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放映権料バブル崩壊寸前!? 欧州トップリーグの不穏な兆候

2018.05.21

リーガ会長は強気だが…高騰のツケは払い切れない!スペイン通信事業会社の反乱

金のなる木があるわけじゃないんだから、1年で移籍金が倍になるようなバブルがいつまでも続くわけがない。先日プレミアリーグが放映権料を前回比ダウンで更新したのに続き、リーガでも値引き交渉が始まろうとしている。


 誰もがわかっていた“崩壊の時”が、ついにやって来ようとしている。理屈は簡単だ。放映権料が高騰しクラブが大儲けし移籍金が上がる。だが放映権料を最終的に負担しているのは誰だろう? 有料チャンネルを契約してサッカーを見ている、あなたであり私である。では、あなたと私の収入は倍々ゲームで上がっていますか? そんなことあるわけがない。日本の円安株高による好景気で儲かっているのは株主と企業だけ。失業率が20%を超える私の住むスペインに至っては、そんな見かけだけの好況ですらない。財布の紐が固くなれば真っ先に切られるのは遊興費。もし放映権料上昇のツケを家計に回し続けるなら、スペイン人はさっさと有料チャンネルを解約し、バルでの観戦に切り替えるだろう。

 2つの重要な事実がある。1つ目は昨年6月、CL・ELのスペインでの放映権料(18-21シーズン)が30%アップの11億ユーロ(約1430億円)で落札されたこと。2つ目は今年2月、プレミアリーグの放映権料(19-22シーズン)が減額となる前回比87%で落札されたことだ。一方ではバブルが続き、他方ではバブルが崩壊した。その曲がり角はまさに今だということだろう。


サッカー単体ではすでに赤字

 「入札するつもりはない」と反旗を翻したのは、大手通信事業者3社(『テレフォニカ』『ボーダフォン』『オレンジ』)である。

 CL・ELの放映権料を落札したのは、リーガでも放映権を握る『メディアプロ』(とその子会社『beIN Sports』)だが、彼らは自前の放送システムを持っていない。試合中継を家庭に届けるには、通信事業者3社の衛星放送、またはケーブルテレビのチャンネルが要るのだ。スペインではサッカーは最強のコンテンツ、つまり顧客獲得の手段なのだが、「サッカー中継からの撤退もあり得る」(『テレフォニカ』)とかつてなく強硬な姿勢なのは、「サッカー単体ではすでに赤字。放映権料が高騰し採算が取れない」(同社)からだ。

 『テレフォニカ』の試算によると、サッカー単体で採算を取ろうとすると、1人月額60ユーロ(約7800円)を徴収せねばならない、という。だが、こんなに払う人がいるわけがないので、実際にはサッカーパック(CL・EL、リーガ、コパ・デルレイ)は月額20ユーロ(約2600円)ほど。その差額40ユーロは、同時に契約する固定電話、携帯電話、インターネットの通信料に上乗せしてねん出する仕組みになっている。私のサッカーパックの値段は月20ユーロほどで通信料は60ユーロほどだから、まさに採算モデルに則っているわけだ。もっとも、私は観戦が仕事で月30試合以上は見ているので、ある意味“元は取れている”が、贔屓チームの中継を週1、2試合見るだけという一般のファンには、コミコミで月80ユーロの負担は限界に近い。


OTTの参入は時期尚早

 一方、30%アップでCL・ELを落札済みの『メディアプロ』はもちろん、リーガの放映権料を販売するプロリーグ協会(LFP)も強気の姿勢を崩さない。

 CL・ELの契約が終了する今シーズン中に次回の契約(18-21シーズン)を結ばないといけない『メディアプロ』は、すでに入札をスタート。4月下旬までに赤字にならない最低30%アップの線での落札を見込んでいる。狙い目は、通信事業者3社の足並み。普段は熾烈な顧客の奪い合いをしている彼らに、1社の独占契約や2社の寡占契約をチラつかせれば容易に切り崩せると踏んでいる。

 1年後に次回の契約(19-22シーズン)を更新しなければならないリーガはまだ入札をスタートしていないが、LFPのテバス会長はさらに強気で、契約金額を現在の26億5000万ユーロ(約3445億円)から約47%アップの39億ユーロ(約5070億円)に押し上げる、とぶち上げた。もちろん、テバスの耳にも通信事業者3社の入札拒否の意向は入っているが、「買いたくないなら買わなくていい。我われは別の道を探す」と言い放っている。

 「別の道」とはオーバー・ザ・トップ(OTT)のこと。『Netflix』や『HBO』のようなストリーミングを使った配信サービスを活用し、インターネットで試合を流せば通信事業者のチャンネルは不要、という理屈である。だが、技術的には可能でも、2年後に誰もがPCで試合観戦する時代が来るとは思わない。若者向けのOTTはサッカーファンをカバーし切れない。だからこそ、世界最優良コンテンツであるプレミアリーグですらOTTは一つも手を挙げなかったのだ。

 リーガの新放映権料が現状を下回ればバブル崩壊への決定打となる一方、負担に苦しむ視聴者にとっては朗報かもしれない。

「エイバルに日本人選手がいるのなら、クラブは最大限にそれを利用すべきだ」という発言もある“ビジネスの鬼”テバス会長(右)。リーガの国内放映権料のこれ以上のアップが見込めないとすれば、海外で埋め合わせしようとし、そのしわ寄せが日本にくるかもしれない。一方で、スペインでのダウンを材料に値下げ交渉を進められる期待もある。いずれにせよ、日本の放送関係者もリーガの契約更新の行方を見守っていることだろう


Photos: Getty Images

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ハビエル・テバスリーガエスパニョーラ放映権料

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。