を試みているし、ケイタに至ってはそれが17回にも上る。しかし実際のところ、シセが彼らに求めているのは逆サイドでワイドに開いたポジションを取ることではなく、ハーフスペースを占有することだ。彼らのプレーがハーフスペースを起点として中央レーンにフォーカスされることで、ビルドアップにおける中央のパスコースが増えてポゼッションが安定し、チームの重心を上げやすくなるだけでなく、アウトサイドレーンにSBがスムーズに攻め上がるためのスペースが生まれる。これによってラスト30mを攻略する上での選択肢もより増えることになる。

マネはライン際に張りつくのではなく、中に入ってハーフスペースを狙う

 今シーズン、キャリアの中でも際立って大きな節目を経験したケイタ・バルデとマネは、異なる種類の期待を背負ってこのW杯に臨む。ケイタはセネガル代表の一員として、今季移籍したモナコではまだ実現できていないブレイクスルーを果たそうとするだろう。モナコの指揮官ジャルディンは、シセ監督と同様ケイタをハーフスペースを使ってプレーするウイングとして起用しているが、そのパフォーマンスはまだ十分な説得力を持つに至っていない。

 ラツィオ時代と同様、リーグ1でもケイタは左ウイングを務めることが多いが、ジャルディン監督はCFや右ウイングとしても起用してきた。シセ監督にとって、攻撃の重要な駒であるケイタが複数のポジションを経験し、それをこなすために必要な戦術レパートリーを身につけつつあるのは歓迎すべきことだろう。ゴールに向かってダイアゴナル(斜め)に裏のスペースをアタックしスルーパスを引き出してシュートを狙うプレー、縦に抜け出してクロスを折り返すプレーを、左右どちらのサイドでも自在に使い分けられるようになれば、セネガル代表の攻撃バリエーションは大きく広がることになる。

 マネとケイタはしばしば2ライン間でコンビネーションの可能性を探り合う。時にはそれが攻撃をスローダウンさせ、個人技を生かした突破がもたらす危険性を減少させる方向に働くこともあるが、2人がハーフスペースを起点にプレーすることで、SBの攻撃参加を容易にし、攻撃に幅をもたらしていることは間違いない。

インサイドを持ち上がったマネに3人が引き寄せられ、左SBの前方に大きなスペースができる

SBの重要性
L’importanza dei terzini

 ガサマ、シス、ワゲ、サバリという4人のSBはそれぞれ異なる個性を備えているが、共通点が1つある。それは、高い位置でプレーしようとする傾向が強く、そこから縦に抜け出してのクロスを得意としていることだ。このセネガルが作り出す危険な状況の多くは、このサイドアタックから生み出される。

マネは敵最終ラインに引っかかり、ケイタもCB2人に挟まれて動けないが、一見そう思われるほど状況が行き詰まっているわけではない。最もシンプルなパスコース以外に、ゲイェはサイドにボールを展開するという選択肢も持っているからだ。左右どちらのサイドでもSBが裏に飛び出したくてうずうずしている

 セネガルはこのパターンを使って攻めようとする傾向が強いが、それがすべてというわけでは決してない。ウイングがハーフスペースに入り込み、SBが縦に抜け出すという連係は、敵の守備陣形を混乱させ2ライン間にスペースを作り出す。

カーボベルデ戦、1-0のゴール。トップ下のニアングが2ライン間にスペースを見出し、裏を狙う。サコとワンツーで抜け出してゴール

 2002年のセネガルとは異なり、このチームは中盤に戦術眼と創造性を備えた司令塔を欠いている。中盤を構成する3人のMFはいずれも「インコントリスタ」、すなわちボール奪取を主な仕事とする守備的MFという役割に甘んじて、ボールを持った時には最も安全でシンプルな選択肢(多くの場合CBへのバックパス)を選ぼうとする傾向が強い。それゆえこのチームにおける実質的なレジスタ機能はCBのカラが担っていると言うことも可能だ。カラは中盤からの戻しを受けて、中盤までポジションを上げたSB、あるいは前線のウイングにミドル/ロングパスを送り込んで局面を進めようとする。ビルドアップにMF陣が関与する割合は極めて低く、中央ルートを使って攻撃が組み立てられることは皆無に近い。

 後方に人数をかけて守備を固め、セネガル最大の武器であるウイングの力を無力化しようと試みる相手に対して、シセ監督は途中交代で異なるカードを切ることによって対応してきた。その1つが強力なミドルシュートを持つMFを投入して、遠めの位置から積極的にシュートを打っていくこと。予選のカーボベルデ戦、そして南アフリカとの2試合では、ラスト30mの攻略に大きな困難を抱え、3試合合計で放った55本のシュートのうち、16本がエリア外からのミドルシュートだった。

 中盤の控え一番手であるシェイク・エンドイェは、このレパートリーのスペシャリストだ。直近の3試合でエリア外から6本のシュートを放ち、そのうち5本を枠内に収めている。

 MF陣にゲームメイク能力とクリエイティビティが欠如しているという問題に直面したシセ監督は、攻撃の組み立てと展開にバリエーションをもたらし得る人材をチームに加えようと動いてきた。エムバイェ・ニアングの招集もその一環だ。しかしこの招集は、ニアングが育成年代で所属してきたフランス代表にかつて忠誠を誓ったという経緯もあって、セネガル国内では大きな非難を巻き起こした。シセ監督はニアングを[4-2-3-1]のトップ下で起用することで、中盤と前線のコネクションを改善しようと考えている。

セネガルの限界
I limiti del Senegal

 セネガルは予選でたった3失点しか喫していない。クリバリ、カラという圧倒的な体格とパワーを(前者はスピードも)持つCBペアを擁し、高いインテンシティとアグレッシブネスを備えたMF陣の分厚いフィルターによってプロテクトされた最終ラインは、アフリカで最も堅固なユニットの1つだ。実際、この最終ラインは1試合平均で20ものボール奪取を記録している。ただし、2人の絶対的なレギュラーを除くとCB陣の層は厚いとは言えない。SBやMF陣が時おり犯す不注意や集中力の欠如によるミスをそのスピードとパワーでカバーして帳尻を合わせているCBペアのどちらか一方が欠けた場合、シセ監督はクヤテを中盤から最終ラインに下げるという対応を取ることがあった。

 SB陣の攻撃的なプレースタイルがもたらす必然的な結果として、セネガルはサイドの守備に大きな脆弱性を抱えている。特にネガティブトランジション時には、被カウンターアタック、自陣での不用意なボールロスト、いずれのケースにおいてもサイドのスペースを相手に使われて困難に陥ることが多い。

 クリバリはボールホルダーに対して積極的に飛び出す傾向が強く、フィジカル能力の高さを武器に独力で状況を解決するケースも少なくない。しかしもしそこで抜かれてしまうと背後には、高さと強さはあるがスピードとアジリティに欠けるカラ1人しかいないというケースも少なくない。SBが戻り遅れたり、帰陣自体をサボることがしばしばあるからだ。

SBの帰陣が遅れると、このようなピンチになる

 セネガルのもう1つの弱点は、クリエイティビティの欠如にある。自陣に引いてコンパクトな守備ブロックを形成し2ライン間にスペースを与えてくれない相手を前にすると、マネ、ケイタの個人能力に頼る以外にそれをこじ開ける手段を持っていない。

 日本の命運を左右する要素を挙げるとすれば、セネガルが仕掛けてくるであろう激しいフィジカルコンタクトのインパクトに耐えられるかどうか、そして90分間を通して高いインテンシティを保てるかだろう。セネガルは試合の終盤になると運動力が大きく落ちる印象がある。したがって日本は、試合の主導権を相手に委ねても陣形をコンパクトに保って相手にスペースを与えず、エネルギーの消耗を抑えながら戦い、鋭いカウンターアタックで効率良くかつ効果的に反撃しながら戦うことが望ましい。逆に避けなければならないのは、陣形が間延びして相手にスペースを与え、1対1のデュエルによるフィジカル勝負を強いられることだろう。


■ ウルティモ・ウオモが暴く「日本の敵」の正体
コロンビア編
セネガル編
ポーランド編


Photos: Getty Images
Analysis: Fabrizio Gabrielli
Translation: Michio Katano

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FIFAワールドカップセネガル代表

Profile

ウルティモ ウオモ

ダニエーレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。