パリ出場国で唯一オーバーエイジを使わなかったU-23日本代表だが、グループステージ(GS)を3戦全勝で首位通過。7得点0失点という完璧な内容だった。「今回の試合内容から得られたフィードバックはU-23組だけでなく、A代表にも活かされる」とは、らいかーると氏の弁。森保ジャパンへのヒントも提示した大岩ジャパンの“戦術的勇敢さ”を注目のスペイン戦を前に総括してみたい。
今回のU-23はA代表の課題を先取りしている
U-23代表はA代表の文脈をどこまで意識しているのだろうか。
今が春を謳歌しているA代表。アジア最終予選で手に入れた[4-3-3]と[4-2-3-1]をミックスさせながら、意気揚々とカタールW杯を迎えていた。しかし、本大会の相手はボール保持に傾倒するドイツやスペインだった。彼らを相手に森保一監督の伝家の宝刀である[3-4-2-1]でハイプレッシングによる奇襲に成功したことは記憶に新しい。一方でコスタリカ戦やクロアチア戦で露呈してしまったように、ボールを保持して相手を崩すことには課題が残る大会となった。
カタールW杯後は、欧州組の意見を取り入れながら様々な表情を見せるようになっているA代表。直近の試合では[3-2-5]をベースとするボール保持にチャレンジしたかと思えば、4枚のCBを並べる欧州で流行している形を採用している。まるで色を変えることを楽しんでいるカメレオンのように、自分たちにとって最適な色を探す日々をA代表は過ごしている。
そんなA代表の課題は、どんな強豪を相手にしても、多少はボールを保持する時間を作れるようになる、だ。理想を言えば、ボール保持率60%を超え、ハイプレッシングと素早い攻守の切り替えで、常に自分たちのターンを延々と続けるような試合展開かもしれない。
しかし、現実はそんなに簡単でもなければ、机上の空論を現実にすることはまだできない。だからといって、ボール非保持の時間をプレッシングに緩急をつけながら延々と過ごすこともまた辛いものがある。だからこそ、多少はボールを持てるようになることで、試合の流れをコントロールできるようになることが、W杯で安定的な結果を手に入れる道しるべとなるだろう。
そのためにこだわる必要があるデータが、パスの成功率となる。ボール保持率が40%付近でもパスの成功率が80%を超えるような試合は、自分たちがボールを持っていた時間があることを密かに示すデータとなるからだ。
さて、枕が長くなったが、今回のU-23代表の試合を振り返る上で、A代表の文脈を共有することは非常に大切だ。五輪代表がA代表の下部組織なのかは定かではないが、同じ世界と戦い、A代表を目指すであろう選手たちを日本人監督が率いている状況で、両者の文脈が乖離することはできる限り避けるべきなのではないだろうか。では、上記の内容を頭の片隅に置きながら、グループステージの3試合を振り返っていきたい。
モダンな[4-3-3]で実現した高いパス成功率
U-23代表のボール保持の配置は、[4-3-3]をベースとしている。カタールW杯最終予選で、A代表がオーストラリア戦から採用した配置に非常に似ている。相手がよっぽどのハイプレッシングに来ない限りは、GKとCBから丁寧に繋いでいくことが求められている。
試合の序盤戦は[4-3-3]の立ち位置を守りながら、相手を観察しているように見える。CB同士のパス交換に怯える様子もない。相手のプレッシングによって、徐々に選択肢を削られてしまった場合は、小久保玲央ブライアンにボールを戻してリセットすることを何度も繰り返している。おそらく、相手がハイプレッシングで来るならば、小久保玲央ブライアンやCBコンビからロングボールが繰り出される論理的な流れを採用している雰囲気はあるが、「時間帯に関係なく、相手が来なければ基本的に繋ぐ姿勢」を、チームとして勝負よりも大事にしていることを示唆している。
中盤の3センターの組み方は、現代的でJリーグでも流行っている形だ。
アンカーに藤田譲瑠チマ、インサイドハーフにセントラルハーフとアンカーをこなせる山本理仁、もう一方のインサイドハーフにはアタッカーやトップ下色の強い三戸舜介や荒木遼太郎が起用されている。インサイドハーフに同じような役割を与えるのではなく、グラデーションを与えることが特徴と言えるだろう。
藤田譲瑠チマがアンカーの位置から移動したとしても、山本理仁が補完する関係性は理に適っている。このように、アンカーとインサイドハーフの移動によって、[4-3-3]と[4-2-3-1]を行ったり来たり、もしくは前線の流動化のスイッチとなったりすることで、ビルドアップの出口を作ることをU-23組は得意としている。
サイドレーンでは、トライアングルによる崩しが多く見られている。……
Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。